第17話

「隠し部屋か?」


「それともこれが正規のルートか」


「なるほど。必ずしもNM部屋とは限らないということか」


 ローリーが正解のルートかも知れないと聞いて頷く3人。今まではこのパターンの場合は100%NM部屋に続いていたがここ大森林のダンジョンではこれは初めてのパターンだ。NM部屋と決めつけるのは早い。


 ランディは今のローリーの発言を聞いて流石ローリーだと感心していた。今までのパターンから見ればこれはNM部屋に繋がっている階段。そう思い込んでしまうところだが彼は違う。常に冷静に状況を判断して予断を持たない様にしている。


 このフロアの最初だって普通なら目の前に口を開けている大木の幹があり、周囲が草原しかないと見れば誰だってその中に入っていくだろう。ただ彼はそれでも違和感を見つけてそれを確認しようとする。大木の中に入っていったらどういう結果になったのかは分からないが草原を歩いて結界を越えてこの地まで来ているという事実を見ればローリーの判断が間違っていたとは思えない。


 マーカスとローリーのそんなやり取りを聞きながらそう感じていたランディがハンクを見ると彼も同じ様に思っていた様で視線が合うと肩をすくめる。お手上げだよといったポーズだ。


 階段を降りる前にしっかりと休養を取る。この下がNM部屋でも正規のルートであってもいずれの場合でも戦闘が無いと言うことは考えられない。休める時にしっかりと休むという基本を徹底している4人だった。



 休養をとって体力を回復した4人は小屋の中にある階段を降りていく。ランディ、ハンク、マーカス、最後にローリーの順で20段ほどの階段を降りた。降りたところから通路が前方に伸びているが壁に灯りがあるので視界は悪くはない。


 前を歩いていたランディが片手剣を持っている右手を横に広げた。止まれの合図だ。


「何かいる」


 それを聞いたローリーがランディ、ハンク、マーカス、そして自分の順に強化魔法をかける。通路の先が明るくなってきた。ゆっくりと進んでいくと洞窟の先に広場がありそこの灯りが届いていたのだ。その広場の奥にはトレントが3体。今は動いていないがその場で止まっているのが目に入ってきた。


「やっぱりNM部屋か?」


 ランディの後ろから広場を見たハンクが言ったがランディが首を左右に振って言った。


「違うぞ。あいつらはNMで間違いないが部屋の奥を見ろ、通路がある」


「本当だ」


「あのNMのトレント3体を倒さないと奥に進めないということだな」


「そうだろう。あの3体のヘイトがどうなってるかだな。見る限りSSランク。易しいNM戦じゃない。ただ3体のヘイトが連動しているのならいける。ランディにがっちりと食い止めてもらいながら順に倒していける。もしヘイトが連動していなかったら俺たちは広場に出ない。背後から俺とマーカスが遠隔攻撃でちまちま削る。ハンクは最後の1体になるまで待機してくれ」


 3体のトレント見た瞬間に作戦を考えたローリー。普通ならヘイトは連動しているがそう決めつけてハンクが攻撃した時にもし1体でもハンクに襲いかかってきたらグダグダになるのは見えている。慎重に対処すべきだ。何と言っても48層なのだから。


 ランディ1人が広場に降りていくと、3体のトレントが動き出した。中央のトレントに挑発スキルを撃つと左右の2体もランディに向かってきた。それを見ていたローリーが叫ぶ。


「ヘイトは連動してる。ランディ頼むぞ、中央のから倒そう」


 任せろというランディの声と分かったというハンク、マーカスの声がかぶさる。中央と聞いてハンクが3体の背後に周って背後から真ん中のトレントに片手剣を振り始めた。マーカスは精霊の弓で連射して体力を削っていく。3体のトレントは左右の蔓でランディに攻撃を仕掛けてくるがそれを神龍の盾で受け止めながらリキャストごとに3体に順に挑発を入れてタゲをキープしていた。


 彼の持っている能力プラス頑丈な盾とアーマーで3体、6本の蔓の攻撃を大きなダメージを喰らうことなく捌いていく。装備が優秀なのは当然だが6方向から不規則に襲ってくる蔓を交わし、受け止め、いなすというのは簡単ではない。ランディだからこそできる能力だ。


 ローリーはそのランディの体力を回復しながら精霊魔法で攻撃する。


 1体目のトレントが倒れると、それが光の粒になる前にランディが右のトレントのタゲをとった。3体が2体になるだけでランディの受けるダメージがグッと減り、それに伴ってローリーが精霊魔法を撃つ回数が増える。2体目、そして3体目と倒して全てのトレントを倒すと広場には何もいなくなった。


「宝箱が出ないのか」


「NMじゃなかったのか?」


 ランディとハンクがそう言っている中、


「とりあえず奥の洞窟に行ってみよう」

 

 ランディがそう言って4人が奥の洞窟に入って30メートル程歩くとそこは行き止まりになっていたがその行き止まりの壁の前に宝箱があった。


「あの3体を倒さないとこの広場の奥の洞窟には入れない様になっているんだな」


 行き止まりの壁の前、土の上に鎮座している宝箱を見ている4人。

 ローリーはその宝箱を見ながら何故倒したところに出てこないのだろうかと考えていた。奥の洞窟は見てみたが仕掛けがない。本当の行き止まりになっている。


 本当にマーカスの言っている通り、3体倒して奥の宝箱を取るだけなのだろうか。そう考えていると自分を呼ぶ声がする。


「ローリー、開けるぞ」


「ちょっと待ってくれ」


 ランディの言葉にそう言うと宝箱のある場所から洞窟の入り口まで戻って広場をみてみるがそこには何もなかった。倒したトレントがREPOPしている訳でもない。考えすぎだったかと再び奥に戻ると3人だどうしたんだと言う顔でローリーを見ている。


「悪かった、OKだ」


 ローリーがそう言うとランディが宝箱を開けた。

 宝箱の中には金貨と何かの根の様なものが入っていた。


「これはトレントの球根とは違うぞ」


 箱に入っていた根を一眼見てそう言ったローリー。


「確かに違う。見たこともないアイテムだ。アラルの鑑定が必要かもな」


 ローリーは金貨と根を収納に収めた。金貨は100枚入っていた。中身を全て取り出すとしばらくすると宝箱がその場から消えた。





「何だと?」


 ランディが素っ頓狂な声を出したその前には広場に4体のトレントが鎮座している。トレントのランクはSSで変わっていないが数が増えていた。洞窟の奥から広場に戻ってきた4人の目の前にの広場にトレントがPOPしている。


「ローリーが気にしてたのはこれだったのか」


「おそらく宝箱を開けるのがトリガーになっているんだろう。開けないと広場にREPOPしない。開けるとREPOPして数が増える」


 ローリーはやっぱり仕掛けがあったかと広場を見ている。隣に立っているマーカスも前の広場を見ながら言った。


「それにしても色々考えてくるよな。まぁ倒すんだけどさ」


「その通りだ。やることは変わらないぞ」


 ランディがそう言って左から2番目のトレントに挑発スキルを発動させると4体のトレントがこちらに集まってきた。ハンクがその横をすり抜けると先ほどと同じ様にトレントの背後から攻撃を開始する。


 時間はかかったが4体のトレントを全て倒すと何も言わずとも4人全員が洞窟の奥に進んでいった。


 突き当たりの壁の前、そこには宝箱があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る