第16話


 一列になって歩いている4人。1時間ちょっと歩いた時、先頭を歩いていたランディがふっと消えた。続いて2番目に歩いているマーカスも消えた。ハンク、ローリーが歩いていると一瞬全身で小さな抵抗を感じたと思ったら次の瞬間には目の前の景色が全く変わっていた。ローリーが現れるとその場にいたランディが言った。


「結界で隠していたのか」


「ローリーの読み通りだったな」


 そう言うハンク。4人の視線の先には鬱蒼としたジャングルが立ちはだかっていた。今自分たちが立っている場所は草原だが、そこからから20メートル先からジャングルになっている。


「これが正解のルートか?」


「だとしたらあの木の幹に開いていた穴はどうなるんだ?」


 マーカスとハンクはそう言ってから顔をローリーに向けた。ランディも同じ様に彼に顔を向けている。


「あくまで俺の予想だが」


 そう言ってローリーが自分の考えを言う。結界を越えて目の前に出たジャングルの風景を見て思いついた仮説だ。


 彼の仮説はあの幹に入っても結局最後はこのジャングルのどこかに飛ばされたんじゃないかと言うことだ。


「まだこの先に49層に降りる階段があるとは限らないが、仮にそうだとすると木の幹に入ってもいずれはここに飛ばされたのだと思う。ただ木の幹の中にはSかSSランクの魔獣が徘徊していたんじゃないかな。中は見ていないが螺旋状に上に登っていく感じがしていた。そしてあの高さだ。ここに飛ばしてくる転送盤は相当上にあるんじゃないかと思う」


「なるほど。つまりここに来るまでにきつい戦闘を何度も繰り返す必要があった可能性があるということだな」


 ランディの言葉にそう見ていると答えるローリー。ひょっとしたらあの木の幹の中には安全地帯も無いのかもしれない。そう言うと48層ならあり得る話だと頷く3人。


「あくまで予想だよ。ひょっとしたらあの木の幹にはNMがいてそいつを倒さないと転送できないのかも知れない。色々考えられるけどおそらく今歩いて来たルートが正解なんじゃないかと思っている」


 最初に大木を見て、そして周囲が草原で移動できるとわかった時点で木の幹に突撃すれば良いという単純なルートではない気がしていたローリー。


「いずれにしてもだ。ここからは本気モードでいかないとやばいぞ。48層が簡単にクリア出来る訳がないからな」


 ランディがそう言ってメンバーの気を引き締める。


 目の前のジャングルには獣道の様な土の道が数本、奥に伸びている。どれが正解なのかそれともどれも不正解なのかは分からない。一度結界から外にでてしっかりと休もうというローリーの言葉で全員が背後に戻るとそこは360度草原だった。


「見事な結界だな」


「ああ。魔法じゃ無理だ。全く分からなかった」


 これもダンジョンの不思議の1つなのだろう。


 安全な草原で食事をし、交代で仮眠をとる。これから先が読めないが自分たちはショートカットしてきたと考えると身体は楽だが、一方でここまでの時間が分からない分、これから先の時間が読みにくいというデメリットもある。


 そのデメリットを出来るだけ軽くするにはしっかり食べて、しっかりと休む事しかない。メンバー全員がそのことを理解していた。



 行こうかというランディの声で再び結界を越えた4人。目の前の風景は変わっておらず、鬱蒼としたジャングルが広がっていた。ローリーの強化魔法を受けた3人がジャングルに入っていく。獣道はどれが正解か分からないので先頭を歩くランディに一任だ。


「右前方」


 ローリーが声を出した。すぐに右の前方からフォレストタイガーと呼ばれる大柄な虎が襲いかかってきたSSランクだ。ランディが挑発スキルを発動する。前足の蹴りをしっかりと受け止めるとハンクとマーカスが剣と弓で攻撃を加え、ローリーが精霊魔法を撃つ。

1分もただずにSSランクを倒した彼らは再び奥に進んでいった。


 その後も左右からランクSSの魔獣が襲いかかってくるがそれらを倒してジャングルの中を進んでいくと進行方向の左前方に池が見えてきた。大きな池の中に小島が浮いており、その小島には小屋が見えている。ただ周囲を見た限り小島に渡る手段がない。池の端から小島までは短いところでも10メートルはある。


「池にも魔獣がいるぞ」


 池の淵に立っていたハンクが言った。Aランクの魔獣の魚が池の中を泳いでいるのが目に入ってきた。かなりの数だ。彼らは水の中から飛び出して標的に噛みつき、池に落ちたところを集団で食い尽くす習性がある。1体1体はAランクで強くないが非常に攻撃的でやっかいな魔獣だ。今も淵に立っていたハンクに向かって数匹が池の中から飛び出してきた。それらを片手剣で一閃すると淵から少し離れる。


「ジャングルの木を倒して橋を作るか」


「それしか無いだろうな」


 そう言い合うマーカスとランディ。話をしながらも周囲の警戒は怠らない。木を切ると言っても長さが10メートル以上の木となると大木だ。


「俺に任せろ。周囲の警戒は頼む」


 3人が周囲を警戒する中、ローリーは池の近くに生えている大木の根元にしゃがむと指先から風の魔法を飛ばして木をゆっくりと切っていく。魔法を点に集中させて切れ込みを入れていくローリー。時折3人の声が聞こえるのはおそらくSSクラスの敵を倒しているのだろう。あの3人なら大丈夫だ。


 集中してゆっくりくの字に切れ込みを入れ、最後に足で幹を蹴飛ばすとミシミシと音を立てて周囲の木の枝や葉を巻き込みながら大木が倒れていった。


「見事だな」


「斧や剣で切るともっと時間がかかるし綺麗に切れない」


「流石に賢者ローリーだ。普通の精霊士だと無理だろう」


 魔法を一点に集中させて木を切ることが簡単ではないことを知っている3人。3人が感心している中、今度は風魔法で大木を少し浮かせるとそのまま池の端から池の中の小島に向かって伸ばしていく。木の先端部分が小島に届いた。枝が池に落ちるとそこらじゅうにいた魚の魔獣が池の表面をジャンプするのが見える。簡単な作業に見えたが相当難易度が高いのはローリー以外の3人には分かっていた。普通なら絶え間なく襲ってくるランクSSを相手にしながら木を切る必要がある。そして切った後もそれを小島にまで渡す作業も簡単ではない。



 ランディを先頭に太い大木の上を歩いていく。池から飛び出してくる魚の魔獣はランディとハンクが片手剣で次々と倒して10メートルほど歩いて大木から小島に飛び移った。


 小屋に魔獣がいないことは池の端からサーチをしたマーカスの報告で知っている4人はゆっくりと小島の中の小屋に近づいていった。ローリーも気配を感じない中、ランディが扉を開けた。


 小屋の中は何もなくてガランとしていたが床の1箇所の床板が外れていて、下に降りる階段が見えていた。

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