第15話
クイーバの大森林のダンジョンを攻略中のローリーらは46、47層をクリアし、休養明けのこの日は48層に飛んだ。46、47層はジャングルの中を敵を倒しながら進んでいく力技のフロアだった。力技とはいっても出てくる魔獣はランクS、それが3体、ときに4体と同時に襲ってくる。大森林のダンジョンは視界が悪いせいか力技で向かってくる敵を倒しながら進んでいくフロアが多い。
こちらは4人とは言え元々脳筋寄りのパーティだ。ハンクやランディ、そしてマーカスも力技で攻略するフロアには滅法強い。次々と襲いかかってきた敵をこれまた次々に倒しながら奥に進んでフロアを攻略して48層に辿り着いていた。
休養日前に階段から見た48層は今までとは趣が異なり階段の先がジャングルではなく洞窟になっていた。階段からは出口は見えない。流砂のダンジョンで背後の扉が閉まって戻れなくなったこともありそのときはその場から地上に戻ってしっかりと休養をとった。
行こうかというランディの声で洞窟を進み出した4人。洞窟を歩き始めると後ろで壁が動いて扉が閉まる音がした。
「流砂のダンジョンと同じか」
「予想はしていたけどな」
マーカスの言葉に答えるランディ。彼らはこのトリックは経験済みだ。ローリーはもちろんだが他の3人も階段から伸びている通路、洞窟を見た時点で準備もなく進むのはまずだろうと思っていたので焦りはない。
洞窟が抜けるとジャングルだろうと思っていたが48層は違っていた。カーブしていた洞窟を出るとそこにはとてつもなく大きな木、大木が1本だけ生えていてその周囲は草原で全く何もない。その大木の根元には穴が開いている。
「あの中に入るということか?」
洞窟を出たところで立ち止まった4人。目の前の風景を見てランディが言った。
「普通ならそうだろうな」
「普通なら?」
ハンクはローリーの方に顔を向けて聞いてきた。その言葉に頷くローリー。
「普通に考えたらハンクの言う通りにあの開いているところから木の中に入っていく」
「それで、ローリーの考えは?」
やり取りを聞いていたマーカスが言った。
「うん。あの木の幹に開いている穴にはいつでも入れる。その前にあの大木の周辺を探索してみないか?何もないかも知れないが、何かがあるかも知れない。もちろん敵がいるかも知れない」
大木の後ろ側は見えないが左右を見ると草原が広がり、ダンジョンの中に爽やかな風が吹いていた。草原の中に所々にポツンと木が生えているが高さも5メートル程の低い木ばかりだ。
面白そうじゃないかと3人が賛成したのであの穴に入らずにまずは大木の周囲を見て回ることにする。
「流石にダンジョンにある木だ。1周するのにえらく時間がかかるぞ、これ」
歩き始めるとすぐに先頭のランディが言った。確かにでかい。地上では存在しない大木だ。メンバーは木の周りの草原を警戒しながら歩き、ローリーは伸びている大木の上の部分を見ていた。木の先は雲の中にあって見えないが雲の下から見る限り、大木の枝が四方八方に伸びているのが見えた。
木の根元付近を1周するのに数分かかってようやく入り口に戻ってきた。大木の周辺は根元付近に違和感は感じられない。
大木には外から見る限り違和感はない。もちろん木その物がとんでもなく大きいというのはあるがこれはダンジョンの不思議であって違和感とはならない。
4人は今度は草原を歩き出した。木は1本も生えておらず緑の芝生の様な草原の前方は丘になっていた。大木から数分歩くてその草原の丘の上に立った4人は横に並んでそこから前方を見る。
「どこまでも草原だな」
「しかも魔獣というか敵の姿が一切見えない」
顔を前に向けたままでランディとハンクが言った。彼らの視界の先はほぼ360度に渡って草原が広がっており、遥か彼方に地平線が見えている。後ろを振り返ればそこには天に突き出ている様な大木が1本だけ生えていた。
「やっぱりあの大木の幹の中を登れということじゃないか?」
ローリーと同じく背後を振り返っているマーカスが言った。
「だとしたらこの草原の意味は? 階段を出てすぐに大木の幹への穴が続いていてもいいんじゃないのかな」
ローリーはまだ確信はないが何かがおかしいと感じていた。
「敵もいないし、ちょっと座ろうか」
ローリーの雰囲気を察したランディが言って草原の起伏の上で4人が車座に座った。こうすると全方向を見ると同時に仲間の顔も見られる。その仲間3人がローリーに視線を向ける。
「言った通り本当にあの大木に登る必要があるのならこの草原の意味が無い」
「逆にそう思わせる罠かもしれないぜ」
ハンクが言うとその可能性もあるんだよと彼の言葉を素直に認めるローリー。車座に座って水分を補給しながらこれからどうするかと話をする4人。ただランディ、ハンク、マーカスの3人は最後はローリーの結論に従うと決めている。
「もう少し草原を進んでみてもいいかな」
「俺はOKだ。ローリーが納得するまで見てくれて構わない」
ランディが言うとハンクとマーカスもそれで良いと言う。ありがとうと言ってからローリーが3人を見た。
「大木の周りは草原だ。穴に入る前にちょっと見てみようか、こんな感じで偵察にでるとちょうど草原の全貌が見渡せる丘の上、つまりこの場所にやってくる。そして周囲を見て何もないな、やっぱりあの大木だと戻っていく。これが普通のパターンだと思うんだが」
「つまり今の俺たちのパターンだな」
その通りだとランディを見て言う。
「つまりダンジョンの意図としてはここまで偵察というか様子を来ることは想定しているはずなんだ。それでこの風景を見せて、ここから大木のところに引き返さそうとしていると思うんだよ」
3人は黙って聞いている。ローリーも3人に話しながら頭の中を整理していた。
「あの大木の中がどうなっているのかわからない。ひょっとしたら中に入ると扉が閉まってもう大木から出られないかもしれない」
そう言うと、今も入り口の洞窟がそうだったし、流砂のダンジョンのあの雪山登山をしたフロアもそうだったなとマーカスが言った。そうだと言ってから話を続ける。
「だからあの幹に開いている穴に入る前に可能な限り他の場所を調べてみたい。具体的にはあの地平線に向かって歩いて行こうと思っている。何も無いのならなかったというのを確認したい。草原に魔獣が全くいないというのも気になっているんだ」
確かにこのフロアに降りてからはまだ魔獣の姿を見ていない4人。48層じゃあり得ないと考えるのが普通だ。話し終えたローリを見てランディとマーカスが言った。
「俺たちは今まで作戦についてはローリーに任せてきた。それで何度も助けられてる。今回も従うよ」
「そうだな。ローリーの気が済むまでやってくれていいぞ」
ハンクもそれで行こうと言い、4人は立ち上がると起伏を降りて草原をまっすぐに進み出した。一列になって歩いて全員が左右を警戒しているが全く魔獣の気配がない。ローリーは最後尾を歩きながらこれは絶対におかしいと感じていた。
何か罠があるはずだ。あの大木にいきなり入るのが正解のルートだとは思えない。そう確信めいたものを持っているがこうして歩き出すとその確信が間違いないと思う様になっていた。地獄のダンジョンの最下層部が単純にルートを示してくるとは思えないからだ。
今まで攻略した他のダンジョンではそうだった。挑戦者を痛めつけようと様々な仕掛けを施してきている。この大森林のダンジョンはこれまで比較的単純な罠しかない。龍峰のダンジョンもその傾向はあるがあちらはどのフロアでもドラゴン系の魔獣が徘徊して冒険者に襲いかかってきた。ここはそれほど力技を全面に出している訳でもない。かと言って知力を要求されるフロアも多くない。
48層までは地獄のダンジョンとは言ってもここはヌルいのではないかと考えていたローリーだがこのフロアに来てその考えが違っていたことに気がついた。
絶対に何かある。地獄のダンジョンがヌルいはずがない。
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