第2話

 翌日カイとケンが宿にやってきた。聞くと彼らはこの街に家があるらしい。2人とも独身なので実家に戻っていたんだと言う。


「この国では武器や防具は買わないという話だったがそれでいいのか?」


「ああ。ポーションだけは買い足しておこうかと思ってる」


 ランディが言うとじゃあ薬屋に行こうと4人でアマノハラの市内を歩いて薬屋を目指す。通りに並んでいる建物も大陸にはない造りをしていて見ているだけでも面白い。


「あれは何なんだ?」


 ローリーが指差した先には木で組まれた櫓が立っている。高さは10メートル程か、城壁の周囲にあればあれは見張り台だとわかるが街のど真ん中にそれは立っていた。


「あれは火の見櫓という。火事が発生した時に早期に発見してあの上に吊るしてある鐘を鳴らすんだ」


 確かにツバルの家は木造の家ばかりだ。何かの拍子で火が燃え移ったら火事になるだろう。


「住民は木造の家に住んでいるから皆火の取り扱いには細心の注意を払っているのさ」


 お上りさんの様にきょろきょろしながら街の中を歩いていると前を歩いているカイとケンが1軒の店の中に入っていった。ここが薬屋の様だ。


 このツバルでは当たり前らしいがほとんどの家、店の屋根は斜めになっていてその屋根の先端は玄関の先まで伸びている。仮に雨が降っても玄関、店先が濡れない様になっている様だ。生活の知恵なのか良いアイデアだなと突き出ている屋根を見て店に入ったローリー。


 顔馴染みなのか中ではカイとケンが店主の女性にポーションを買いに来たんだよと言っいる声が聞こえてきた。店主は40代後半か50代前半くらいか。ツバルの人は総じて若く見えるので実際の年齢はわからない。彼女はカイとケンの後から入ってきたランディとローリーを見ると店にやって来た目的がわかった様だ。ツバル人以外の冒険者がこの国にやってくる来る目的はほぼ100%この国の地獄のダンジョンへの挑戦だ。


「地獄のダンジョンの攻略かな。ならポーションはたっぷりと持っていった方がいいわよ。見る限り後衛が一人ね。MPポーションも持っていったらどう?」


「そうしよう。あるに越したことはないからな」


 前衛3人はポーションを、ローリーはMPポーションを購入する。薬品を買ったあとは市内で食料と水を買い込んではローリーの収納に次々と放り込んでいく。


「どれくらい入るんだ?」


「さぁ、測ってみたことはないけど。俺がトゥーリアからネフドに来た時に買い込んだ食料もまだ残っている。4人で数ヶ月、いや半年分くらいの食料と水はあるぞ。もちろんまだ余力は十分にある」


 ランディはローリーの収納が半端なく大きいというのを知っているので当然だなという顔をしているが忍のカイとケンは今の話を聞いて驚いた表情になる。


「凄いな。俺たちが持っている魔法袋よりもずっと容量が大きい」


 魔法袋も容量はあるが中では時間が経過するので新鮮な食料品を長期間保管できない。


「それならダンジョンで飢えることもなさそうだ」


 ケンとカイがほぼ同時に言った。


「そこは心配しないでくれ。俺が死なない限り大丈夫だ」


「何があってもローリーを守らないとな」


「頼むぜ」


 買い出しを終えた4人は市内のレストランで遅めの昼食兼早めの夜食と摂りながら打ち合わせをする。明日の昼過ぎの船で東の島に向かうことになった。船の切符はすでに買ってあるという。


「この街から船で2時間程だ。なので明日は島に着いてそのまま宿に入ることになる。ダンジョン攻略は早くても明後日からだな」


 カイの話を聞いているローリーとランディが頷いた。いよいよだ。2つ目の地獄のダンジョン、別名火のダンジョンの攻略だ。


「この街のギルドで情報を収集してきた」


 そう言ってケンが話し出した。今ではケンも普通に他の3人と話をする関係性になっている。ケンが言うには現在火のダンジョンを最も深くまで攻略しているパーティで26層だという。


「それをローリーから聞いて驚いたんだよ。忍だからもっと行っていると思ったがな」


 意外だという表情でローリーが言った。


「リモージュの流砂のダンジョンで一番攻略が進んでいるパーティが30層だと聞いた。それに比べるとまだまだ進んでいない気がする。難易度が高いのか?」


 そう言ったローリーを見たケン。


「もちろん難易度も高いだろう。それよりも船の時にも説明したがこの街には優秀な魔法使いがいない。それが攻略の難易度を上げているんだ」


「なるほど」


「他の国から冒険者がこのダンジョンには来てないのかい?」


 ランディが言うとカイが顔を彼に向けた。


「過去から来ているし今も数組いるらしい。ただ聞いている話では攻略組みといいながら実際は20層あたりで宝箱やドロップ品を狙っているって話だ」


 地獄のダンジョンは難易度が高い分事故が起こりやすい。下に降りていけばいくほどその確率が高くなる。ただダンジョンのドロップアイテムについては他のダンジョンではでないレアなアイテムが出る確率が高い。そしてレアアイテムが出るのは20層から下だと言われている。


 20層までたどり着いた時点でそこから先の攻略が厳しいと感じたパーティの中には目的をクリアから金策に切り替えるパーティも多い。比較的安全な20層を徘徊して魔獣を倒してドロップアイテムを狙い、不定期にポップする宝箱からでる金貨やアイテムを狙うのだ。いいアイテムを手にすることができればそれだけで十分に金策になる。


 ランディとローリーがいたリモージュでもそうやって上層から中層に入ったあたりで金策メインで活動をしているパーティがいたのを知っている。


「なるほど。そういう考え方もありだよな」


 ランディが言うとそうなんだよとカイ。


「なので20層までは最短ルートで進んだらどうだろうか」


 カイが提案してきた。


「いいんじゃないか。上層から中層辺りで時間は食いたくないな」


「二人は龍峰のダンジョンをクリアしている。ダンジョンの中の難易度は下に降りれば降りる程急激に難しくなるんだろう?」


「その通り。特に30層からは急にキツくなり、40層からはそれがさらにきつくなる。おそらく地獄のダンジョンはどこも50層の造りになっているんじゃないかと俺とローリーは考えている。そして50層のボスは49層の相手よりもさらに数段強い」


 ランディの言葉にカイとケンが不安そうな表情になった。俺たちで行けるのかという表情だ。


「とりあえずダンジョンに潜り始めたらもっと先が見えてくるだろう。言えることは俺とローリーはこの世に2つとない装備を持っている。以前の俺たちよりも今の俺たちの方がずっと強くなっているという自負はある。ケンとカイも自信を持ってやってくれ」


「わかった。それを聞いて気が楽になったよ」


 ランディがテーブルの上に拳を突き出した。それに他の3人の拳がぶつかりあう。


「皆を驚かせてやろうぜ」


「そうだな」

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