第8話

 流砂のダンジョンを攻略した際に流砂の渦から引っ張り上げる目的で用意したロープ。これを使って大木を登り始める4人。大木の幹にロープをかけて両手で引っ張って足で踏ん張りながら登り、10メートル程上にある太い枝に登った4人。そこからは枝を掴んでさらに木の上を目指して登っていく。


 登り初めて30分ほどで高い木の頂上付近にまで登ってきた4人。太い枝の上に立つと上半身が木の先より高くなり周囲を見ることができる様になった。


「ローリーのこの作戦が正解だな。地面を歩いていたら間違いなく迷っていただろう」


 そう言ったランディが見つめる先は広大な森林が広がっていた。そしてそのずっと先に山が見えている。それ以外の方向を見るとただただ森林になっていてその先が見えないほどだ。


「普通に考えたらあの山を目指せばいいんだよな」


「そうなるな。他にヒントが見えないし、とりあえずあの山を目指そう」


 ランディとローリーのやり取りを聞いているハンクとマーカスにも異論はない。注意して進もうというランディの声で4人は木の上、太い枝を伝ってフロアの攻略を開始した。


 足元を見ながら慎重に進むので進行のスピードは遅い。木の上を移動し始めて1時間程過ぎた頃、


「お客様のお出ましだ」


 木の上を素早い動きで動く猿型の魔獣5体が襲いかかってきた。まずマーカスとローリーの遠隔攻撃で2体を下に落とし、残り3体のうち1体を魔法で落としている間に他の3人でもう1体を倒した。ランクはAだがこちらの足場が悪いことや相手が集団でやってきたことから見てSランク程度の強さの魔獣を相手にしている感覚だ。


「すんなりと行かせてくれるとは思わなかったけどな」


「その通りだ。気配感知である程度はわかる。敵の探索は俺がやるから3人はルートを探しながら前に進んでくれ」


 太い木から伸びている枝も太く折れるという心配はしなくても良いだろう。ただ隣接する大木の枝同士が絡み合っている場所が多く平坦な地面の上を歩くよりはずっと歩きにくくなっていた。その枝の上を進み、時に枝葉をかき分けながら山を目指して進んでいく4人。猿型の魔獣はその後も数回5体、6体と固まっては襲いかかってきたがそれらを倒して進んでいると大木が大きくYの字に広がっている場所にぶつかった。


「ここで休憩するか」


 先頭を歩いていたランディがその場所を見つけ、全員がその広がっている木の幹に腰掛ける。中央部がやや凹んだ円形の小さな舞台の様で、各自がその周囲、高くなっている場所に腰を下ろした。


「おい、下を見てみろ」

 

 水を飲んでいたローリーが言って他の3人も上半身を座っている木の外側に出すと下の地面を見る。そこには高ランクの魔獣がうじゃうじゃと徘徊しているのが目に入ってきた。狭い木々の間を見える範囲でも10体以上が徘徊している。おそらくSランクの魔獣だろう。倒せないことはないだろうが休む時間がなく連戦となりそうな雰囲気だ。しかも狭い木々の間で四方八方から襲ってくる可能性もある。となると4人のチームワークが生かせない。各自が個人戦で対応せざるを得ない雰囲気だ。


「地面を歩いて移動していたら苦労しただろうな」


「休める場所もないだろうし連携なんてできないな」


「つまりローリーが見つけたこの木の上を移動するルートがこのフロアの攻略の正解のルートになるってことだな」


「まだこのフロアをクリアしてないが下を見ている限り今の所俺たちは正解のルートを進んでいるということになるだろうな。ただ上にも魔獣がいる。100%安全なルートじゃない」


 休憩しながら時折下を見てみるがいつも魔獣が徘徊している。本当に地面を歩くルートを選択しなくてよかった。この4人でもランクSとの連戦、しかも木々の間隔が狭く武器や盾、矢や魔法の能力が100%出せない場所での連戦となれば相当苦戦しただろう。いや苦戦ならまだしも事故が起こっている可能性が高い。この木の上のルートも敵との遭遇はあるがそのエンカウント率はグッと低い。


 力技でも攻略できない事はないがそれ以外のルートもあるかも知れないぞとダンジョンの意志が自分たちを試している。ローリーはそう考えていた。


 木の上を慎重に進みながらも時折猿型の魔獣が集団で襲ってくる。彼らは木の上が生活場所だ。木々を動き回るのには慣れているのだろう。動きが早い。


 それに対して可能な限りマーカスとローリーが遠隔で数を減らして近づいてきたところをランディとハンクが剣で倒していく。奥に進んでいくほど集団の数が増えてきて今は常時7、8体を相手にする様になっていた。


 ジャングルのフロアということでローリーは火系の魔法を一切使っていない。雷と水、そして風の魔法を駆使して敵を倒していた。これも普通の魔法使いなら難易度の高いスキルだが彼は当たり前の様に瞬時に魔法の種類を変えながら最も効果が高い魔法を打ち続け、その間に3人に強化魔法を掛け直し、時に回復魔法を撃っていた。


 目標にしている山がはっきりと視界に入ってきた。山に登るスロープが見えている。彼らは今それを見ながら何度目かの休憩をとっているところだった。やはり木の上には安全地帯があった。枝が広がり腰掛ける様になっている場所には魔獣は近づいてこない。


「あのスロープの上がこのフロアの終点だろうな」


「ああ。ただ山の中にも何かいそうだぜ」


「それなら流砂のダンジョンで経験済みだ。あの時は雪山登山だった。それに比べりゃ楽さ」


 水分と摂りながら軽食を口に運んで休憩している4人。周囲が開けているので敵が近づいてきてもすぐに分かるということもあり全員が外側を向きながら休憩していた。


 それにしても経験値とはこういった会話で現れるのだと3人のやり取りを聞いているローリー。確かに色々な経験、そして地獄のダンジョンを複数攻略しているこのメンバーはある程度先が読める。そして経験に裏打ちされた実力もある。時には悲観的に考える必要があるががそれだけでなく時には楽観的に考える必要もある。この4人はそのあたりの見極めができている。


 これがここの大森林のダンジョンが地獄のダンジョンの初挑戦のダンジョンだったらこうはいかなかっただろう。


 皆強くなってるぞ。

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