第7話
結局3つの小屋は全て安全地帯だった。彼らは余裕を持って攻略し3泊して36層をクリアする。4人の技量が高いレベルにあるために当人たちは物足りない感じがしていたが普通であればジャングルを切り開いた先にある広場にAランクが20体も徘徊していればそれは相当な脅威となる。
「俺たちだからあっさりクリアできたんだと思うぞ」
地上に戻った時にそう言っていたマーカスの言葉が全てを語っていた。
その後休養日を挟みながら37層、38層とクリアをし、たった今39層をクリアした彼らは40層に続く階段を降りていった。
「大森林のダンジョンが牙を剥いてきた感じだな」
「ああ。このダンジョンは40層からが地獄なんだろう」
ランディとローリーがそう言って前を見ているその景色だが、階段から50メートル程は草原になっているがその先に大木が生えているがそれらが全てゆっくりとだが前後左右に動いているのだ。
「トレントの森か」
大木の形をしているトレントと呼ばれる魔獣はゆっくり移動する代わりに木々の枝を鞭の様にしならせて攻撃をしてくる。普通は近づくまで木に擬態しているがここでは見せつける様に動いていた。そしてその数が半端なく多い。トレントの群れを抜けないとフロアの奥に進めないくらいに密集していた。
しばらく彼らの動きを見ていた4人は地上に戻ってカシアスの街に戻ってきた。
明日から3日間休養を取り、それから40層の攻略に入ることにする。
地上に戻って冒険者御用達のレストランに入った4人。料理を注文するとランディが言った。
「正面突破するしかないか」
トレントは単体ではランクAだが群れているとランクが一段上がりSランク扱いになる。木の枝の鞭の威力はかなり強い。
「正面突破しかないだろう。トレントがどれくらい固まっているのかはわからないが突っ切っていこう。2、3発鞭を喰らったくらいならローリーの強化魔法で対応できるだろうしな」
ハンクが言ってローリーを見ると彼も頷いている。
「マーカスも弓を射る時間がないから剣で枝を交わしながら進んでくれ。俺は最後尾から可能な限り魔法でサポートする」
「そうだな。弓を射る時間があれば走り抜けた方が良さそうだ」
このパーティは力技での攻略は元々得意だ。少々ダメージを喰らっても大丈夫だろうと全員が認識している。
「39層で3日かかっている。40層から先も野営前提となるだろう。腰を据えて攻略しようぜ」
カシアスの街で3日間しっかり休んだ4人は40層の攻略を開始する。
ローリーがメンバーに強化魔法をかけ終えるとランディの行くぜという声とともに4人がトレントの森に突撃した。木の枝を鞭の様にして近づいてくる4人に攻撃してくるがランディは盾で受け止め、ハンクは片手剣で切り裂き、マーカスは片手剣でいなす。そしてローリーは魔法で削り取りながらひたすらに直進して進んでいった。
トレントの森を20分程で抜けるとそこはちょっとした広場、草原になっていた。すぐに水分補給をする4人。
「ここは安全地帯か?」
水を飲みながらハンクが聞いてきた。
「いや違うな、周囲を見てみろ」
ローリーの言葉で3人は周囲を見ると広場が少しずつ狭くなってきている。周辺の木、トレントが4人を囲もうと動いていた。それを見たランディ。
「いやらしいぜ、全く」
「40層だからな。楽はさせてくれないぞ。動きをみるにあと2、3分は大丈夫だしっかり水分をとって少しでも回復しよう」
結局次のトレントの森も20分程で抜けると同じ様に草原があったがやはり徐々に小さくなってくる。このフロアは挑戦者との体力勝負のフロアの様だ。出てくる魔獣はトレントのみだが森の中では彼らの攻撃を交わしながら進み、休むべき場所はあるが休める時間は限られている。
何回か同じことを繰り返して森を抜けて41層に降りる階段を見つけた時は流石に全員がへとへとになっていた。階段に腰を下ろすと皆荒い息を吐きながら水を飲む。
「フロアは広くはなかったがこれはきつかった」
「森の中じゃ気が抜けない。草原に出たと思ったらじわじわと狭まってきて心理的に圧をかけてくる。いやらしいフロアだぜ」
単純だがいやらしいフロアだったとローリーも思っていた。攻略に関して他の選択肢を出してこない。ただひたすらに倒して前に進むだけだが休憩場所が安全地帯になっていないのは初めてだった。装備よりも体力と気力が求められるフロアだ。
「1人でもバテて倒れたら攻略できなかっただろうな」
息を整えたランディが言ってさて下はどうなってるのかと先に階段を降り始めた。後に3人が続く。
「これはまた…」
3人の目の前には濃密なジャングルがあった。木と木の間は人が1人通り抜けられる狭い隙間しかない。どの木々の間も狭い間隔で密集している。その木々の間からかろうじて見えている奥の景色も全く同じだ。
「木々の間をジグザグに行けってことか。行けないことはないが」
前を見ながらハンクが言った。
「確かに通れるが人1人がせいぜいだ。2人並ぶほどの間隔はない。しかも奥まで同じ間隔が続いている様に見える。魔獣が襲って来たら厄介だな」
ハンクに続いてマーカスが言う。ランディも攻撃されたら終わりだなと言ってから顔をローリーに向けてどうするんだと聞いてきた。
「野営覚悟で来たら40層は野営することもなかった。この階段で野営をしないか。走っただけだからここでしっかり休んだら体力は戻るだろう」
これから街に戻るくらいなら野営するかと階段で食事をとり始めた4人。
「さてローリの作戦を聞こうか」
食事をしながら聞いてきたランディを見てローリーが言った。野営をしようと言ったローリーの言い方から彼が何か策を見つけたのは間違い無いと思っているランディ。他の2人もそうだ。長い付き合いをしているのでお互いに何を考えているのかが分かる関係になっている。全員がローリーに顔を向けた。
「このフロアは地面を進むんじゃなくて木の上を移動するんじゃないかな」
「「木の上?」」
「そうだ。あの狭い隙間を縫う様に進んでいくとなるとマーカスが言った様に魔獣が現れたらこちらは圧倒的に不利になる。なぜあれだけ木々が密集しているんだと考えて上を見たら太い枝が絡み合っている。あそこなら歩けそうじゃないかと思ったんだ」
「なるほど」
相変わらずローリーの観察眼には驚かされると言う3人だが言われてみれば木に登ってその上を移動する方が地面を移動するよりもずっと楽そうだ。食事をしながら階段のしから上を見るとローリーが言った様に密集している大木の太い枝同士が絡み合っているのが見えた。
「地面を歩いたら方向もわからなくなる。上を移動した方が方向は分かるし万が一魔獣がやってきても対応できる。ローリーの作戦で行こう」
41層の攻略方針が決まったのもあり全員がしっかりと食事をし、交代で睡眠をとって40層での疲れをとった。
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