第6話

 交代で休養をとった4人は35層の攻略を再開する。雨の勢いは35層を攻略した当初から変わっていない。強くならない代わりに弱くもならない。常に同じ雨量で降り続いていた。


 その雨のジャングルで次々と魔獣を倒しながら進んでいく4人。前からだけではなく左右や時には後ろからも攻撃してくる。ランクはAだが複数体が四方八方、時に上から襲いかかってきたがそれらを全て撃退しながら進み、その後2か所同じ様な安全地帯を経て36層に降りていく階段を見つけた。


 結局雨が降り、フロアが広くなっただけでこれと言った特徴のないフロアだった。下に降りていく階段を見つけた時はローリーはもちろん。ランディやハンク、マーカスも気が抜けた感じだったが階段を降りて36層を見ると全員の表情が引き締まる。


「35層が思いの外緩いフロアだったがここは一筋縄ではいかないな」


「ああ。それにしてもよくまぁここまで作り込んだものだ」


 ランディとハンクが目の前の景色を見ながら言っている。実際はたった今クリアした35層も雨で視界が悪い中で四方八方から襲いかかってくる敵を倒しながら攻略するフロアの難易度は高い。このパーティだから緩いと言っているに過ぎなかった。


 4人の目の前に広がっている36層の景色、ジャングルはジャングルだが木々や蔦が絡み合っていて前がほとんど見えない。フロアを攻略するには剣で蔦や枝を切り開きながら前に進まなければならない様だ。階段から見る限りどの方向に進めば良いのかすらわからない。


 35層であまり体力を消耗していなかった4人はこのまま36層を攻略することにする。

ローリーの収納にはいっていた斧をマーカスに渡して3人が目の前の蔦や枝を切りながらジャングルの攻略が始まった。


「3人は片っ端から切り倒してくれ。周囲の警戒は俺がする。マーカスも疲れない範囲でサーチしてくれ」


「わかった」


「まるで開拓者の様だな」


 先頭に立って枝や蔦を切っているランディが言うと背後から続く3人がその通りだと言う。ランディとハンクが前を歩き、マーカスとローリーがその背後から続く、時に大きな倒木を乗り越えたりしながら真っ直ぐに進んでいるがこれが正解のルートなのかは分からない。ローリーは周囲に視線を送ってサインを探しているが今のところそれらしいものを見つけることはできなかった。ただ敵の魔獣の気配も全くない。


 ジャングルを切り開きながら1時間以上進んで行った時、先頭を歩いていたランディとハンクが動きを止めた。ローリーとマーカスが背後から近づいていくと木の枝の先に広場が見えていた。木々が生えていない広場の中央には小屋があるがその広場にはランクAの魔獣を20体以上徘徊している。まるで魔獣の村の様だ。


 ゆっくりとその場から下がったところで集まった4人。


「あの広場は攻略しろということだろうな」


 確認する様な口調で言うランディ。


「そうだろう。あの小屋の中も怪しいぞ」


「確かにな。何かがありそうだ」


 ハンクとマーカスが言ってから3人がローリーを見る。どうする?と言った視線だ。


「ジャングルを切り開きながら進んできたらあれが見えた。つまり皆が言う通りあそこにいるのを倒して小屋を確保するんだろうな。ランクAとはいえ20体の魔獣だ。時間はかかるが最初はマーカスの矢で少しずつ間引いていってある程度減ったところで俺が魔法を撃って敵をここに誘き寄せる。この木々の枝や蔦で奴らの動きも鈍くなる。そこをランディとハンクで倒してくれ」


 広場には出向かずに魔獣をこちらに誘き寄せる作戦で行くことにする。


  遠距離攻撃で数を減らしていく途中でリンクしてもこの生い茂っているジャングルに入ってくる間に動きの鈍い魔獣を倒すことが出来るだろうという結論を出した4人。


 切り裂いたジャングルの中でしっかりと水分を取るとローリーとマーカスが前に出た。

お互いに顔を見合わせると木々の間から正面の広場を徘徊している魔獣に魔法と弓で遠隔攻撃を開始する。ランクAの魔獣であれば2人とも1度の遠隔攻撃で敵を倒すことができるが予想通り4,5体倒したところでリンクした。


 近づいてくる魔獣を倒して身を引くと魔獣達がうなり声をあげて絡んでいる木の枝に顔を突っ込んでくる。そこに魔法、弓以外に2人の片手剣も加わって次々と倒していき戦闘開始して数分で広場がクリアになった。


 ランディを先頭にジャングルから出て広場を突っ切ってその中央にある小屋に向かう。小屋の中に気配はない。彼がドアノブを掴んで一気に外側にドアを引いたが予想に反して中には何もいなかった。


 ランディとローリーが部屋の中を探索する間、ハンクとマーカスは窓から小屋の外、広場の状況をチェックする。倒した魔獣がREPOPするかもしれないしジャングルをかき分けて新しい魔獣が侵入してくるかもしれない。ここが安全地帯だという確証が得られるまでは4人は気を抜かずに警戒、そして探索をする。


 平屋の小屋は人間が住んでいる小屋と同じ様な作りになっていた水こそないがキッチンぽい部屋と広いリビングの様な部屋。そして物置、納戸の小部屋が2つ。


「10分経ったがREPOPしない。どうやら安全地帯の様だ」


 窓の外に顔を向けたままマーカスが言った。サーチにも引っかかる敵は周囲にいないと言う。その言葉を聞いたハンクは窓の外に向けていた顔を部屋の中に向けた。


「OK。ならこれを見てくれ」


 ローリーが言ってリビングの部屋の壁、ガラスがない壁を指差した。そこには壁に何かで書かれた地図がある。


「このフロアの地図に見える。ここがスタート、そして俺たちは今ここにいる」


 地図の右下に階段の様なものが見え、そこから真上に進んで行ったところ、地図で言えば半分より少し上あたりに丸い木が生えていない場所がある。


「となると次はここか」


「そうだろう。そしてここ。それから下に降りる階段だろう」


 今いる小屋から地図で言う左に真っ直ぐ進むと同じ様な広場の絵があり、そこから上に上がるとまた広場がある。そうしてそこから左に進んだ地図の左上にまた階段が書かれていた。


「あと2回野営をする広さだと言うこと。そしてこの地図を見る限り小屋のある広場以外は全てジャングルになっている」


 ローリーが言った後でランディが続けた。



「ここまではジャングルに敵はいなかったがこの先はわからない。そして当然小屋が安全地帯になるのかどうかも分からないということだな」


「そう思っていた方が良いだろう。常に最悪の事態を予想しておこう」


 ランディの言葉に答えたローリー。

 いずれにしてもこの小屋の安全は確保された。4人はリビングの床に座ると収納やアイテムボックスから食料、ジュース、水を取り出して食事を取ることにした。


「休んでから2つ目の小屋を目指すのもありだが、俺はとりあえず安全が担保されているこの小屋でしっかりと休養をとった方が良いと思う」


 ローリーの言葉にランディが賛成し、


「そうしよう。ここで上の階で濡れた服や下着も乾かしておこうぜ」


「そりゃいい考えだ」


 安全地帯の小屋の中に4人の防具や下着があちこちに吊るされることになった。

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