第11話
彼らは37層を2日かけてクリアした。フロアの作りは36層と同じだったがランクAの複数体に加えてランクSの単体が混じり出していた。ただ力技で進めていけるフロアであったのでアライアンスを組んでいた9名にとっては大きな障害はなく危ない場面にも遭遇うせずに38層に降りていく階段を見つける。
38層に降りたら彼らの目の前には上のフロアとは違った風景があった。
「ネフドの砂漠だな」
「砂漠というより土漠ね」
目の前に広がる38層は今までの砂の絨毯の砂漠ではなく乾いた大地に葉のない枯れた木がぽつぽつと生えている土漠だった。時折風が吹いて土煙が舞い上がっているのが見えている。目に見える範囲には敵の姿はないが土漠は起伏があり盛り上がっている向こう側はここから見ることは出来ない。
「今までと違って地面が固められた道が無い。道標がない中をどう進むかも考えないといけないな」
前を見ているランディがそう言ってから背後に立っているローリーを振り返った。どうする?と言った表情だ。そのローリーは土漠と空そして見える限りの左右を見ていた。前方、そして左右は同じ景色が広がっている。空を見れば陽は高いところにあって陽光が土漠の地面に降り注いていた。
「普通に考えたら真っすぐに進んで起伏の向こう側を見るよな。まずはそこまで行こうか。ここからだと分からない。シモーヌ、マーカス。起伏の向こう側をサーチしてくれるかな」
ランディとドロシーの盾のすぐ後ろに狩人の2人が続き、起伏を目指して真っすぐに土漠を歩きだした。ローリーは階段を出ると背後を振り返ってみて気が付いた。階段は小さな小屋の中にあったのだ。上から降りてきたはずなのに小屋には屋根がある。ダンジョンの不思議がここにもあった。木と土とを組み合わせて作られている小屋。高さは3メートル程、幅もそれくらいで三方が壁になっている。そして小屋の背後にも土漠が広がっているのが見えた。
メンバーは周囲を警戒しながら進んでいくするが今の所魔獣の姿は見えない。土漠であることもあって地面が固く皆普通に歩くことが出来た。階段から出て10分以上歩き、土漠の中にある起伏がかなり近づいてきた頃狩人の2人がほぼ同時に声を上げた。
「起伏の向こうに敵の気配はない」
「ならば起伏の上まで行こう」
ランディの声で9名が起伏を登ってその最高点に立った。
「どっちに行けばいいんだ?」
誰かが呟いた。9人の目の前に広がっているのは土漠だがほぼ360度同じ景色になっている。赤茶けた大地に枯れた木々。風景に違いが見つからない。陽は真上に会って影すら無い。唯一自分達が歩いてきた方向にのみ階段から降りてきた小さな小屋が建っているだけだ。そしてその小屋の背後にも土漠が広がっていた。魔獣も全くおらず起伏の上からみると360度地平線が見えている。
「この中を闇雲に歩いていいとは思えないな」
「ローリーの言葉に賛成するわ。これって冒険者を土漠の中で迷子にさせるフロアじゃない?」
「恐らくそうだろう。ただ必ずどこかにヒントがあるはずなんだ」
ローリーとケイト、お互いのパーティの参謀と言われている者同士の会話を周囲のメンバーが聞いている。
リーリーが起伏の上に立ったまま身体を360度回して全景を見てみるが見える範囲では何の変化もない。枯れた木々がヒントなのかと思って見てみるが仮にそうであったとしても今の所そのヒントを読み取ることは出来ない。
風が舞うと土煙が立って歩いてきた足跡が消える。ローリーが見ていた先の様子に気づいたケイト。自分達が歩いてきた足跡は既に消えていた。
「歩いてきた跡も風で消えるのね」
「そう言う事だ。迷うと永遠に出られない可能性もあるな」
そう言ってから他のメンバーを見たローリー。
「一旦小屋に戻ろう。今の所唯一の安全地帯だ」
起伏を降りて土漠の先にかすかに見えていた小屋に戻ってきた9人。外から見ると小さな小屋だったが中に入ると階段は上の層に向かって伸びていた。階段で思い思いの場所に座るメンバー。ローリーが収納から取り出した軽食や水に手を伸ばす。ドロシーらのパーティもルイーズはアイテムボックスを1つ持っているので彼女もそこから食料や水を取り出していた。
「地獄のダンジョンはこんなフロアもあるんだね」
「ツバルでも似た様なフロアがあった。真っすぐな通路が奥まで伸びていてそこに魔獣は一切いない。ただ通路のそこら中に罠が仕掛けられていたんだ」
ドロシーの言葉に答えているランディ。なるほどと納得した表情になったドロシーはその顔をローリーに向けると、
「賢者ローリーの出番じゃない」
「よしてくれよ」
「一旦地上に戻ってゆっくりと考えるってのもありだよ」
「もちろんだ。ただヒントってのは現地にいた方が見つけやすい。当たり前の話だけどな」
そう言って誰か何か気が付いたことがあったかと聞いてみたが誰も気が付かなかった様だ。時折風が舞う土漠。360度同じ景色が広がっているだけだ。土漠の起伏はあるがこれも似た様な起伏がいくらでもあるだろう。
ローリーは階段に座って今見た風景を思い出しながら何かヒントがあるはずだと考えている。他のメンバーが小屋から外を見ているが魔獣は姿を現わさず、時折土漠に風が吹いて砂煙を立てているだけだ。陽は相変わらず真上にあって動いていない。
何かある筈だ。それが何か、そしてどこにあるのか。階段から立ち上がっては小屋を出るとその場で周囲を見る。暫くすると小屋に戻ってきて階段に座って考え込むローリーを周囲は黙って見ていた。
小屋の中に入ると上の層に続いている階段が見えている。しばらく座っていた彼は小屋から出て背後を振り返った。そこには小屋の屋根があって階段は見えない。屋根は普通の平らな屋根だ。本当にダンジョンの不思議があるなと思っていたローリー。
「もしかしたら」
そう呟くと階段のある小屋の周囲をゆっくりと見てまわる。小屋は木を張り合わせて組んであり、その隙間には石や土が詰め込まれている。壁にも異常、違和感は見られない。
となると。
ローリーが小屋の周りを見て回り始めると他のメンバー全員も小屋から出てきてローリーの動きを見ていた。
「ランディ、俺を肩車してくれ」
自分の背後にいるランディに声をかける。
分かったとランディがローリーを肩車して立ち上がるとローリーは小屋の屋根に両手を乗せてそのまま屋根の上に上がった。
そこには大きく【⇒】のマークが書かれていた。
「ヒントを見つけたぞ!」
屋根の上から叫んだローリー。今度はハンクの肩車でランディが上に上がってきた。
「これか。良く見つけたな」
屋根に乗って大きな【⇒】を見つけて声を上げるランディ。
下から屋根を見上げている他のメンバーに向かってローリーが言った。
「屋根の上に矢印がある。その矢印が差している方向はこっちだ」
小屋の裏に向かって腕を伸ばす。2人が降りるとマークスとハンクも上に上がって矢印を確認する。その後全員が一旦小屋に戻って階段に座った。
「ランディも言っているが良く見つけたな。でないと反対方向に行っていたら絶対にフロアから出られないだろう」
マーカスが言った。
「360度同じ景色。ヒントがありそうな場所はない。そう思っていたんだが唯一ヒントを残せる場所がある。それがこの小屋じゃないかと気が付いたんだ。小屋の周囲の壁にはヒントらしきものは無い。となると屋根かなと思って上に上がったんだが自分の予想通りに
ヒントが書かれていてよかったよ。でないとどう攻略してよいか分からないままだった」
これがローリーの実力ね。ドロシーやケイトらは彼の話を聞きながらローリーを見直していた。普通なら取り合えず前に進もうと言ってフロアを攻略しがちだ。ただここではそれは愚策というか絶対にやってはいけない手だった。
必ずヒント、サインがあると信じあるとすればどれだ、どこだと推測して最終的に見つけだしたローリー。彼がいたからツバルのダンジョンもクリアできたのだと納得する他のメンバーだった。
「方向が分かったのでそっちに進めば良いってことね」
進むべき方向が分かったのでドロシーの表情も明るい。
「そうなるがずっと魔獣が現れないという保証は何もない。各自はいつも通り周囲と足元を警戒しながら進もう」
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