第12話
降りてきた階段がある小屋の中でしっかりと休養を取った9人は小屋を出ると裏手に回って矢印の指し示す方向に向かって土漠を進み出した。こちら側にも起伏がありそれを越えての攻略となる。歩き出して暫くすると起伏を越えたところで皆の視界から小屋が消えた。あとは矢印を信じて前に進んでいくだけだ。
進みだして2時間程は何もない土漠を歩いているだけだったがマーカスがサーチに魔獣が引っかかったという言葉でそれまでのんびりと歩いていたメンバーが戦闘モードになる。
「ランクAが4体固まってる」
同じ様にサーチで敵を確認したシモーヌ。ランクAとの戦闘を機に一気に魔獣とのエンカウントが増えていく。ランクAの複数体、時にはランクS単体と土漠を徘徊している魔獣達が9名を見つけては襲い掛かってきた。それらを蹴散らせ、起伏を越えて真っすぐに進んでいくと前方にオアシスが見えてきた。茶色ばかりの世界の中で緑と水の青色のオアシスは別世界に見える。
十分に警戒をしてオアシスが安全だと分かるとその場で腰を下ろすメンバー。全員が安堵のため息を吐いて腰を下ろしている中ローリーだけは自分たちが歩いてきた方向を確認し、オアシスを出た後に向かう方向に目印を置いた。
「これで安心だね」
ローリーのすることを見ていたケイトが声をかけたがそうじゃないんだとそれに首を振るローリー。全員がローリーに顔を向けた。彼は皆の視線が自分に向いているのを確認してから言った。
「小屋の上にあった方向を示している矢印は我々が進むべき方向を示してはいたがそれは次の下の階に降りる階段がある方向を示しているとは決まっていないと思う。矢印の指し示している通りに歩いてきたらオアシスがあった。ここでまたサインかヒントを探す必要がある。探した上で何もなければ今俺が目印として置いた方向に進んでいけばいい」
全員の表情が変わった。ローリーの言う通りだ。ヒントが1つなんて限らない。土漠の上で次のヒントを出すことは無いだろうとなると今までと違った景色の場所、つまりこのオアシスに次のヒントがあるかもしれないと思わなければならない。
誰もが屋根の上に矢印を見つけるとそのまま真っすぐ行き、オアシスを見つけると矢印の通りだったと休んでから再び小屋の矢印の方向に進みだすだろう。だがそれが正解だとは限らないのだ。
「やっぱりローリーが俺達の参謀だな。言われてみればその通りだ」
「本当ね。思い込みというか苦労して見つけたヒントだからもうそれが正解のルートだと頭から決めつけていたわ」
ランディ、ドロシーが言う。
「このオアシスまでは多分正解のルートだ。ただここから先もあの矢印が正解のルートを示しているのかどうか。オアシスを見た時に逆に疑ったんだよ。地獄のダンジョンが簡単に攻略できるはずがない。冒険者を苦しめる前提だからな。となると次のヒントはここにあるかも知れないとね」
そこで一旦言葉を切って、
「ヒントを探す前にまずは休もう。結構疲れてるしな」
オアシスの池の周囲に生えている椰子の木でできている木陰に座って食料とジュースや水を取り出して置いた。日光を遮るものが無い中土漠を歩いてきたメンバー。全員が疲労の色を隠せない。帽子やローブがあるとは言え陽の光を上からと地面からの反射の両方から浴びながら土漠の中を歩き、途中からは戦闘をして進んできている彼ら。暑さは体力を奪い同じ様な景色は精神にダメージを与えてくる。
38層に降りてくる実力がある彼らでも体力や精神力をがりがりと削られていく。それが地獄のダンジョンだ。
水分を摂りながら皆で話し合ってここで野営することにした。野営をすることが決まるとその前にローリーが言っていた次に進むべきヒント探しをすることにして広いオアシスに9名が散っていった。休憩を取ったことや安全地帯であることから皆の表情はオアシスに着いた頃よりもずっとまともになっていた。
このオアシスは大きな池の周りを囲む様にして椰子の木が何本も並んで生えており池の端から幅30メートル程に渡って地面には一面に綺麗な緑の芝生が生えている。椰子の木陰もありしのぎやすい。その芝生の生えている端からは赤茶けた土漠になっていた。サインがあるとすれば土漠部分ではないだろうと芝生部分や椰子の木の枝や幹、そして根元の部分を見ていく9人。
「これじゃない?」
ローリーから見てオアシスの池の反対側を調べていたルイーズの声がした。全員がそこに集まった。
ルイーズが地面を指さしているその先は芝生が不自然に刈り取られている。そしてそれはある角度から見れば見事に矢印に見えた。今までこの層まで降りてきた冒険者はいない。つまり他の冒険者が人為的に芝を刈った訳ではないということだ。
その矢印はローリーが置いた目印の方向を向いていなかった。ここに来て方向転換となる様だ。
「ローリーの読み通りだったな」
マーカスが感心した声を出した。
「それにしてもよく見つけたな。この角度からじゃないと矢印の形に刈り取られているとは気づきにくい」
ランディが言った通りだとローリーも思っていた。よくぞ見つけてくれたと。
「じっと芝生を見て歩いていたの。その姿勢に疲れちゃって伸びをしようと思って身体を起こした時に目に入ってきたのよ」
「それでも凄いぞ」
「ルイーズ、お手柄だよ」
リーダーであるドロシーがよくやったねとルイーズの肩を叩いた。それからローリーに顔を向けて言った。
「決まり。でいいんだよね」
「ああ。間違いないな。このオアシスから次に向かう方向が分かった」
次に向かうべき方向が分かったのでメンバーの表情も明るい。夕食を食べて野営をし、しっかりと休んだ彼らはオアシスを出ると刈られた芝生が作り出した矢印の方向に進み出した。土漠を歩いていると相変わらず魔獣とエンカウントするがそれらを倒しつつ進んで小さな起伏を越えると土漠の先、歩いていく方向の先に小屋が見えてきた。上から降りてきた小屋とは違ってこちらは石を積み上げて作られている小屋だ。
全員の表情が一気に明るくなる。
小屋に入ると下に降りていく階段があった。思わず歓声をあげる9人。ローリーもみんなと同じ様に歓声を上げた。
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