第13話
地上に戻ってきた9人。ギルドに顔を出すとギルマスに呼ばれて会議室に入る。そこで流砂のダンジョンの報告をした。リモージュのギルドマスターであるサヒッドには怪我から治ったということで後から合流した狩人のマーカスの事も紹介済みだ。
「しばらく顔を出してないと思ったら地獄のダンジョンの攻略記録を更新しているわ。ドロシーらのパーティと合同で攻略してるわと話題が多すぎるぞ」
笑いながら言うギルマス。報告が遅れて悪かったと9人を代表してランディが簡単に説明をした。黙って聞いていたギルマス。
「概要はわかった。隠していることがあるんだろうが構わない。言える分だけ言って貰えただけでも参考になるからな」
苦労して攻略しているその全てをオープンにする必要はないというのが冒険者、そしてギルドの基本的な考え方だ。冒険者の経験の蓄積とは自分達で試行錯誤して初めて身に付くものだというのがわかっている。
おそらくツバルでも忍のカイとケンは全部を言っていないだろう。ある程度までは開示するがそこから先は自分たちのやり方で道を開いていけ。これが普通だ。
「俺とローリーはここが3つ目の地獄のダンジョンだがそれぞれのダンジョンに特性がある。攻略方法が1つだと厳しいだろうね」
「だから地獄のダンジョンと呼ばれ冒険者の挑戦を跳ね返し続けているんだ。ただお前達が4つ目の攻略を果たすかも知れないがな」
また時間ができたら報告してくれとサヒッドが言ってギルマスとの面談が終わった。その後彼らはそのまま市内のレストランに移動する。
明日と明後日は休養日にしようと言うことになった。
「完全に体調が回復するまで挑戦しない。これが俺とローリーが決めた地獄のダンジョンの攻略の仕方だ。肉体的にも精神的にも完全回復していないとミスが起こりやすくなる。そしてミスが起こった時には既に遅い」
食事の手を止めてランディの言葉を聞いているメンバー。
「流砂のダンジョンは基本暑いしな。体力が削がれがちになる。まぁダンジョンは逃げない。しっかり休もうぜ」
ローリーが続けていった。その後は食事を摂りながらの雑談となる。
「それにしてもいやらしいフロアだったね」
「ローリーがいなかったら砂漠で迷ってそのままずっと出られなかったかと思うとぞっとするわ」
僧侶のルイーズと精霊士のカリンが言うとその通りと他のメンバーも相槌を入れる。彼女達は今までランディらのパーティとは何度もアライアンスを組んで活動をして来ているがそれよりもずっと難易度が高い地獄のダンジョンの挑戦で改めてローリーの能力の高さを認識していた。
ローリーがドロシーらが座っているテーブルに顔を向けた。ランディ、マーカス、ハンクも食事の手を止めてローリーを見る。
「リゼにある龍峰のダンジョンは力技、つまり各自の戦闘能力が高くないと攻略できないダンジョンだった。逆に言えばフロアにいる敵を片っ端から倒せば進んで行ける。これはこれで難易度が高い。皆も知っている通りに格上との戦闘が連続するからな」
女性5人全員が頷いている。彼女らも力技で40層までクリアし、力不足で41層がクリア出来ていない。
「ツバルの火のダンジョン。ここは力技という点から見れば龍峰よりも楽だった。ただ龍峰にはなかったギミックが散りばめられたフロアが多い」
「具体的にはどんなギミックがあったの?」
戦術に興味があるケイトが聞いた。
「1つは迷路。進んで行くといくつも分岐が現れる。それを進むとまた分岐、いくつも分岐が現れて進んで行くと最後に行き止まり。また戻って違うルート進むとまた行き止まり。結局スタート地点に戻ってきてそこから違う分岐の攻略をする。途中にいる魔獣を倒す事よりも最後の最後で行き止まりだった時の絶望感。こういうフロアがいくつかあった」
ダンジョンの下層に降りてそのギミックはきついわねとケイト。
「しらみつぶしに分岐を進んでたまたま当たりを探すしかないの?」
ケイトが言うとローリーの隣に座っているランディがそう思うだろう?と言ってから、
「肉体的よりも精神的なダメージがでかい。俺もケイトが言う通りまぐれ当たりを期待するしかないのかと思ってたんだよ。ただローリーが攻略のヒントを見つけたんだ」
その言葉で再び全員がローリーを見る。彼は頷くと続けた。
「俺はダンジョンはどのダンジョンでもそうだが挑戦者をとことん苛めて、怪我をさせたり殺してやろうという前提で作られていると理解している。一方でダンジョンはそう言いながらも必ず各フロアにはヒントや安全地帯を用意しているんだ。逆に言えばここまで用意してやってるのに攻略できないのかというダンジョン側からの挑戦、意思だと俺は思っている」
ダンジョンを攻略するためにはそのダンジョンの意図を知るのが大事だとローリー。
「龍峰のダンジョンは力技で進んでいくがそこには必ず安全地帯があった。そこで休んで体力をしっかりと回復しないと最深部の敵は倒せない。そう言う仕様になっていた。一方で火のダンジョンは力技よりも知力が試されるフロアが多かった気がする。さっきの迷路のフロアもそうだ。手当たり次第に洞窟に入っていって攻略するにはとんでもなく時間がかかる。それではそのフロアにおけるダンジョンの意図に気が付いていない。必ずヒントがあるはずだと思ってそう言う目で見ると今まで見逃していたものが見えてくる。そうやって火のダンジョンをクリアした。正直ボス戦だけみれば龍峰のボスの方が上だった。ただそこに行くまでの攻略は火のダンジョンの方がきつかった」
ここまで言ってからローリーは目の前のグラスに入っているジュースを飲んで口を潤す。ローリーのみならず男性は皆ジュースを飲んでいる。
「そしてここ流砂のダンジョンだ。まだ40層にも到達していないが今までの感じだとここはツバルの火のダンジョンに近い。力技だけでは攻略はかなり厳しいだろう。フロアにあるダンジョンの意図を読み取って攻略する事を求められているんだと思う」
ダンジョンはフロア毎に意図がある。その意図を理解して攻略すると攻略の難易度が下がると言うローリー。聞いていた彼らはローリーがこの考え方をしていたから38層の矢印を見つけ正しいルートでフロアを攻略することが出来たんだと彼の言葉に大きく頷いた。
ランディ、マーカス、ハンクらはローリーとの付き合いが長い。彼の参謀としての優秀さは以前から十分に理解しているので今の話を聞いてもそれほど驚きはしなかったがドロシーはじめ女性陣は別だ。もちろんローリーがパーティの参謀で優秀であるとは理解していたし地上NM戦などでアライアンスを組んだ時にも彼の能力の高さは理解しているつもりだったが地獄のダンジョンという難易度が桁違いに高いダンジョンに挑戦すると彼の能力が自分達の想像以上に高いレベルにあったのだと彼に対する認識を新たにしていた。
「ダンジョンの意思か。考えた事無かったわね」
ローリーの話が終わるとドロシーが言った。
「普通は考えないわよね。目の前の敵を倒して奥に進んでフロアを攻略する。それがダンジョンだと思っているもの」
そう言ったケイト。彼女らの考えが普通だしほとんどの冒険者はそういう考え方をしている。ダンジョンの意図や意思を探る前に敵を倒し続ければ前に進む道が勝手に現れた。地獄のダンジョンは違う。その考え方では攻略が出来ないとローリーは言っている。実際に2つのダンジョンをクリアしている彼の言葉は説得力がある。
「私達もダンジョンの意図やヒントを見つけることが出来れば攻めあぐねている龍峰のダンジョンの攻略が進むかもね」
ケイトの言葉に必ず進むぞと言い切るローリー。
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