第14話

「それで39層だけど」


 ケイトが話題を変えた。地上に上がってくる前に階段から見た39層は38層とはまた違った趣だった。階段を降りた所から石畳の道が伸びているがそのフロアには水ではなく砂の川が流れていた。左右から幾筋もの砂の川が流れている中を石畳の道や橋が掛かっているのが見えていた。フロアは屋外の様で空には陽があり地面を照らしていた。見た限りでもかなり暑いフロアだと分かる。


「階段から見た感じだとあの砂の川に落ちたら助からないと思った方が良いだろう。流されるだけではなく沈められる気がする。基本は石畳の道が攻略ルートなんだろうが最後まで道が続いているかどうか。そして奥に進むとまた想像もつかない罠か仕掛けがある気がする。何と言っても39層だ。簡単なフロアである筈がないからな」


「敵のランクはSが増えてくるだろうね」


 ドロシーの言葉にそうなるなと全員が頷く。単体、あるいは複数体を相手にすることになるだろう。ヒントについては今ここで話が出来るものでもなく現地で探すしかない。


「ローリーが言っていたがフロア毎にその表情を変えるのがダンジョンだ。39層が力技のフロアかそれとも謎解きを仕掛けてくるフロアかあるいはその両方なのかは今は分からないが敵がいるのは間違いないだろう。気を引き締めていこう」


 ランディがそう言って打ち合わせが終わった。


 

 打ち合わせが終わり部屋に上がるかとローリーが席を立とうとするとドロシーとケイトから目くばせを受ける。一旦部屋に上がってからまた下の食堂に降りると彼女2人がローリーを待っていた。


「悪いね」


 ドロシーが言った。隣でケイトもごめんねと頭を下げる。


「いや。明日は休養日だし問題ないな」


 今度は3人で1つのテーブルに座ってジュースを頼む。


「貴方達はいつもジュースだよね。お酒は飲んでないの?」


 飲み物を持ってきた給仕の女性が下がるとケイトが言った。


「地獄のダンジョン攻略中は禁酒だよ。メンバーにも言ってある。二日酔いとは言わなくても酒を飲んで攻略できる程甘いダンジョンじゃないってな。ハンクとマーカスも分かってくれている。ランディはツバルでそうしてきたから当然だと思ってるさ。酒が残っているととっさの判断に狂いが出るかもしれないからな」


 彼女らはランディはじめマーカスやハンクもお酒好きであることを知っている。ローリーは以前から自制するというか深酒をするタイプではないが他の3人、そしてここにはいないがビンセントも酒好きだ。その彼らを持ってして禁酒することに不満がないというのはそれほど地獄のダンジョンの攻略が生易しいものではないという事を物語っている。


 ローリーの言葉を聞いてなるほどと納得した2人はもう一度呼び出して悪かったねと言ってからローリーを呼び出した目的を話する。ドロシーが話だした。


 いずれフロアに1パーティ(最大5人)という制約がかかる様になる。そうなった時にドロシーらのパーティが引き続いてダンジョンを攻略できる実力、レベルにあるかどうか第三者、ローリーの忌憚のない意見を聞きたいと言う。


 黙って聞いていたローリー。2人の話を聞き終えると分かったと言って2人を見た。


「先に結論を言おう。クリアしている38層までは問題ないだろう。ただ35層で出会ったNMは別だぞ。あれは正直俺達5人でも楽じゃない。倒せることは倒せるだろう。ただそれは俺たちの装備が良いからだ。2人だから本音で話をするがドロシー、ケイトのパーティに実力は俺達よりもほんの少し劣っている程度だ。十分に力はある。5人いるのも強みだよ」


 参謀のローリーからその言葉を聞いた2人はお互いに顔を見合わせる。2人ともまんざらでもない表情だ。


「ドロシーらが龍峰のダンジョンで躓いているのは戦闘スキルの部分じゃない。ダンジョンのフロアにあるヒントを読み解く部分が足りないからだ」


「まぁあたしらは自分達で言うのも何だけど脳筋寄りのパーティだからね」


 自嘲気味に言うドロシー。


「それを言ったら俺たちの方がずっと脳筋だろう。前4後1だぜ」


 そうだったわねとドロシーとケイトが笑った。


「脳筋パーティ自体は悪いことはないんだけどな。力技は当然強い方が良いからな。ただもう1つ2つ別の能力というかスキルが必要なんだと俺は思っている」


 リモージュの流砂のダンジョンをアライアンスを組んで攻略し始めてからは今ローリーが言った言葉の意味が以前よりもずっと理解できる様になっている2人。黙って聞いているとローリーが言った。


「ヒントやサインの見つけ方だが、フロアの中にある違和感を見つけるんだ」


「「違和感?」」


 2人の女性が同時にローリーを見る。


「そう。フロアを攻略しながら何か違和感がないか気にするんだ。例えば他の魔獣は徘徊しているのになぜか同じ場所から動かない魔獣がいる。それが違和感でありサインなんだよ。この場合その同じ場所から動かない魔獣を倒した場所は安全地帯であることが多い。その奥に安全な洞穴があったり他の魔獣が近づいて来なかったりする。そういうサインを見つけるとそこでしっかりと休んで体力を回復できる。それがフロアの攻略に効いてくるんだ。戦い続けて少しの間に水分補給をしているだけでは深層部は進めない」


 ケイトはドロシーらのパーティの参謀役と言われている。それは敵と向かい合った時にメンバーに戦闘の指示を出すと言う点において参謀と呼ばれていた。ただ今の話を聞くとそれだけでは不十分だ。常に周囲を警戒してメンバーが休む場所あるいは進むべき場所を教えるのも参謀の仕事だ。


 普通のダンジョンではそれが出来なくても力技で押し切っていけたが地獄のダンジョンは甘くはない。攻略には力と知力の両方が必要だとローリーは言っている。


「ローリーは普段から意識しているから38層の矢印の場所やオアシスであの様な行動がとれるのね」


 ケイトが言った。感心した声を出している。


「普段から意識付けするのは必要だしダンジョンはこんな簡単じゃないと思い込むのも必要なんだ。楽観的な性格では地獄のダンジョンは攻略できない。常に最悪の事態を想定しておく、悲観的な考え方が必要になると俺は信じている」


 その言葉になるほどと相槌を入れる2人。


「40層か41層で人数制限がかかるんじゃないかと見ている。俺達は4人になっても当然下層を目指す。そっちはどうするのかは皆で相談すればいいが最初に言ったが実力的には十分に深層に降りていける力がある。後はメンバー全員の意識を改革することができるかどうかだ」


「分かった。やってみるよ。折角リモージュの地獄のダンジョンに挑戦しているんだ。下を目指さないという手はないからね」


 決意の籠った口調で言うドロシー。ローリーは大きく頷くと言った。


「もちろん聞かれればダンジョンの情報は開示する。そしてそっちが蘇生薬を手に入れた時は頼むよ」


「任せておいて」


「いらない装備はこっちに回してね」

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