第4話

 2日後にリモージュから河口に船で移動しそこからツバルに渡るという日程を決めて2人と分かれたランディとローリーは市内のレストランで昼食を摂ることにする。


「アラルには俺たちの予定を言っておこう」


 フォークに突き刺していた肉を口に運んで飲み込んだランディが言った。


「そうだな。もし蘇生アイテムらしき物が出たらここに戻ってきて鑑定をしてもらう必要があるしな。あとはツバルに渡ってからかな。薬品関係はあっちで揃うだろう」


「それにしてもよく2人だけの忍が見つかったな。でないと俺たち2人なら苦労するところだった。あの2人は相当できるだろうし戦力的には問題ないんじゃないか」


 ランディの言葉に頷くローリー。2人とも高ランクの冒険者がそうである様に他の冒険者の力量を見抜くことができる。カイとケンはAランクの中でも上の方だろうと見ている2人。そして彼らも自分たちの事を見ていたのだろうと推測する。


「今のところはお互いにWin-Winの関係になっている。4人だが全員レベルが高そうだからなんとかなるんじゃないかって思ってる」


「その楽観できる性格が羨ましいよ」


 ローリーが言うとランディがローリーの目を見て笑いながら言った。


「一度死んでるからな。怖いものが無いとも言える」


「レアアイテムを2回もお前に使わせるなよ」



 2人は昼食が済むとアラルの店に顔を出した。


「なるほど、次はここじゃなくてツバルになったんだな。わかった。それらしいアイテムを手に入れたなら使う前に持ってきてくれ。鑑定をしてやろう」


「その時は頼みます」


 頭を下げる2人を見ていたアラル。蘇生アイテムを持ってきたと思ったらいきなり川を渡って森の奥にいるエルフに会って彼らを助けて友となる。そしてこれからどうするのかと思って見ていたらまるで引き合わせたかの様に忍の者達と一緒になる。


 このローリーという男はそういう星の下に生まれてきたのだろう。そもそもダンジョンで彼以外の者が生き残っていたとしたらたとえ天上の雫があったとしても1時間以内という時間内では誰も蘇生できなかったはずだ。


 砂漠の民は過去から厳しい自然を相手に生きてきた歴史がある。それ故に他の国の人々よりもずっと運というものを重要視する。ネフドの民の中では幸運を持っている物は厳しい自然の中でも生き残る確率が高いと信じている者が今でも多い。アラルもその1人だ。


 彼らなら、いやローリーなら2つ目、3つ目と天上の雫を持ってきそうだなと2人を見てアラルは思った。


 リモージュからツバル島嶼国に行くにはまずはネフドの都であるイン・サラーまで船で下り、そこからツバル行きの船に乗り換えていく必要がある。イン・サラーまでは船で2日、そしてそこからツバルの都であるアマノハラというところまでは船で4日かかるという。


「アマノハラはツバルの都でその街の南部に港がある。俺たちはそこで準備を整えてからまた船で火のダンジョンがある東の島(とうのしま)という島に向かう。アマノハラから船で数時間のところに東の島がある。通称ダンジョン島と言われている」


 流石に島国だ。小さい島がいくつも集まっていてそれをまとめてツバル島嶼国と言うらしい。カイによると東の島でも準備はできるがアマノハラの方が品数も多くそして安いのだという。


「ローリーが収納魔法を使えるのでアマノハラで食料や水もまとめて仕入れていきたいと考えているのだがいいかな?」


「構わないよ」


 2日後の朝、4人は河を下る船に乗り込む。イン・サラーまで昼夜進み続けて2日の船旅だ。船には冒険者よりも商人達の方が多く乗り込んでいた。船の後部は馬車を止めるスペースになっており荷台をつけたままの馬が綺麗に並んでいる。


 近くにいた商人によると下りは2日ほどで着くがリモージュに向かう時には川の流れに逆らって船が上っていくので3日半ほどの日程になるらしい。


 ローリーは船の船首近くに立って左右を見ていた。左はネフドの国土で草木は生えているが高さが低く時折岸に砂浜が見える。右は対称的に高い木が生い茂る大森林になっていた。


「数キロの川幅を挟んでここまで景色が違うとはな」


 いつの間にか隣に立っていたランディが言った。


「片方は砂漠、片方はジャングル。どちらも人が住むに適した環境とは言えない。足して半分に割ったらいいいんだろうが自然とは厳しいものだ」


 ランディの言葉にそうだなと頷くローリー。砂漠を横断していた時は緑が欲しいと思っていたがジャングルの中に入ると高い木々で見えない天空にある陽が見たいと思っていた。思う様にはいかないものだ。


 船は予定通りにイン・サラーの港についた。ツバルのケンがすぐにツバル行きの船のチケットを4枚手に入れてくる。


「4時間後にツバルに向けて出港する船がとれた。いいタイミングだ」


 乗り換えがスムーズに行きそうなのでカイの表情も明るい。

 ツバル行きの船は外から見ている限りでも今乗ってきた船よりもずっと大きかった。外洋を航海するので大きく頑丈にできているという。


「最近は少ないんだがたまに半魚人が船を襲うことがあるんだ。最近はツバルの冒険者達がクエストで半魚人を倒しているので彼らはテリトリーを変えたと聞いている。ただだからと言って100%安全な訳じゃない」


「なるほど。半魚人退治はツバル人がやっているのか」


「あいつらはすぐ海に潜るからな。ツバルの忍は手裏剣と呼ばれる武器を使える。遠隔攻撃で倒すのが一番早くて確実なんだよ」


「ツバルの人は魔法は使えないのか?」


「いいや、もちろん使える奴はいる。ただ詠唱している間に潜ることが多い」


 カイとランディのやりとりを聞いていたローリー。自分自身は無詠唱で魔法を発動するがツバルでは無詠唱で魔法を発動する人間は少ないのかなと思っていると彼の思いを察したのかランディがカイに聞いた。


「無詠唱で魔法を発動させる人はツバルにはいないのか?」


 その言葉に隣にいたケンと顔を見合わせるカイ。少しの間を置いてカイが言った。


「いることはいる。ただし数が少ない。俺たちAランクのパーティでも魔法使いは詠唱をしなければ発動できない奴ばかりだよ」


 その後カイが話たのはツバルでは忍というジョブが圧倒的に人気のあるジョブで大抵の冒険者は忍を選択するという。その結果後衛のジョブの成り手が少なくなる。またツバルには魔法に関しては良い指導者がいないので先輩からの指導だけになりその結果ほとんどの魔法使いが詠唱をしないと発動できないらしい。


「無詠唱で発動する魔法使いの連中は冒険者なんかにならずにツバルの国のお抱えの魔法使いになるんだよ。そっちの方がずっと金も良いしなにより安全だ。死ぬ心配はまずないからな」


 国によって事情が異なる様だ。そして聞いていた2人は魔法使いが詠唱をしているのであればダンジョンの攻略は難しいだろうと理解する。火のダンジョンもよくまぁ26層あたりまで潜ったものだと逆に感心してしまう2人。


「安心してくれ、ローリーの魔法は全て無詠唱だ。しかも威力も凄いぞ」


「最初にギルドでローリーを見かけた時から只者じゃないなという話をケンとしていたんだ。ランクSと聞いて納得もした。それにトゥーリアは魔法使いで優秀なのが多いというのも知っている。最初から安心してるさ」


 2時間前になると乗船が開始された。4人はチケットを見せて船に乗り込むと与えられた部屋にはいる。外洋船ということでこの船には客室がある。2人部屋でローリーとランディ、カイとケンというペアで部屋に入る。お互いの部屋は船内の廊下を挟んで向かい合っていた。


「なかなか立派な船だな」


 部屋から出ると同じタイミングでカイとケンも出てきた。


「人も運ぶが荷物も運ぶ。頑丈に出来ているのさ」

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