第52話

 3人が食事をしている間、宿の自室に戻ったローリーはベッドに腰掛けながらさっきみた49層の光景を思い出していた。48層から階段を降りたところから何度も頭の中で自分たちの行動、そして自分自身が見たことを思い出していた。階段を降りた、灯りがついた。そのまま通路を歩いているとY字になっている分岐に着いた。ここまでは問題なさそうだ。


 行動を思い出しながら確認していくローリー。


 問題はここからだ。まずは左の階段を登り、先頭を歩いていたランディが扉を開けて外に出た。最後に自分が出て外を見ると背後は崖で正面と左右は見渡す限りの砂漠だった。戻って右から出ても同じだった。再び戻って左から外に出て目の前にあった起伏の上から見ると道には魔獣がおり、砂漠には流砂の渦が無数にあった。そこで一旦引き返して今度は自分が先頭に立って扉を開けて階段を降り、右の階段をランディが先頭で登って扉を開け、最後に自分が出た。ここまでの動作は右も左も同じだった。それで外の様子を見たが左の階段を上がった時と全く同じ情景が広がっていた。ただし小屋は1つしかなかった。


 戻ろうと言ってさっきと同じ様に自分が先頭になって小屋の扉を開けて階段を降りY字の分岐まで戻ってきた。


 この一連の動きの中に何かあるはずなんだ。


 ローリーは頭の中で同じ作業を何度も繰り返す。そういえば階段を登ってランディが外に出た時に一瞬感じた違和感。あれは何だったんだろうか。確か一旦引き上げてからもう一度左の階段を上がって起伏に行こうと言った時だ。


 よし、階段を登って外に出たところを振り返ってみよう。ランディが先頭を歩いて小屋を出た。外から戻る時は自分が先頭で小屋のドアを開けて階段を降りた。右の出口も同じだった。階段、扉、そして小屋、外の景色、階段、扉、小屋、外の景色。


 階段、扉……ん? 扉?


 そこで一旦思考を止めたローリー。

 扉、今まで攻略するフロアで扉を開けて外に出た事はない。なのにこのダンジョンの49層は2つの出口にある小屋には扉が付いていた。どういうことだ?


 そう考えているとまた別のことに気がついた。


「おかしいぞ。ランディは扉を開けて外に出た。その後を続いて3人が外に出た。戻ろうとしたら何故か扉が閉まっていた。これは左、右と小屋からの出入りどちらもそうだった。一体誰が扉を閉めたんだ?そして扉が閉まるという意味は?」


 思わず声を出したローリー。違和感の正体はこれだと確信する。開けた扉が勝手に閉まっている。もちろん自動ドアではない。開け閉めは人力だ。なのに扉が閉まった。


「つまり……」


 そう呟くと思考の海に潜っていくローリー。こうなると彼の性格から時間を忘れてそれに没頭する。



「そうか! そう言うことなのかもしれないぞ」


 暫くして顔を上げたローリー。窓の外は薄暗くなっていた。何時間も一人で考え込んでいた様だ。彼は部屋を出るとランディ、ハンク、マーカスの部屋をノックして自分の部屋に集まってもらった。


「ずっと考えてたのかい?」


 最後に部屋にやってきたマーカスが聞いてきた。そうだと頷くランディ。


「昼飯前からだからもう4、5時間になるぞ」


 そう言われてそんなに考えていたのかと窓の外を見ると街が夕陽で照らされているのが目に入ってきた。


「ローリーは没頭すると時間を忘れるからな。それでその顔を見ると突破口を見つけたみたいだな」


 半分茶化して言ったランディ。


 ローリーは今考えられるのはという前置きから3人に説明を始める。砂漠に上がる時に感じた違和感として開いていた扉がいつの間にか勝手に閉められていたという話をすると、


「言われてみればそうだ。俺は覚えている。自分が最初に開けた扉を戻る時にはローリーが開けていたのを」


「そうだ。俺は最初出た時には一番最後に小屋を出たがその時には扉は閉めてない。開けっ放しだ。どうやって閉まった?誰が閉めた?」


「それがどうなるんだ?」


 やり取りを聞いていたハンクがローリーを見て言った。ローリーは次に自分の考えていることを3人に伝える。黙って彼の話を聞いていた3人。


「つまりあのままどちらからの砂漠を進んでいくのは正解のルートじゃないと見てるんだな」


 話を聞き終えるとランディが言った。


「その通りだ。全く同じ景色が2つある。ダンジョンの意図として博打は打たせない。必ずそこには攻略のヒントがあるんだ。小屋から出て起伏の上から見た景色が異なっていればどちらかが正解のルートでそれを見つけるヒントを探すべきなんだろうだ今回は全く同じだった。となると右か左かのどちらかという選択だけじゃないんだ。もう1つ選択肢があると考えたんだ」


 そしてローリーはもう1つの選択肢というのを3人に説明する。


「明日やってみないか。間違いなら戻れば良い。そして正解ならそのまま攻略だ」


「そうなると俺とマーカス。ローリーとハンクだな」


 ローリーの選択肢を聞いたランディが言った。他の3人もそうなるなと同意する。


 ローリーが思いついた3番目の選択肢とはY字の分岐の先にある右と左の小屋の扉を同時に開けて外に出ることじゃないかという。


「それでどうなるかだ。別々に出た後でそれぞれの小屋の扉を開けてみよう。開いたら戻れば良い。自分の勘だが正解になると閉まった扉は開かない気がする」


「となると起伏の先に見えていたあの数の魔獣を2人で相手しながら攻略していくってことか?」


 ハンクがびっくりして聞いてきた。


「いや、正解だった場合には違う世界が見えてくるのだと思う。砂漠にいる魔獣の数が減るか、あるいは全く違う世界が目の前に広がっているか。ただどこかで4人が合流できるのか、あるいはずっと別々で攻略するのかまでは分からない」


 ローリーに言わせると自分たちが見たあの数の魔獣を二人で討伐させることはダンジョンは考えていないだろうという。あれは正解を導くことができなかった時の罰ゲームじゃないかと。地獄のダンジョンは冒険者の心を折ってくる鬼畜仕様になっているが100%不可能な攻略設定はしていない。彼はそう考えている。罰ゲームで冒険者を殺すのは言わば冒険者達が未熟だからだ。正解のルートだと冒険者の技量ギリギリの難易度に仕上げてくるはずだと。これは普段からローリーが思っていることであるし今まで攻略してきた時にもそう感じていたという。


 彼の言葉に他の3人は言葉がなかった。


「地獄のダンジョンは技量のみならず知力の比べ合いだ」


「つまりローリーとダンジョンの意思との勝負だな」


「まぁこっちは俺一人じゃないけどな」


 ランディがローリーの作戦でやってみようと言い方針が決まった。幸いにランディがアイテムボックスを持っている。食料、水はローリーとランディが持っている。あとはランディとマーカスの組みがポーション、毒消しなどの薬品を揃える必要がある。


 4人はローリーの部屋を出ると市内で必要な薬品をたっぷりと買い込んだ。正解だった場合はあの小屋の扉が開かないというローリーの見立てについて誰も疑問は挟んでいない。常に最悪の事態を想定して動くのは冒険者の基本でありそれが地獄のダンジョンの挑戦なら尚更最悪の事態を想定する必要がある。


 薬品を買って準備を整えた4人はそのまま外で夕食をとりながら2組に分かれた際の打ち合わせを行った。

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