第51話
「準備はOKかな?」
ストレッチをしていたランディが最後に大きく伸びをすると言った。全員が大丈夫だと返事をする。
「じゃ行こう」
ランディを先頭に49層の階段を降りて目の前に伸びている暗い通路に足を踏み入れる。前方が見えない程に暗いのでローリーが魔法で灯りをつけようとしたそのタイミングで壁の一部が明るくなった。自分たちが歩いている周囲だけを照らす灯りの様で足元は見やすくなったが前方までははっきりと見えない。通路を振り返ると過ぎた場所の灯りは消えている。
自分たちの周囲だけを照らす灯りの中通路を進んでいくと右に直角に曲がっている。それを曲がり20メートルほど進んだところで通路はYの字に分かれておりそれぞれの通路の5メートル程先には上に上がる階段が見えていた。そしてどちらの階段の先にも扉があり今は閉まっている。
まず左の階段を上がり、扉を開けるとそこは砂漠の入り口だった。目の前に砂漠が広がり、出口から砂漠に向かって踏み固められた様な道が伸びているのば見える。一旦戻って右の階段を上がって扉を開けるとそこも砂漠の入り口だった。そちらも同じ様に踏み固められた土の道が砂漠に伸びていた。4人は階段を降りてYの字になっている分岐の場所に集まった。立っている場所からは2つの階段と出口の扉が見えている。
「どちらかが正解のルートでどちらかがダメなルートかな」
「俺もそう思った」
ランディが言うとマーカスが続いて言った。
「普通に考えりゃそうなるよな。ローリーはどう思うんだ?」
聞いてきたハンクに顔を向ける。
「いや、普通ならそう考えるだろうし俺もまずそう思ったよ。ただここは49層なんだよな」
「そんな単純なもんじゃないと思っているのか?」
ランディが聞いてくる。そうなんだよと頷くローリー。
「どちらかが正解、どちらかが不正解。いずれにしても49層だから出会う敵は相当に強いだろう。倒しまくって進んでいく。と考えるよな。でも本当にそれでいいのかと思ったんだが他にアイデアが浮かばない」
アイデアが浮かばないのならとりあえず行ってみるかということになった。左の階段を登って扉を開けるランディ。階段を登っているランディを見ていたローリーが一瞬違和感を感じたがそれが何なのか気づく前に最後を歩いていた彼も階段の上、砂漠の入り口に出ていた。周囲を見てみると背後は真っ直ぐに切り立っている崖でどこにも登れる様なスロープはない。正面に伸びている地面が踏み固められた道らしきものは起伏の上にまで続いていた。見える範囲に敵の姿はない。
4人は砂漠に伸びている道を歩いて起伏の上に立って周囲を見た。
「こりゃすごいな」
全方向を見ているランディが言った。ランディだけじゃなく全員が顔や体を動かして360度全方向を見ている。背後には小屋があるがその屋根には何もサインらしきものは見えない。一枚板の屋根だ。その背後は絶壁になっていてその上は雲の上にまで伸びていた。頂上が見えない。その崖が小屋の背後から左右に一直線に伸びている。背後にルートはない。
左右は砂の砂漠でここから見ても数えきれないほどの流砂の渦が見えていた。まともに歩くこともできないだろう。
そして正面だ。踏み固められた道は真っ直ぐに伸びているがその先にはどう見ても高ランクの魔獣、蠍やオークと言ったのが徘徊している。どう見てもリンク必須だろう。見る限りだと常時3体から4体を相手にしなければならない、それもほぼ連続しての戦闘になりそうな感じだ。
「あの中を突っ切るしかないのか?」
前を向いているハンクが心底嫌そうな声で言った。倒すのはこの4人なら難しくはないが先が見えない。そしてこの気候だ。真上から強烈な陽の光が注いでいる。体力を削がれる中リンクに対処して進んでいく必要がある。
戻って見てもう一つの出口を見てみようというローリーの言葉で全員が引き返すと小屋に近づいていく。ローリーが閉じている扉を開けて階段を降り、今度は右の階段を登って小屋の扉を開けた。
見える景色は全く同じだ。目の前に起伏がありそこまで進んだ4人はその場から前後左右を見た。
「どうなってるんだ?さっきと全く同じに見えるんだが」
「俺もだ」
マーカスとランディが言った。ハンクとローリーも同じだった。さっきと全く同じ景色が目の前に広がっている。ただし小屋は1つしかない。流砂の渦の位置、そして徘徊している魔獣の位置やその種族も全く同じ。Y字になって出口は2つあるが外に出ると見える景色は全く同じ、ただ小屋は1つしかない。しばらく同じ景色を見ていた4人。
「小屋に戻ろうか」
ランディが言い全員で起伏を降りて小屋を目指す。今回もローリーが先頭に立って小屋の扉を開けて階段を降り、Y字の分岐まで戻ってきた。ランディ、マーカス、そしてハンクの3人がローリーに顔を向けた。
「一旦地上に戻らないか。闇雲に砂漠を進んで行くのが正解じゃない気はしてるんだが、じゃあどうするんだという手が見つからない。落ち着いて考えたいんだ」
3人がそうしよう、競争じゃないし急ぐ必要はないからなと言い、来た通路を逆に歩いて49層に降りた場所に戻ってきた。幸いにこのフロアは進んだら戻れないというギミックはない。そのまま地上に戻ってきた4人、まだ昼前の時間だったがダンジョンから常宿に真っ直ぐ帰ってきた。
「悪い。ちょっと部屋で篭ってくる。今見た49層の記憶を忘れる前に考えたいんだ」
宿に戻るなりそう言って2階の自室に行ったローリー。他の3人で早めの昼食を摂ることにする。ローリーのあの性格を他のメンバーは熟知している。と同時にパーティの知恵袋である彼に任せるのが良いだろうとも知っていた。
とはいえ3人は彼任せではなく食事をしながら意見交換、自分たちが感じた事、思った事を口にする。
「違う出口から出て全く同じ景色。見た限りだとどちらが正解か分からないよな」
「ローリーを見ていて俺も今回はかなりしっかりと360度全方向を見た。でも違いを見つけられなかったよ」
「俺もだ。しっかり見たがどっちも同じにしか見えなかった」
ランディ、マーカス、そしてハンクと皆同じ意見だ。2つの出口から出たが外の風景は全く同じ。ただ小屋は1つしかない。
「起伏の上からは向こう側、反対側は見えなかった、地平線だけだ。そして魔獣が徘徊していた。あの中を突っ切るのは正直きついぞ」
ランディの言葉に同意する3人。結局食事をしながらの話し合いは堂々巡りになり、具体的な攻略のアイデアが浮かばなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます