第19話
砂漠の地平線がうっすらと明るくなったと思ったらあっという間に夜が明けた。黎明の時はほとんどなく暗闇から一気に砂漠に陽が差し込んでくる。
その中にある小屋で朝食をとった5人は小屋から出るとローリーが収納に納めていた梯子を取り出すと小屋の壁にかけた。前回の経験から用意していたのだという話を聞いて感心する他のメンバー。
「これならカリンも登れるだろう?」
「本当ね。助かるわ」
梯子を登って小屋の上に出るとまずはそこから周囲を見渡した。遠くに雪山が見える以外は全てが砂の地平線だ。見る限りではサインらしき物はない。後から登ってきたメンバーも同じ様に周囲を見るが気がつくことはないと言っている。
ローリーは次に石が積まれている足元の屋根をみた。石は屋根に張られている木の板の上に隙間なく埋め込まれている。端から石が落ちない様に屋根の四辺の木は石垣の高さと同じくらいの高さで垂直に立っていた。
「あれ?」
屋根の上を歩いていたカリンが声を出した。そちらに近づいていくローリー。
「この辺だけ止め板がまっすぐじゃなくてギザギザ状になってるの。どうして?」
カリンが屋根の端にある石垣を留めている板を指差して言った。ローリーはそれを見てから残り3辺の板を見るが他の3辺の板はまっすぐでここだけギザギザになっている。全員が集まってきてそれを見ている。
「どういうことだろう?」
ランディが言った。
「ヒントだ」
「「ヒント?」」
ローリーの声に全員が彼を見る。
「間違いない。これはヒントだ。ちょっと待ってくれ」
ヒントが何かとも言わずにローリーはそこから離れると今度は彼らがいる場所と反対側の屋根の端に移動して屋根に置かれているブロック状の石垣をじっと見る。他のメンバーはじっと彼を見ていた。こうなると彼が言葉を発するまで黙っているのが従来からのこのメンバーのスタイルだ。
少し離れたところからローリー見ている他の4人。そのローリーはギザギザになっている板を見、そして視線を屋根に敷き詰められている石のブロックに落としていた。
「分かったぞ!」
数分後、ローリーが声を出した。こっちに来てくれという声で全員がローリーが立っている場所に移動してきた。
「カリン、よく見つけてくれた。カリンの見つけたギザギザに切られている板を見て屋根をもう一度見たら謎が解けた」
ローリーは反対側にある屋根の端にあるギザギザに切られている板を見て言った。
「あれは山を表している。つまり俺たちが向かおうとしている雪山だ」
「なるほど」
頷く彼らを見て言葉を続ける。
「それでだ。ここから屋根に置かれているブロック状の石を見てくれ。まずここだ。他の石より赤みがかっているだろう。これが俺たちが今いる小屋だ。そしてこことここ、この2箇所も石の色が周囲と違う。つまりだここの次はこの石、そして最後にこの石の場所に行けば小屋か他の目印があるはずだ。その3つを訪れてから山に近づくとそこで次のヒントあるいは41層に降りていく階段が見えてくる様になる」
ローリーが指差した3つのブロック石は確かに周囲の石と大きさは同じだが色合いが違っていた。今いる小屋から今度は山に向かって左前方に進み、そこからは右前方に進むルートになる。全員がローリーが指摘したブロック岩をじっと見て確かに違う色をしていると言った。
「流石だ。ギザギザから山を連想して石のブロックから小屋を推定してルートを割り出す。ローリーじゃないとできないだろう」
そう言ったランディの言葉に大きく頷く他の3人。
カリンはローリーの観察力と洞察力に感心していた。彼が優秀なのは知っていたがこうやって一緒に活動をするとその凄さを目の当たりにする。
「ローリーじゃないと見つけられなかったわね」
「そうだな。あのギザギザが山だというのは分かったかもしれない。だから普通なら山に向かって行けばいいんだとここから真っ直ぐに山を目指すだろう。だがそれだと次の小屋に辿り着けない。3つ目の小屋は見つけることができるかもしれないがこれもローリーが言っていた様に全ての小屋を訪れることがトリガーになっているのだとすると3つの小屋を見つけるまでは砂漠を延々と徘徊することになる」
マーカスがカリンに説明する様に言っている。その一方でローリーはランディと話をしていた。この小屋から次の小屋までの方向の確認だ。
「小屋から小屋への距離は信用できないが方角は信用できるだろう。進む方角を間違えなければ朝出て夕刻には見えてくるんじゃないか」
「確かにな。途中には休憩できるオアシス等は無いと思った方が良いだろう。しっかり準備をして行こう」
屋根から降りると全員が装備を確認してから山に向かって左前方に歩き出した。歩き難い砂の上だが1日歩くとコツを掴んでくる。初日よりは早いスピードで砂漠を進んで行く5人。相変わらず砂漠の中や地平線の影からランクSクラスの魔獣が現れては襲ってくるがそれらを倒しながら一直線に進んでいったその日の夕刻。日はまだ地平線より上にある時間に最初と同じ造りをしている小屋が見えてきた。
周囲を警戒し、中の気配も探ってからランディが扉を中に押して部屋に入った。昨日の小屋と同じく全く気配がなく部屋の造りも一緒だった。
日が暮れるまで時間があるので屋根の上に上がったローリー。梯子をかけて上がると後から4人も上がってきた。
「間違いなさそうだ」
「ああ。同じギザギザの板と色の違うブロック石が2つある」
屋根に敷かれている石は2つだけ色合いが異なっていた。昨日止まった小屋を表す色の違う石がないのがこのルートが正解であることを示している。
「ここに最初来たとしたら俺たちが昨日夜を過ごした小屋を見つけるのは相当厳しそうだ」
「その通りだ。今いる小屋の場所のブロック石が他のと同じ色合いだからな。次は左前方だと思ってこの小屋から出ていくと山裾まで全く小屋を見つけることができないだろう。ただまずは山に向かって歩き始めるだろうからスタート地点から最初の小屋を見つけることができる確率は高いけどな」
「確かに。ただあの石のヒントを読み解かないとここには来られないってことだな」
「そうだろう」
ローリーとランディが屋根の上で話をしている間他の連中は話を聞きながらも周囲を警戒していた。ローリーも屋根の石から顔を上げて雪を被っている山々を見る。その姿は昨日よりは近づいているがまだ距離がありそうだ。あの山裾に41層に降りる階段があるのかあるいはその手前にあるのか。
判断するのはまだ早いがとりあえず明日の方向は決まった。ここから今度は右前方に進めば良い。小屋に戻ると全員に向かってローリーが思っていることを言った。
「今の所は正解のルートを進んでいるみたいだ。ただ皆もわかるだろうが小屋は最低でもあと1つはある。つまりこのフロアは野営を最低3回して攻略するフロアになっている。1日よりも2日目、そして3日目と疲労は蓄積されていく。幸い今日は早めに小屋に着くことができた。早めに食事をして早めに休もう。そしてもし明日の朝体力が回復してないと感じたら隠さずに言ってくれ。この小屋でもう1日過ごしても良い。疲れているのに黙っていられて砂漠で倒れられる方がずっと困るからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます