第18話

 大きな起伏もなく変な表現になるが砂の大海原を結構な頻度で襲い掛かってくる敵を倒しながら歩いていると陽炎が立っている地平線の右の方にに建造物らしきものが目に入ってきた。最初に見つけたのはローリーだ。ただまだ相当距離があるしあそこに行くには山に向かって右手に方向転換をしなければならない。まだ陽が差しているからかろうじて見つけることができたがあと数時間遅くなったら暗闇に隠れて見つけられないだろう。


 途中で湧いてくる魔獣を倒しながら進んでいくと建造物がしっかりと目に入ってくるまで近づいてきた。陽は傾いていてもうすぐ日が暮れそうだ。


 それはブロック状の石で積み上げられた小屋だった。小屋と言っても10メートルX10メートル程の大きさがある。窓には木枠がはめ込まれてガラスが張られていた。扉は木製だ。屋根は平らで木の板の上にブロック状の石垣を積んでいる様に見える。


 5人は周囲を警戒しながらゆっくりとその小屋に近づいていった。ローリーは小屋の中の気配を探るが中に反応はない。少なくとも姿を現わしている敵はいない様だ。それを言うとランディが扉の取っ手を掴むと一気に押して扉を開けた。


 中に入るとひんやりとしていて外に比べるとずっと温度が低い。床は砂ではなく木の板が敷かれていた。中に区切られた部屋はない。大部屋1つあるだけの小屋だ。窓は扉の左右に1つずつそれと各壁面に1つ、合計5つ窓があり全ての窓にガラスがはめ込まれている。5人で部屋の中を床まで探るがどこにも魔獣の気配らしきものは無いとわかると大きなため息をついた5人。


 足元が悪い砂漠の上を強烈な日差しを浴びながら何時間も歩き、その間にランクSとの魔獣との戦闘を繰り返してきた彼ら。流石に疲労の色が濃い。


「多分大丈夫だろう。ここは安全地帯っぽいな」


 腰を下ろしたランディが言った。他のメンバーも砂の上じゃない涼しい木の床に腰を下ろす。


「俺達だから日が暮れる前にこの小屋にたどり着けた。普通ならあの戦闘をして砂漠を歩くとなるともっと時間が掛かっていた筈だ。暗くなったら見つけられなかったかもしれない」


 腰を落としたローリーが収納から野営の準備と食事、水やジュースを取り出して床に並べながら言った。


「なるほど。相変わらずいやらしい造りになってるな」


「本当だぜ。ギリギリで見つけられる場所に小屋を作るとはな。それにしてもよく見つけてくれたよ」


 床の上に置いた冷たい飲み物を早速手にしたハンクとマーカスが言った。ローリーはボトルをカリンに渡すと、


「逆に言えばこの小屋を見つけられない奴らではこのフロアは攻略できないってことだ」


 どういう事だと皆がローリーに顔を向けた。その中にはカリンもいる。


「まだフロアの序盤だと思う。恐らくこういう安全地帯がまだいくつかあるのだろう。それらを見つけてしっかりと休まないと途中でへばってしまうという意図だと思う。ゴールかどうかは分からないがあの山々までもまだ相当距離がある。この40層は桁違いに広いんだと思った方が良い」


「となるとこのフロアのギミックは?」


「まだ確定できないがおそらく炎天下の砂漠を歩かせながら休憩できる小屋を見つけられるかどうか。ひょっとしたらいくつかあるこういった小屋を訪れることが下層に降りるトリガーになっているかもしれない」


「おいおい、そこまで鬼畜仕様なのかよ?」


 ランディとローリーのやり取りを聞いていたマーカスが言ったがその言葉にすぐにランディが反応した。


「マーカス、ここは地獄のダンジョンだぜ」


 その言葉を聞いたマーカスの表情が変わる。


「確かにな。俺の認識が甘かった。ここは地獄のダンジョンだ。常識なんて通用しないんだったよな」


「その通りだ」


 日が暮れるとあっという間に真っ暗になりそれと同時に気温が下がってきた。ここにいるメンバーは砂漠対策として防寒装備も持参してきている。それと小屋の中は外ほど寒くはない。


 小屋の扉が開いて外を見ていたローリーが入ってきた。


「近くに魔獣の気配はない。ただ夜は交代で見張りを立てよう。何があるかわからないからな。幸いにして窓がある。寒い外で見張る必要はないだろう。明日夜が明けたら屋根の上に登ってみよう。サインがあるかもしれないからな」


 日が暮れた。ここはダンジョンの中なので日が暮れて夜になると星が出ることもない。文字通りの真っ暗闇となる。ローリーが収納から魔石ランプをいくつか取り出して魔力を通して部屋の数箇所に置くと少なくとも部屋の中は明るくなった。


「灯りを見つけて魔獣が近づいてくることがあるんじゃないか?」


 光っている魔石ランプを見ていたハンクが言った。


「もちろんその可能性もある。ただそれよりも部屋が真っ暗の方が嫌だろう?魔獣が来たら倒せば良い話だ。それよりもある程度の灯りがあった方が武器や防具をすぐに手に取れる。そして戦って倒せない敵はいない」


 そう言い切るローリー。

 敵に見つからないのが良いか、それともある程度のリスクを冒してでも自分たちが動きやすい方を取るか。ローリーはこの面子ならもし襲ってきても勝てるとふんだから明かりをつけた。これが襲われたら勝てないと思ったら灯りもつけず息も殺して小屋の中でじっとしようと提案しただろう。


 自分たちの今の場所と周囲にいるであろう魔獣のランク。それらを総合的に判断して勝てるとふんで明かりをつけたローリーの考えを全員が支持した。


 ローリーは見張りの交代までに小屋の壁にもたれて目を閉じてこの40層の予想を立てる。あからさまな罠はないが言ってみればフロア全体が1つの罠になっているのではないか。罠、謎解き。それがこの40層でありそれに加えて敵が襲ってくる。敵のレベルは上がっていないがフロアは広くそしてどこに進むかが今の所見えない。肉体的よりも精神的に追い詰めてくるフロアではないかと考える。


 そう考えると今度は自分たちはこの40層をどう攻略すればよいのか。それを考えなければならない。おそらく唯一見えているあの雪を被っている山々。あそこに向かって進めということは何となくわかる。それ以外に目標となる物が無いもないからだ。消去法だが間違っていないだろう。ただそのルートを間違えると野営する小屋がなく砂の上で周囲を気にしながら休まないといけなくなるかもしれない。ルートを間違える?どこで間違いに気づくんだ?あるいはどこかにヒントが隠れているのか?


 今朝から今までの行動を振り返ってみる。砂の斜面を滑り落ちたのは山が見えていたからだ。ここまでは間違っていないという自信がある。


 ローリーは目を閉じながらも頭をフル回転させていた。


 さっき自分が言った言葉を思い出してみる。点在している小屋を見つけそこの扉を開けるかあるいは部屋に入ることが攻略のトリガーになるかもしれない。


 その前提に立ってみると次の小屋を見つけないと行けない。だとしても闇雲に砂漠を歩かせる事はないはずだ。どこかにヒントが隠されている。


 それを見つけるのが自分の仕事だ。ローリーはそう決めるとあとは明日にしようと部屋の壁にもたれて今度は本格的に眠ることに集中した。

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