第17話

 明けましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。





 40層は見た限り遮蔽物が見えなかった。そんな砂漠だと遠隔攻撃持ちは多い方が良いという思いからカリン。そしてローリーが遠隔攻撃を担当するとなると前衛のフォロー役としてルイーズ。遠隔攻撃なら狩人のシモーヌという手もあったが属性魔法を撃てるカリンの方が向いていると判断したローリー。


 ドロシーはカリンとルイーズを見ると2人ともOKだというのでローリが決めた。


「カリン、頼む」


「分かったわ。任せて」


「カリン、うちらの代表なんだからね。しっかりと仕事をしてくるんだよ」


「もちろん」


 ケイトの言葉に即答したカリン。これで40層が人数制限をかけているフロアであった場合のメンバーが決まった。その後は雑談しながら40層で予想される事を思い思いに言い合う。


「敵のランクはS、これは決まりだろうね」


「それは間違いないだろう。40層だしな」


「問題はあの砂漠だよな。歩き難いというだけじゃない気がするんだ」


 テーブルを囲んで各自が思いつく事を言い合っている中、ローリーは黙ってやり取りを聞いていた。単純に砂漠だけなのだろうか。だとしたらヒントはどこにある?また出たところの小屋か?小屋になかったとしたらどこだ? 38層と39層は違っていた。ダンジョンは同じ傾向のフロアが続く事はあるがフロアを飛ばして同じ傾向になったという話は聞いたことがない。ということは38層のあのヒントを探して進むやり方ではない可能性がある。となるとどうなるんだ? 階段から見た40層は砂漠だったがあそこから見えない場所に何かがあるかもしれない。40層に繰り出したら何かが見えてくるだろう。


 最悪の事態も予想するが割り切りも必要だ。でないと地獄のダンジョンは攻略できない。そう信じているローリーだった。



 休養日明け、9名は40層に飛んだ。目の前には細かい砂で出来ている砂漠が広がっていた。陽は地平線よりやや上にあり1日が始まったばかりだと伝えてきている。


「打ち合わせ通り俺達5人が入る。全員砂漠に出てからドロシーらが入れるかどうか試してくれ。無理だったら申し訳ないが一旦地上に戻って欲しい」


 分かったとドロシー、ケイト、シモーヌ、そしてルイーズが頷いた精霊士のカリンはこちら側に移動している。


「気を付けてね」


 というドロシーの声を聞いて5人が砂漠に足を踏み入れた柔らかい砂で足首まで埋まってしまう。最後にローリーが砂漠に出てから振り返ると彼のあとには誰も砂漠に出て来ない。予想通り40層から5名という人数制限が掛かった様だ。


 砂漠にいた5人は暫く小屋を見ていたが誰も出て来ないのを確認するとまずはヒントがあるかどうか小屋を確認しようと手分けして小屋の壁そして肩車をして小屋の上チェックするが38層と違ってここには何もヒントが無かった。階段から降りてきたのに外から見るとそこは屋根のある小屋になっているという造りは38層と同じだが今度はヒントはない。


 38層と同じ攻略方法ではない。何もなかった小屋を見てローリーは判断する。今度は小屋の屋根の上に立ってぐるっと周囲を見てみるがほぼ360度平坦な砂漠が広がっており唯一階段を降りてきた時に見えた正面のみ起伏で砂漠が盛り上がっていた。目印になる様な物は全く何もない。屋根から降りてきたローリーが屋根の上で見て何もなかったと言った後で全員を見て言った。


「とりあえず起伏の上まで行こうか」


「そうだな。それしか無さそうだ」


 砂の中を進みだした5人。目に見える範囲には魔獣はいないがここは40層だ。いつ地下から魔獣が出てきてもおかしくない。砂しかない場所では遠近感がつかみにくい。歩き始めた時は近くに見えていた起伏だが実際歩きはじめると足場が悪い事を差し引いても結構な時間歩いているが近づいたという気がしない。陽は上に昇りきつい日差しが砂漠に降り注いでくる。全員が帽子をかぶっていた。


 なんとか起伏にたどり着いてその上に上がると全員が横に並んでその先を見る。暫く誰も言葉を発しなかった。起伏はその頂上というか高い場所、立っている足元から一気に鋭い角度で下に降りていた。たった今登ってきた起伏よりも数倍の長さを降りていく。足元から斜面にかけて全てサラサラの砂だ。降りたら登ってくることはまず無理だろう。左右を見ればその段差が延々と続いているのが見えた。


 今彼らが立っているのは砂漠の中の高い場所、台地の端の部分だろう。そしてその台地から降りるともう上には戻れない。つまり小屋にも戻れないということになる。


 そして視線を遥か下にある砂場に下ろしてから顔をゆっくりと上げてさ砂漠の広がりを見ていくとそのずっとずっと先に山々が見えていた。相当な距離がありそうだ。その連なっている山々の頂上付近は白くなっていた。雪が積もっているのだろう。


「どうなってるんだ?。一度下に降りたら絶対に上がっては来られないぞ」


 マーカスが素っ頓狂な声を出した。他のメンバーも黙ってはいるが彼と同じ気持ちだった。


「あのはるか遠くに見えている山を目指して行けということかな」


 顔を上げて遠くの山々を見ながらランディが独り言の様に言った。


「左右を見ても何もない背後を見ても何もない。前を見れば砂の斜面とそのずっと先にある雪をかぶった山だ。前に行くしかないだろうな」


 ローリーはそう言って4人を見た。


「山まで行くのかどうかは分からない。ただ行くとしたら相当な距離がありそうだ。そして降りたら砂漠の上から中かあるいは両方から魔獣が襲い掛かってくるだろう。降りる前にここでしっかりと水分や軽食を取ろう。次いつ取れるか分からないからな」


 そう言うと砂の上に座り込んで収納から冷たい水や軽食を取りだした


「冷たい水と軽食だ。皆で食べてくれ。カリンも遠慮しなくていいからな」


「ありがとう」


 帽子をかぶっているとは言え厳しい日差しを受けながら砂漠の中で休憩をする5人。場所に文句を言う人はいない。休める時にしっかりと休み水分や栄養を補給する。これが基本だ。他にもっといい場所があるんじゃないかと休憩を先延ばししたことによって魔獣と連戦になり疲労が取れずに大怪我をするというリスクはここにいる全員が理解していた。ドロシーのパーティから応援で来ているカリンも文句を言わずに砂の上に腰を下ろして冷たい水を飲み軽食を口に運んでいた。


「とりあえず山を目指して進もう」


 休憩が終わって立ち上がるとローリーが言った。その言葉をきっかけに5人が滑る様にして砂の急斜面を降りていく。下に降りてからいま自分達が滑り落ちてきた斜面を見上げるとそこは砂の壁の様に左右にずっと伸びて立ちはだかっていた。


 下に降りても足場は悪かった。砂に足を取られながらもゆっくりと進んで行く5人。歩き出してすぐにローリーが叫んだ。


「左に逃げろ。渦ができるぞ」


 その言葉で全員が左に飛んだ。すると右側の砂が円状に沈んでいき流砂の渦が現れた。


「ローリーの気配感知は相当だな。逃げてから渦が出来るまで時間があったぞ」


 出来上がった流砂の渦を右手に身ながらマーカスが言う。そのまま砂漠を進んで行く5人。


「今のは気配が濃かった。あれくらいなら大丈夫だ」


「頼むぞ」


 その後も砂の中からサンドスコーピオンと呼ばれる大型の蠍の魔獣が現れたり砂が擦れる音を感知して3体程固まって地面からサンドワームが飛び出して遠距離から魔法を撃ってきたりする。魔獣のランクはSに上がっていた。


 精霊士のカリンが大活躍をする。強烈な魔法で現れてくる魔獣に大きなダメージを与えていった。


「流石に本職は違うな」


「でもランディがしっかりとヘイトを稼いでるって分かるからここまで撃てるの」


 ランディとカリンが歩きながら話をしている間もローリーは周囲を警戒している。魔獣を倒した後の短い時間で水分を補給しながら進むこと数時間。背後を振り返ると砂の壁はかなり後方になっていたが正面に見えている山々が近づいてきたとは感じられない。



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