第16話
39層の攻略も大詰めになってきていた。大詰めというのはローリーの感覚だ。実際にはまだ下に降りる階段は見えない。見えないが彼には階段がそう遠くない場所にあるという確信があった。
依然として流砂の川の中からはもちろん砂の地面の中からも魔獣が飛びだしてくる。どう考えても地面に積もっている砂の厚み以上、極端に言えば10センチや20センチほど積もっている砂の地面から体長2メートル以上のSランクの真っ黒な蠍が飛びだしては9人に襲い掛かってくる。それも単体でなはく2体同時に飛び出してくることもあった。
ローリーが蠍や蛇が飛び出してくる前に右、左と声を出すのでメンバーは準備ができ次々と湧き出てくる魔獣を倒しては奥に進んでいく。
「前方に空洞の壁、その前にゴーレム1体。恐らくあれを倒すと下に降りる階段だ!」
その言葉で最後のギアアップをして行く手を阻む魔獣を倒して前に進んでいくメンバー。ケイトもドロシーも歩みを止めずに左右から飛び出してくる魔獣を剣で切り裂いていた。
「一気にやるぞ」
先頭にいたランディが空洞の壁、洞窟の前に立っているゴーレムに挑発スキルを発動。ゴーレムは体長が4メートル程、全身が岩でできておりランディが挑発すると直ぐに拳を突き出してきた。その拳から小石がランディに向かって飛んでくるのを盾でしっかりと受け止めた。同時に突き出された拳がランディの盾にぶつかるが彼はそれをしっかりと受け止める。
「そいつはこのフロアの今までの敵とは違うぞ格上だ」
拳の先から小石が飛び出したのを見てローリーが叫んだ。明らかに普通のゴーレムの動きじゃない。
「分かった。通りで硬いはずだぜ」
しっかりと攻撃盾で受け止めたランディが叫び返す。
すぐにドロシーがランディの隣に並んで2枚盾を作ると交互に挑発をしてしっかりとタゲをキープしはじめる。少しの間をおいてケイト、ハンクの戦士コンビがゴーレムの左右から足を狙って片手剣を何度も振り始め、シモーヌ、マーカスの狩人コンビはゴーレムの顔や腕に矢を射る。カリンは精霊魔法を狩人と同じ場所に打ち込んでいきゴーレムを囲んだ形で攻撃が始まった。
ルイーズは2枚盾の背後でしっかりと2人のフォローに徹しローリーは精霊魔法を撃ったり戦士に回復魔法を使ったりと縦横無尽の働きをする。何も言わなくとも各自がそれぞれ自分のやるべき事をしっかりと理解し無駄のない動きでゴーレムに対処していた。
15分弱でゴーレムが倒れ光の粒になって消えるとそこに宝箱が現れた。メンバーから歓声があがる。
「NMだったのか」
そう言ったドロシーが箱を開けると金貨と片手剣が入っていた。ケイトがそれを手に持った。
洞窟に入ると直ぐに下に降りる階段が見えた。その階段の手前で全員が腰を下ろして水分を補給しつつ今まで攻略していた39層の方に顔を向ける。
「最後の最後でNMが階段前の門番か。いやらしいフロアだ」
そう言ってボトルに入っている水をごくごくと飲むランディ。
確かに最後の最後で今までのフロアで遭遇してきた敵よりも格上のゴーレムが出てきたと思ったら倒したら宝箱を落とすNMだった。
「金貨は100枚。片手剣はアラルに見てもらうよ」
ドロシーが言った。彼女達が持っている魔法袋に金貨と片手剣を収納した9人は階段を降りて途中から40層を見る。
そこは砂漠だった。土漠ではない砂漠だ。しかも今までの様に地面が固められている場所が見る限りではない。見える範囲180度が砂漠だった。前方には起伏が見えている。
「ここを歩くとなると相当体力を削がれるぞ。そして出てくる敵はランクSクラスになるだろう。しかも時間の概念があるフロアになっている。昼間は相当暑くなり、逆に夜は相当冷えそうだ」
とりあえず上に戻ろうかというランディの言葉で全員階段の下にある転送盤にカードをかざして地上にもどっていった。
「地獄のダンジョンの39層か、なかなか良い剣が出たな」
店に持ち込んだ片手剣を見せるなりアラルがそう言った。近くに立っているケイトはその言葉を聞いて期待に満ちた表情になる。
「攻撃力+40、素早さ+30だな」
やったーとその場で飛び上がったケイト。その気持ちは十分に理解できる。攻撃した時のダメージが増え、自分自身は身軽になれる。ハンクの持っている片手剣の劣化版と言ったら当人に怒られるだろう。こちらも滅多に出ない業物であることは間違いない。
これで討伐が楽になるなとドロシーが言っているのが背後から聞こえてくる。ローリーはアラルに鑑定の礼を言った。
「気にするでない。おまえさん達はわしの客ではなく友人だ。これからも必要があればいつでも鑑定してやろう」
「ありがとう。助かる」
リモージュの鑑定家アラル。世間では頭の硬い偏屈なオヤジだというイメージだが実際は情に厚く。信義を重んじる立派な男だ。ローリーは最初会った時からアラルに対して好印象を持っておりそれは今でも変わっていない。一方アラルもローリーに足して同じ印象を持っていた。誰に対しても公平で冒険者らしくないローリー。ただ冒険者らしくないという点についてはローリーのみならずここにいる全員がそうだ。アラルが以前抱いていた冒険者という人種の概念を崩す9人がここにいた。
アラルの家というか店を出た9人はそのままリモージュ市内にあるレストランに移動して食事をしながらの打ち合わせをする。これはダンジョンから地上に戻って来た時のルーティンになっていた。
「40層だけどそろそろ人数制限があってもおかしくなくなると思ってる」
「確かにな。40層だからな」
ローリーが言うとランディが続いた。他のメンバーも食事の手を止めて頷いている。
「40層だけどまず俺たち4人で攻略を開始する。ドロシーらは階段で待機してくれ。もし人数制限があるとしたら時間が経ったところで階段から降りられなくなるはずだ」
彼の予想では通常5人のパーティの場合5人目がフロアに出たあとは6人目は弾かれるが自分たちは4人だ。従って少し時間が経ってから目に見えない壁の様なもので止められるのではないかと言う。
「仮に40層から人数制限があるとしてだけど、こちらから1人助っ人を出すのはどう?そうしたらそっちは5人になって攻略の難易度も下がるんじゃないの?」
ドロシーが言った。彼女は皆を見て続ける。
「ただし助っ人を出すのは40層だけ。その1人が40層をクリアして戻ってきたら今度は私たちが5人で40層に挑戦する。助っ人が40層をクリアしているから仮に難易度が上がったとしても対応できる。私たちだって自分たちの力で攻略したいからね」
「なるほど。そっちが改めてというか本来のメンバーで40層を攻略し、俺たちは41層から4人で攻略するのか」
悪くない提案だと思うがどうだい?とランディが仲間に顔を向けた。マーカスとハンクはいいアイデアだと言い、ローリーも悪くないと言った後でドロシーに聞いた。
「で、誰を助っ人に出してくれるんだ?」
「そっちの希望は?」
ドロシーが逆に聞いてきた。
ローリーは目を閉じてジョブと構成を考える。40層は見た限りは本当の砂漠だった。どう言う敵が予想されるか頭の中でシミュレーションしてみる。男性3名はローリーを信用しているので口を挟んでこない。
周囲はローリーの性格をよく知っているので彼が目を閉じるとああ始まったなという感じで見ていた。こうなると待つしかないというのもよく知っている彼ら。
しばらく目を閉じていたローリーが目を開けて言った。
「助っ人をお願いするのならルイーズかカリンだな。どちらにしても俺のサポートというか代わりをしてもらうことになるが」
ルイーズなら僧侶としてパーティの回復を任せ自分は戦闘に特化する。カリンなら遠隔攻撃を任せて自分は回復をメインで担当しながら時折精霊魔法で援護する。
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