第20話

 体調不良を訴えるメンバーがいなかったので日が上ると砂漠に繰り出した5人は今度は山に向かって右前方に進んでいき、途中で戦闘を繰り返しながら夕刻に3つ目の小屋が立っている場所に近づいてきた。


「待て」


 小屋が近づくとローリーが声を出した。その声で全員が戦闘体制になる。


「いるぞ。それも2体。ランクはS。扉を開けて外でやろう。小屋を壊されたら堪らないからな」


 ランディが扉にゆっくりと近づいて合図をしてからドアを奥に開けると中から矢が飛んできた。と同時に体長2メートル以上もある魔人が姿を現した。1体は片手剣を持ち、もう1体は弓を持っている。ランディが弓を持っている魔人に挑発すると片手剣を持っている魔人に自分の剣を突き出して傷をつけた。これでランディが2体のタゲを持つことになる。


 それを見た他のメンバー。ハンクはランディと一緒に剣を持っている戦士タイプの魔人に攻撃を加え、他の3人は狩人タイプの魔人に一斉に攻撃を加える。言わずとも短期決戦でケリをつけることがわかってる5人。カリンも最初から威力の大きい魔法を打ち、マーカスは矢が勝手に出てくる精霊の弓で連続攻撃をする。ローリーはランディとハンクに強化魔法と回復魔法をかけた後はカリンと同じ様に精霊魔法を狩人タイプにぶつけてまず狩人を倒した。すぐに戦士タイプの魔人にターゲットを変更。攻撃する数が増えたこともあり狩人タイプの魔人が倒れてからそう時間を経てずに戦士タイプの魔人を倒す。


「宝箱があるぞ」


 部屋に入ったランディが声を上げた。部屋にはもう敵の気配はない。ここも今までの子やと同じくだだっぴろい部屋があるだけだ。


 宝箱を開けると金貨と指輪が入っていた。金貨は100枚ある。その場で5等分し指輪はローリーが収納に納めた。外を見ると陽が地平線に沈むところだった。


「屋根の上は明日の朝調べよう。それよりこの小屋に魔人がいたということはここらが魔人や魔獣の活動範囲なのかもしれない。灯りは暗めにして見張りを強化しようか」


 ローリーの言葉にそれがいいと全員が賛成する。今までの小屋での休憩が条件が良すぎたのだ。本来はダンジョンの真ん中で野営をするとなると常に周囲を警戒しなければならない。つまりこの小屋の状態が普通だということになる。


 ハンクとマーカスが窓の外を警戒している中食事をしながら明日からの方針の確認をする5人。


「最初の小屋の屋根にあったヒントでここまで来た。ここから先はヒントがないのかあるいはまた別のヒントが出るのか。屋根には明日朝上がってみるがそれ以外で気がついたことがあったら何でもいいから言ってくれ。皆で言い合っているうちに正解が見つかることが多いからな」


「普通に考えたらこのまま山裾に向かって一直線に進むんだろうな」


 小屋の窓から外を見ているマーカスが顔を外に向けたまま言った。


「その通りなんだけどそれが正解かどうかが確認できないってことだろう?ローリー」


「まぁその通りだ。正直ランクSが2体程度なら40層に降りてくるパーティにとっちゃあ脅威とは言えないだろう?となると他の仕掛けがあると見てるんだよ」


「その他の仕掛けってのが最初の小屋の屋根の上にあったサインじゃないのか?」


 別の窓から外を見ていたハンク、顔を部屋の中に向けて言った。


「俺の勘繰りすぎかも知れないんだけどな。一筋縄では行かない気がしているんだ」


「つまりあれだけじゃ無くてまた新しいサインがあるかもって事よね。ローリーのそういう勘って結構当たるわよね」


 カリンが言うと他の男性3人がそうなんだよなと同時に言う。


「明日は俺が上に上がるから他のメンバーはこの小屋の中もしっかりと見てくれるかな。床とか壁とか隅々まで調べてくれ」


 交代で見張りをしながら夜を過ごした5人。幸いに魔獣が襲ってくることもなくしっかりと休めた翌朝、ローリーとカリンは梯子を使って屋根の上に上がり他の3人が部屋の中を調べ始める。


 屋根に上がるとそこは今までの小屋の屋根と同じだった。ギザギザの板、色の違うブロック石。見た限り数も3つから変わっていない。屋根の上を歩いていると下から声がした。


「こっちは何もなかったぞ」


「わかった」


 こう答えて屋根から顔を上げて山々に顔を向けたローリー。


「あの山のどこに行けばいいんだろうか」


「端から端まで歩くとなると相当な距離になるわよ」


 屋根の上で同じ様に山を見ているカリン。


「そうだよな。1日じゃ無理だろう。何日もかかる」


 地平線から登った陽が明るく砂漠を照らす。当たり前の話だが今日も猛暑の中砂の上を進まなければならない。


 もう一度ゆっくりと屋根の上を見たローリー。仕掛けが見つけられずとりあえず山の方に向かって進むしか無いかと思い、先にカリンを下に下ろして自分も降りようかと最後に山の方に顔を向けると連なっている山の1つの中腹辺りで1箇所が光だした。


「おい!」


 その声を聞いて全員が梯子を伝って上に上がってきた。一度降りたカリンもまた上がっている。そしてローリーが指差している方向に全員が顔を向けた。


「光っている」


 山を見ていたハンクが声を出した。


「あれは何かに反射してるんだ。陽の光が何かに反射して照らしているんだ」


 反射している場所を見ながらローリーが言った。


「となるとあれが目的地ということ?」


「その可能性がある。陽が登り始めたわずかな時間にこの小屋を反射した光が照らす。もう少し時間がたてば反射している光は小屋から見えなくなる」


「朝のわずかな時間にサインが出ているということか」


「確証はない。ただ何も無いダンジョンで山のあの辺りが光る事はない。あの光っている山裾に41層に降りる階段があるんじゃないかと思うんだ。マーカス、下に降りて地面からあの光が見えるか確認してくれるか?」


 すぐにマーカスが下に降りて山の方に顔を向けた。


「地平線ギリギリにが光っている見えない事はないがよっぽど注意して見ないと砂の反射と間違えてしまいそうだ」


 屋根に登らなくとも注意すればサインが見える。これで決まりだとローリーは判断する。梯子から降ると全員に言った。


「おそらくあの反射している光がサインだ。俺たちは今からあの方向に向かって進もう」


「流石のローリーだ」


 ローリーの優秀さは分かっているつもりだがそれでも次々とヒントを読み解いていくその能力にはランディをはじめここにいる全員が驚くと同時に感心していた。彼がいなかったら40層の攻略は進まなかったことは間違いないと皆思っている。


 40層に入る前にドロシーやケイトからしっかりと見てきておいてねと頼まれていたカリン。40層を攻略し始めると魔獣や流砂渦を感知するローリーの能力にびっくりしていたがそれ以上に常に周囲に目を配ってサインを見つけその謎を解いていくその頭の良さにも驚き、感心する。以前からローリーはこのパーティの参謀で思慮深く頭が良いとは聞いていたが実際にこうやって一緒に行動すると彼は自分の想像以上に優秀なのだと再認識する。何も知識がない中で自分たちのパーティ女5人でこの40層を攻略したとすればおそらく全く何も見つけられなかっただろう。この広大な砂漠が広がるフロアを右往左往していたのは間違いない。


 このフロアの出口がわからず身内同士で喧嘩して最後は食料も尽きて野垂れ死にになっていたかも知れないと思うとゾッとする。


 反射していた光は1時間も経つと自分たちからは見えなくなった。陽の場所と小屋のある場所を照らすのは1時間弱だけだ。


「右に飛べ!」


 それだけで全員が右に移動する。するとすぐ左に流砂渦が出来始めた。直径10メートル以上はある大型の渦だ。他のメンバーはローリーの感知能力にはもう慣れているのでできた渦を横目に見ながら砂漠を進んでいった。進んでいると今までずっと平原の様に平らだった砂漠に起伏が出はじめる。


 昼を過ぎて、いくつか起伏を超えるとその先に山裾が見えてきた。山裾が見えたので全員のテンションが上がり出会う魔獣を倒して進んでいると、


「小屋だ!」


 5人の目の前に小さな小屋が見えてきた。降りてきた時に砂漠に踏み出したあの小屋と全く同じ作りの小屋だ。近づいていくと扉はなくそこには下に降りていく階段があった。


 全員が大きな声を上げて喜びを表してから階段を降りて転送盤にカードをかざした。

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