第22話

 ランディらはそれから2週間をかけて41層から44層までを攻略した。この3つのフロアは全て力技での攻略を求められたフロアで砂漠の中で絶え間なくSランクを相手に進んで攻略している。


 その間にドロシーらのパーティも40層を攻略し41層も攻略する。攻略のスピードが違うのは2つのパーティの実力の差だろう。彼女らが40層を攻略した後に常宿で食事を摂った際には事前の情報に感謝すると同時によくあのヒントを解いたものだと感心される。


「実際に挑戦してみて分かったわよ。よくまぁあのヒントを解いたものだとね」


「石のブロックの色と配置、そして朝のほんの短い間に照らされる陽の光の反射。ローリーが言っていた違和感を探せというのがよく分かったわ」


 ドロシーに続いてケイトが言った。ローリーの言葉を聞いて実際にその場に遭遇するとよくわかる。確かにヒントはいずれも違和感を感じないと解けないだろう。


「板のギザギザを見つけたのはカリンだが、あのギザギザを見て何故ギザギザ状になっているんだという違和感から推定できれば後は難しくはない。山に近づく目標があるんじゃないかと探す作業になるからね。大事なのはあのギザギザが山々を表現しているんじゃないかと感じられる感性だと思うよ」


 その感性を育てるのが大変なのだということは聞いているケイトをはじめ他のメンバーも分かっている。知識の詰め込みだけじゃあ完全とは言えない。感性、もって生まれた感覚が重要になってくるのだと。


 ただだからと言って諦めるのは考えていないケイトだった。ローリーまでとは言わなくでも自分でも感性はある方だと思っている。あとはそれを鍛えて伸ばすだけだ。鍛える、伸ばすには普段からそれを意識して行動することだ。


「45層がまたややこしそうなんだよ」


 食事を終えてジュースを飲んでいるランディが言う。他のメンバーもそうだよなと同意していた。45層は砂漠から一転して砂の洞窟になっていた。


「階段から見た限りでも洞窟が格子状というか幾つも分岐があるのが見えた。壁と天井は土を固めてあるが歩くところは砂だ。足元が悪い中迷路の中を進んでいかないと行けない。魔獣も強くなっているだろう。地獄のダンジョンの最深部に入ってきたなと実感させられる風景だった」


 階段を降りたところから45層を見た印象を語るローリーだがその表情に悲壮感はない。地獄のダンジョンではこれくらいは当然だろうと思っていればいやらしいフロアを目の当たりにしても予想通りだったと思えるからだ。


「42層、43層なら逆に精霊士がいるそっちの方が得意なフロアになるかもしれないな。威力がある遠距離攻撃は有効になる」


 そう言うローリーだがカリンをはじめとする女性陣は賢者ローリーの精霊魔法の威力も半端ないということを知っている。そしてマーカスの弓は矢が要らない優れものだ。連射の速さならシモーヌよりずっと上だろう、それに弓の威力もエルフから貰った弓の方が上だ。42層の攻略も簡単ではないと女性達は考えていた。


「蘇生の薬を手にいれる為とは言えこうやって共同でダンジョンを攻略する方法は悪くないな」


「確かに。40層まで一気に潜れるし事故の確率も減る。まぁ俺たちとドロシーらの様にずっと好関係を続けているパーティ同士だからできるということもあるだろうが」


 ハンクとランディが言ったのを聞きながら頷いている他のメンバー達。お互いの信頼関係が出来上がっているからこその合同攻略だ。互いの実力を知っているからチームワークも悪くないし戦利品の取り分についてもモメることがない。


「リゼでNo.1とNo.2を張っているパーティ同士だからできるんでしょう。とりあえず組もうかなんて発想だと間違いなく途中で関係が破綻するのは間違いないからね」


「ドロシーの言うとおりだ。メンバー全員のベクトルが揃っていないと攻略できない。それが地獄のダンジョンだよな」


 ローリーが確認する様に全員を見て言った。そのとおりだと頷く8人。



 45層は階段から見える範囲でも通路が格子状というかいくつも分岐があるのが見える。階段から真っ直ぐに伸びている土の洞窟。その洞窟は左右に直角に伸びているであろう洞窟と幾つも交差していた。


「マップを作りながら攻略しよう。でないと自分たちがどこにいるのかわからなくなる」


 ローリーは紙と筆記具を取り出している。他の3人は彼なら後衛の仕事をこなしながらマッピングをすることは普通にやるだろうと思っているので何も言わなかった。むしろローリー以上にマッピングができるメンバーがいない。


 マッピングは簡単そうで簡単ではない。全体の距離感を間違えると正確な地図ができない。常に歩数を数えながらのマッピングは難易度が高い作業だ。しかもローリーは唯一の後衛ジョブとして前の3人のフォローをしながらのマップ作成となる。彼以外でそれをできるのはいないだろう。


 しっかり準備をした彼らは休養日明けに45層に飛んだ。


「さてどこに進もうか」


 前を見ていたランディが振り返って言った。その視線はローリーを捉えている。他の2人も同じ様にローリーを見る。目の前は前と左右に同じ景色が広がっている。


「左壁に沿って進んでくれ。常に左側が壁になる様に頼む」


 わかったと頷くと左に進み出した4人。ローリーに何か考えがあるのだろうがそれを聞くものはいない。彼の指示は常に何かの意図を持っているのを知っているからだ。


 ランディを先頭にして常に左に壁があるルートを進み出した4人。途中ではランクSの魔獣が立っており4人を見つけると戦闘になる。それを倒してはまた左壁を進んでいく。何度か戦闘を繰り返して進んでいくと壁が直角に右に折れていた。そこを右に折れて左壁に沿って進んでいく。ランクSの敵を倒して進むと今度は十字路になる。ランディは迷わず左に曲がると再び歩き出した。


土の壁と天井、砂の床の洞窟はどこも全く特徴がなく同じ景色だ。壁の上部がぼんやりと明るくなっており通路のある程度先までは見ることができるがその明るさもどの通路も同じだ。


 ローリーはマッピングをしながら何も言わないので他のメンバーは左壁に沿って敵を倒しながら進んでいた。


 階段を降りて歩き出して5、6時間が経った頃、メンバーは階段の下のスタート地点に戻ってきた。それも階段を降りて右側の通路から戻ってきていた。


「何だこりゃ?」


 左手に降りてきた階段が見えた時にハンクが素っ頓狂な声を出した。


「左に進んでいったのに右から戻ってきただと?」


 マーカスも訳が分からないといった表情だ。


「この通路はシームレスになっている」


「「シームレス?」」


「継ぎ目が無いという意味だよ。左右の壁、行き止まりがないんだ。左に行こうとして適当にあるくとずっとこの迷路の中を歩いていくことになる。ループ状とも言うな」


 そう言ったローリー。全員がスタート地点の階段に座るとマップを広げた。


「半分位のこのあたりから右側になるんだと思う」


 階段に広げた地図は右端に階段がありそして左端にも階段が描かれていた。その中間辺りを指差すローリー。


「恐らくこのフロアは綺麗な格子状に通路が走っていると思う。ただだからと行って真っ直ぐ奥に進んでも良いという気はしてないんだよな。45層がそう簡単じゃないと思ってる。何か仕掛けがあって俺たちを待ち受けている気がする」


「となるとどう行けばいいんだ?」


 地図を覗き込んでいるランディが言った。


「まだヒントが見えない。なので次は今から2つ目を左に曲がってさっきと同じ様に左壁沿いに進んでみたいんだがいいかな」


「ローリーに任せている。それでいこう」


 ランディが言うと他の2人もそれで良いという。

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