ネフド

第1話


 船は何事もなくネフドのイン・サラーの港に着いた。そこで今度はリモージュに向かう船を探す2人。4時間後にイン・サラーを出て川を上ってリモージュに向かう船のチケットが取れた。


 イン・サラーの市内に出る事なく乗り換えた2人は3日半の航海を経てリモージュにやってきた。


「久しぶりだな、この街も」


 船から降りて大きく伸びをしながらランディが言った。隣のローリーも同じ様に大きく伸びをする。


 到着したのがお昼でもあったこともありリモージュの街はまるで時が止まっている様に静かだった。日差しがきついこの街では多くの市民は陽が真上にあるこの時間は外を歩かずに涼しい屋内で時を過ごす。


 人気の少ない街の中を歩いていく2人。見覚えのある建物の前に立つと2人で顔を見合わせてからその中に入っていった。


「帰ってきたのか」


 人の気配を感じて奥からアラルが顔を出した。2人を見て破顔する。


「ほう。2人ともまたものすごい装備を手に入れたな。俺も見た事がない」


 一眼見てローリーとランディの装備を鑑定したアラル。長い話になるだろうと言って2人を家の中に案内した。


 居間のテーブルに座った3人。アラルの前に収納から小瓶を取り出したローリー。


「また出たのか」


 その言葉にすぐにランディが反応した。


「やっぱりこれも蘇生薬、天上の雫なのか?」


「間違いない。入れ物こそ違っているが俺には中身が分かる。これはランディを蘇生させたのと同じ天上の雫だ。間違いない」


 今度はランディとローリーが歓喜した表情になって拳を合わせた。


「どうする?話をする前に先に誰かを蘇生させるか?」


「それについては今回のダンジョンの攻略で手に入れた装備関係をアラルにしっかりと鑑定してもらいたい。その結果を見て判断したいんだ」


 わかったというアラルにランディがツバルの火のダンジョン攻略の話を始めた。空の真上にあった陽が大きく地平線の近くに傾いてきた頃にランディとローリの話が終わった。居間のレーブルの上には片手斧、片手剣、弓、指輪などのアイテムが置かれている。


「2つ出た蘇生薬、その1つをその場で使うとは。普通なら考えられないがローリーとランディの2人ならさも有りなんと言ったところか」


 話を聞き終えたアラルが唸った。目の前の2人は本物の冒険者だ。パーティを組んでいるとは言えそれは一時的なものだ。自分の本当のパーティメンバーを生き返らせる為に蘇生薬を探す目的でダンジョンに挑戦しているのであれば普通は身内ではない人間に蘇生薬を使うことはしない。


 そんな2人だから1度のダンジョン攻略で蘇生薬が2つも出たのだろう。冒険者としての技量は当然だが人間としての懐の大きさが他の冒険者と全然違う。


 アラルは視線をテーブルに戻すと言った。


「俺の意見を聞きたいのであれば言おう。片手剣の仲間から蘇生させるのが戦力的に一番良いだろう。この片手剣もめったに見ない優れたものだ」


 アラルの言葉で決まった。蘇生させるのは戦士のハンクだ。

 ちなみに弓は遠隔攻撃+20 遠隔命中+20と優秀だが片手剣の方がそれより上の性能になる。


 ランディを蘇生させた部屋に移動すると収納から布で丁寧に包まれているハンクの身体を取り出してベッドの上に寝かせる。ランディが彼の装備を脱がせて上半身を裸にさせた。


 アラルとランディ、そしてローリーは顔を見合わせて頷くとローリーが手に持っている小瓶の蓋を開けて中の液体をハンクの胸にかける。すると同じ様に液体は身体から流れずにハンクの身体の中に吸い込まれていき、全てをかけると彼の身体が光出した。


「うっ、うううん」


 光が消えると小さな呻き声と共にハンクが目を開けた。


「ん?ここはどこだ?あれっ?俺はなんでベッドに寝てるんだ?ブラックドラゴンはどうした?」

 

 目が覚めたハンクが顔を左右に動かして言った。ランディとローリーは生き返ったハンクをベッドの上で上半身を起こすとその手を取って言った。


「よかった。お帰り、ハンク」


 長い話になるだろうとアラルが気を利かせて寝室から出ていった。2人は生き返ったハンクに事情を説明していった。ハンクは聞いている間、何度も涙を流していた。


「迷惑かけたな。それにしてもローリーは流石だ。ありがとう」


 長い話が終わる頃には落ち着いてお礼を言うハンク。


「礼はいらない。まだあと2人いるんだ。これからはハンクにもしっかりと仕事をしてもらうぞ」


 そう言ったランディに顔を向けると、


「任せとけ、こんな良い装備ももらった。長い間休養して気力、体力もばっちりだぜ」


 その部屋で夜を過ごした3人は翌朝アラルが作ってくれた食事を摂りながら彼にお礼を言った。


「気にするな。昨日は言わなかったが蘇生薬を鑑定してまたスキルが上がった様だ。礼を言うのは俺の方だな」


 アラルは昨日蘇生薬を見た瞬間にチクッとした痛みを脳内に感じていた。昨日の時点では3人には言わなかったがランディを蘇生させた薬とハンクを蘇生させた薬は効果は同じでも微妙に違っていたのだろう。


 この世に蘇生薬が存在し、それも1種類じゃなく複数あったとことに驚くアラル。

 食事をしながらその話をするとランディとローリーの手が止まった。


「効果は同じでも成分が違うってことか」


「恐らくそうだろう、お前達がエルフの森で聞いたという世界樹の恵み。それも成分は異なるが同じ効果がでるのだと思う」


 なるほどと納得するローリー。


「それでこれからどうするんだ?」


 食事が終わるとアラルが聞いてきた。


「しばらくこの街にいるつもりだ。エルフの民は半年か1年か、いずれにしてもコップい一杯分の恵みを集めてくれると約束している。連絡が来てすぐにいける場所はこの街だからな」


「その時はハバルの船を使ってやってくれ」


 分かったと頷く3人。食事を終えるとまた顔を出すと言ってアラルの家を出た3人はリモージュ市内にある宿に部屋をとった。


「俺が寝ている間に2人は2つ目のダンジョンをクリアしている。つまり俺よりもずっと強くなってるって事だ。俺は2人には迷惑を掛けたくない。ということでせっかくリモージュにいるんだから流砂のダンジョンの上層か中層で俺の鍛錬に付き合ってくれよ」


「いいアイデアだな。そうしよう」


 エルフの民から連絡があるまで3人は流砂のダンジョンに挑戦することにする。


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