第39話
「似合っているな」
部屋で新しい防具を身につけて食堂に降りてきたランディを見て3人が口々に言う。
「見た目以上にすごく動きやすいんだ。腕や体を曲げても全く問題がないんだよ。こりゃ本当に凄い装備だ」
ボスがファイアードラゴンであったこともあり赤みがった落ち着いた、高級感がある色合いのアーマーをナイトのランディが着ると似合っている。元々履いていたズボンも濃い色のズボンであったこともあり違和感がない。
カイとケンは新しい片手刀を腰に差しており、ローリーも新しい杖を手に持っていた。地獄のダンジョンボスのドロップアイテム。余りに業物すぎてパッとみた限りではその性能がわからないほどだ。
「ギルドでも言ったが俺とローリーはこれからネフドのリモージュの街に戻る。あの街の鑑定士にNMから出た小瓶の鑑定を依頼するつもりだ。悪いがダンジョンの報告はカイとケンの2人にお願いしたい」
「こっちはそれで問題ない。二人で報告しておくよ」
「それにしても最後まで鬼畜仕様だったな。ボスを倒したからかそれとも50層の扉を開けたのかどちらかは分からないが討伐フロアの記録がリセットされるとは」
ランディが呆れた声で言った。火のダンジョンをクリアした後もう一度49層に飛んでボス戦をしたらまた蘇生薬が出るかも知れないと地上に戻った後でダンジョンに入ったところの石板にカードを当てても全く反応しなかった。全員のカードが同じだった。やるならもう一度1層から挑戦しなければならない。文字通りの鬼畜仕様になっていた。おそらく50層のボス部屋がリセットのトリガーになっていて他の地獄のダンジョンも同じ仕様だろうとローリーが言うが間違いないだろう。最後の最後まで冒険者を痛めつけてくる。
「いいパーティだった」
ローリーがしみじみと言った。全員が大きく頷く。
「最初の頃に比べると最後の深層部でのチームワークは後ろから見ていても見事だった。罠のフロアもカイとケンのおかげでクリアできた。当たり前の話だけど誰か1人が特別頑張った訳じゃない。4人全員がお互いを信用して持てる力の全てを出し切ったからクリアできたんだ」
ローリーはそう言うと座っているテーブルの中央に拳を突き出した。すぐに他の3人も同じ様に拳を突き出してテーブルの上で4つの拳がぶつかる。
「また会えるだろう」
「困ったらいつでも声をかけてくれ、ケンと2人ですぐに駆けつけるからな」
「それは心強い話だ」
短い別れの挨拶が終わるとローリーとランディが立ち上がった。港まで送るよというカイとケン。東の原の港にはちょうどアマノハラ行きの船が泊まっていた。
最後にもう1度拳を合わせた4人。
「良い鑑定結果が出るといいな」
「1年近く一緒にいて本当に冒険者として成長させてもらったよ。ありがとう」
カイとケンがそう言った。カイは蘇生させてくれたお礼を何度も言っていたが
「仲間を助けるのは当然だ。もう気にするな」
とランディに言われていた。
「またツバルに来るかも知れない。そしてトゥーリアに来ることがあったら言ってくれ」
「いいメンバーと中身の濃い時間を過ごせた。楽しかったよ。これからもよろしくな」
ランディが言い、その後にローリーが言うとじゃあなと2人で船に乗りこんでいく。
カイとケンは2人を乗せた小さな船が見えなくなるまで桟橋で見送っていた。
「あれほどの冒険者は他にいないだろう」
「全くだ。スキル、人間性、2人とも全てが超がつく一流だった」
港を離れ波間に消えていく船を見ながらカイとケンはそんな会話を交わす。
2人はアマノハラに着くとネフド行きの船を予約する。丁度翌日にネフドのイン・サラーに向かう船の個室が取れた。
来る時にも泊まったアマノハラの宿が空いていたのでそこに2部屋取った2人は市内を歩いてレストランに入る。夕刻のレストランはどこも混んでいたが2人は良いタイミングで、丁度他の客が出ていった後のテーブルに座ることができた。
「優秀な忍の2人だったな」
料理を注文するとランディが言った。その通りだと頷くローリー。
「あの2人でないと無理だっただろう。自分たちの役割をしっかりと認識しやることはきちんとやるが最後まで出しゃばらなかった。ヒーローになりたい様な奴は長生きしない。2人はそれもなかった。俺たちの様な他国の冒険者を相手にしてあの態度はなかなかできないぞ」
後ろから見ていたから分かる。カイもケンも優秀という言葉だけでは足りない程の度量と技量を持った冒険者だった。
そのケンに天上の雫を使って蘇生させた事についてはもう2人は何も言わない。あの場面であの薬を使うのが当然だと信じていたからだ。実際にランディとローリーの2人は同時に宝箱を開けてあの瓶を探している。
料理が運ばれてきた。ここ1年近く東の原の定宿かその近くにあるレストランで食事をしてきた彼らにとってはアマノハラの食事は違った味付けで新鮮だ。
食事の前に2人は1年近くぶりに酒を飲んだ。ダンジョンをクリアしたので禁酒期間の終了だ。久しぶりのアルコールの味を楽しんでいると料理が運ばれてきた。
美味いなと言いながら酒を飲み、食事を摂る2人。完全にリラックスモードになっている。
「リモージュの後はどうしようか」
相変わらず箸を上手く使えない2人。フォークとスプーンで魚を切っては口に運んでいるランディが聞いてきた。
「俺はリモージュでエルフからの連絡を待ちたい。タイミング的に1年近く経つし何らかの連絡があると見ている」
「その案に乗った。アラルに会った後はしばらくリモージュで待機しよう」
「場合によっちゃあ2人で流砂のダンジョンの入り口付近を探索してもいいな」
久しぶりのアルコールと味付けが違った郷土料理。それらを満喫した2人は宿に戻るとそれぞれの部屋でぐっすりと休んで疲れを取った。
翌日、アマノハラを出た船は一路ネフドの都であるイン・サラーを目指して大海原を進んでいた。ツバルに来る時の船長とは違う船長が乗っていたが行きと違って帰りの船では半魚人の襲撃はなかった。
同じ船にツバルの忍が乗っていたので話を聞くとここ1年程半魚人は姿を現していないらしい。
「1年程前にイン・サラーからアマノハラに向かっていた船が半魚人の集団に襲われたらしいんだよ。その時にたまたま乗り合わせていたどっかの国の魔法使いがその半魚人の集団を魔法一発で皆殺しにしたって話だ。半魚人の奴らは知性がある。魔法をくらって仲間が大勢死んでから船を襲うことは止めたって話だよ。今船が安全に航海できるのはそいつのおかげだって船員達が言っている」
そう話す忍の言葉を聞いている間、ランディは笑いを我慢している顔をしていた。話すだけ話をして忍が去っていくとローリーに顔を向けた。顔が完全に笑っている。
「ローリー、ヒーローじゃないか」
「よしてくれよ。あの場でお前がその魔法使いはこいつだよって言うんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだぜ」
「そうしたらよかったな。そのヒーローの魔法使いはこいつだってな」
冗談とも本気ともつかない調子で言ってから、
「そこまでする気は無かったよ。でもまぁローリーのおかげで船が安全に航行できてるんだ。悪い事をした訳じゃないからな」
そう言ったランディがローリーの肩をポンポンと叩いた。
「もちろんだ」
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