第34話

 ローリーらがいるフロアの1つ上のフロアではドロシーらのパーティが雪山登山の入り口にある最初の洞穴にいた。10メートルほどの洞穴の奥の方で薪に火をつけて焚き火をしている5人。ルイーズのアイテムボックスから暖かいスープや食事を取り出してそれを摂りながら話をする。


「聞いていたから覚悟はできているけどこれからの山登りは寒そうね」


「ここまでも結構寒かったわよ」


「しっかり休んでから行きましょう」


 山登りは想像以上にハードだった。事前に安全地帯の場所を聞いていたから準備もし、頑張る事ができたがそうで無かったら気力も体力も無くなっていただろう。


 門番のSSランクを倒して倒れ込む様にして奥行き20メートルの洞穴に飛び込んだ5人。流石に全員がぐったりしていた。


 薪を出して焚き火をして洞穴の中が暖かくなると全員が脱力する。


「普通なら砂漠攻略で暖かい食事なんて用意しないわよね」


 洞穴が暖かくなるとようやく表情が緩んできた5人。暖かいスープを飲んでいたカリンが言った。


「その通りなんだけどさ、まずアイテムボックスを持っている人が多くないでしょ?大抵は魔法袋よ。あれは中が時間経過するから食べ物は入れられない。となると干し肉と水くらい?それじゃあこのフロアの攻略は無理よ」


 確かにねとケイトの言葉に頷くカリン。


「しかも薪とか焚き火の準備をしている人なんてまずいないわよ。ローリーくらいじゃないの?」


「彼は特別だからね」


 ドロシーの一言で納得する4人。

 彼は特別。その一言で終わってしまうがそのおかげで彼のパーティは何度も難関をクリアしている。圧倒的な魔力量を持ち大陸唯一の賢者というジョブのローリー。その魔法の技術はもちろんだが戦術眼、参謀としても大陸一だというのはローリーを知る者がよく言う。


 常に最悪の事態を想定して準備を怠らない。その彼だからこそこの灼熱の国であるネフドの流砂のダンジョンの中に雪山が出てきても焦らないのだろう。そしてその厳しい条件の中で正解を求めるべく常に周囲を見る目と違和感を感じ取る感性。


 ケイトをはじめパーティで参謀役と言われている冒険者からはローリーは彼らの理想であり目標であった。


 雪山登山は想像以上にハードだった。強風に横殴りの雪、そしてSSランクの魔獣。登山を開始して6時間以上が過ぎた頃にスロープの途中にある洞穴、事前に聞いていた安全地帯に到着した時は本当にホッとした5人。


 焚き火の火でようやく体が暖まってきた。洞窟に入った直後は誰も言葉を言い出せない程に疲労困憊していた。


「砂漠の夜用だけの装備だったら凍死してたわ」


「それは間違いないわね」


 ドロシーの言葉に答えるシモーヌ。2人とも洞窟の壁にもたれてぐったりした表情だ。自分たちの想像以上に体力を削がれている。


「登ってくる途中には全く木がなかったでしょ?焚き火の木すらない禿山をブリザードの中登らせるなんて本当に鬼畜仕様になってるわね」


 つまり事前に用意していた物以外ダンジョンのフロアで使える物はほとんどないということだ。


「ローリによるとここが3合目か4合目、これからまた6、7時間登っていって三叉路になっているところの細い道を左に行くと出っ張っている岩の奥に小屋がある。そこは何故か小屋の中が暖かくて焚き火の必要はないとなってる。まだまだよ」


 ルイーズがローリーから聞いた情報を書き留めているメモを見ながら言った。とりあえずここでしっかり休養を取ることにする5人。


「それにしてもローリーって一体何者なの?人間じゃないんじゃない?」


 一息ついて暖かい飲み物を飲んでいたカリンが言った。彼女は一度彼らのパーティに同行してフロアを攻略している。その時にローリーの人間離れした勘というか読みに感服していた。


「根っからの冒険者で根っからの参謀。それが賢者ローリーだよ」


 ドロシーが言った。


 彼女達はその翌日に8合目付近の小屋に入りそしてさらにその翌日ブリザードの中スロープを登って雪山登山を続け47層に降りる階段がある小屋を見つけて46層をクリアした。クリア後に市内のレストランで食事をした時に全員が事前情報がなければ間違いなく凍死していただろうと言っていた。






 その人間じゃないと言われていたローリーは砂漠を歩きながらじっと考えていた。ダンジョンのヒントをまだ読み解いていない。攻略を開始して2日目ローリーらは灼熱の砂漠の端、崖から少し離れた場所、盆地の周囲を移動していた。依然として何のサインも無い。


 2日目の夕刻に4人は崖の中腹に大きな扉があるのを見つける。


「あれが出口かはたまた次の部屋に繋がっている通路か」


「でもどうやってあそこ迄行くんだ?」


 ランディとハンクが言っている。ハンクの言う通りその扉は山の中腹にあるだけでそこに行くための道は無い。

行くとすればごつごつした岩がある崖をよじ登っていくしかなさそうだ。とりあえず扉がある真下まで移動する。そこは丁度魔獣が湧いている100メートルの感覚の中間位の場所で左右に魔獣は見えるが襲ってくる気配はない。


「どうする?」


 ランディが顔を向けてきた。ローリーは左右を確認してから地面の上に自家製の地図を広げる。扉があるのは10時の位置だ。スタートが6時だとして扉は左寄りの場所にある。


「この崖を登るのは簡単じゃない。それよりも確かめたいことがあるんだが」


 ローリーが言うにはここは10時の場所だが反対の2時の場所にあるのかないのかを確認したいという。


「小屋を出て左に動いて10時にこれを見つけた。仮に小屋を出て右に歩いていたらどうなっていたか確認したいんだ」


「その心は?」


 ランディが言った。


「本当にあれが扉なのかどうかを確認したい。2時になかったら扉の可能性が高い、ただ2時の場所にあったとしたら2つあることになる。正解が2つというのは考えられないからな」


「つまり2つとも騙しの扉で正解じゃないってことか?」


「そうかもしれないと思ってる」


 ローリーがそう説明してもまだ納得した表情にならない3人。


「じゃあどうやってあそこにたどり着く?何か方法があるかい?」


 そう言われると3人とも黙ってしまった。崖はほぼ垂直で多少の岩の凹凸はあるもののこの崖を登っていくのは相当に難しい。しかも冒険者は男だけじゃない女性の冒険者もいる。男性でも行けるかどうかの崖を女性が挑戦して行けるとは思えない。ダンジョンが冒険者の性別で難易度を変えるとは思っていないローリー。


「わかった。とりあえず2時の場所に行ってみようぜ。そこで分かるだろう」


 近くの洞穴で休憩をした彼らは崖沿いを歩いていったそしてそこから2日後、ローリーの地図で言うところの2時の場所の崖の中腹に10時の場所にあったのと全く同じに見える扉を見つけた。彼の読みが正しかったことが証明された。ただ、


「じゃあ正解はどこにあるんだ?」


 結局6日かけて盆地の周囲を1周りした彼らは47層に降りてきた階段がある小屋に戻ってきた。

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