第33話
「おっ、崖下に3体固まってるぞ」
サーチをしていたマーカスが声を出した。階段を降りて砂漠を進み出してから5時間以上経っている。その間に砂漠で戦闘をしたのは5回だ。1時間に1回程度SSランク2体と遭遇して倒している。
「マーカス、その手前側100メートル程のところにはいるのか?」
「2体いる」
「わかった。じゃあ2体と3体の中間あたりを崖に向かって歩こう」
他の3人は何も聞かずにローリーのいう通りの位置どりをすると崖に向かって歩き出した。
「2体はこちらを認識するとその場から離れてこっちに向かってくるだろう。その時に3体がどう動くかを見たいんだ。動かなければ奴らが立っている場所に何かある。安全地帯の洞穴か奥に抜ける通路か。それを確認したい」
「なるほど」
崖に向かいながらローリーの作戦を聞いて2体と3体の両方から見られるところを歩いていく意図を理解する3人。
「やっぱりだ。3体はその場で戦闘態勢をとっているだけだ」
崖に近づいてお互いがはっきりと認識できる距離になると2体で固まっていたSSランクが立っていた場所から離れてこちらに向かってきた。一方3体固まっている魔獣はその場で動かずにいる。ただこちらを認識していて片手剣や棍棒を振り上げて威嚇している。
まずは近づいてきたSSを2体倒した4人はそのまま崖沿いを歩いて3体に近づいていった。10メートル位まで近づいたところで唸り声を上げて3体が襲いかかってきた。ローリーの強化魔法にランディの盾そしてハンクの片手剣にマーカスの妖精の弓。SSクラスなら3体程度でも問題なく倒した4人。3体の魔獣を倒すと彼らが立っていた背後の崖の一部が横にスライドして洞穴が見えてきた。
中に入ると奥行きは10メートル程で行き止まりになっている。手分けをして洞穴の壁や奥を見てみるが罠の類はなさそうだ。そして奥は完全に塞がれていた。
「なるほど。こういう仕掛けがあるのか」
「倒さないと現れないのだな」
中を調べて安全を確認すると全員がその場に腰を下ろす。攻略を開始してから6時間近くの時間が過ぎていた。陽は登ってきた方向とは反対の方向に落ちつつあるがまだまだ高い場所にあった。
「ここはおそらく安全地帯だろう。階段部屋を出てから休み休み進んできて6時間程。次の安全地帯が6時間後だとすると真夜中になる。早いが今夜はここで過ごそうか」
「REPOPはなさそうだな」
床に腰を下ろして休んでいる4人。時間が経っても入り口に魔獣が湧かないのを確認するとようやくローリーが収納から食事や飲料を取り出して床の上に置く。
「もし崖沿いに歩いていたとしたらまだこの場所にはついていなかっただろう。おそらく日が暮れて夜中になってたかも知れない」
自分たちは砂漠を歩いていて1時間に1度の戦闘だけだった。それでここまで6時間かかっている。もし崖沿いなら100メートル毎に戦闘が続くので倍近い時間がかかるだろう。しかもSSの複数体相手の連戦だ。無事に辿り着くのも容易ではない。
まだ日は暮れていないが各自が魔法袋からテントを取り出して野営の準備を始める。
「マーカスは見張りはいいぞ。しっかり休んでくれ。俺たち3人でやる」
テントを張っていたマーカスがいいのか?と言った表情でランディを見る。ローリーもハンクもそれでいいという。
「悪いな」
「気にするな。このフロアは狩人のスキル頼りなんだよ。しっかり休んでくれ」
「そういうこと」
各自がテントは張ったが寝るにはまだ早い。野営の準備を終えた4人は洞窟の中で集まって作戦会議をする。土の上に木の枝でローリーがこのフロアの地図を書き終えると話始めた。
「見てわかる様にこのフロアは崖に囲まれた盆地の中にある砂漠だ。そして崖の周囲に沿ってSSランクの魔獣が2体隠れている。俺たちはこのあたりだろう。この洞穴は3体の場所だ。だから明日も今日と同じくマーカスのスキルを使って砂漠を歩いていく」
ここまで問題ないか?と顔をあげると3人が頷いた。
「ここからは予想になる。3体、あるいはそれ以上固まっているところでは戦闘をして相手の出方を見るが倒した後が洞穴なのかそれともこの崖の向こうに抜ける通路になっているのかがわからない」
「この盆地がフロアだとは決めつけるなということだな」
ランディが言った。
「その通りだ。広いから盆地がフロア全てと思いがちだが思い込みは捨てよう。なので崖はもちろんだが砂漠を歩いている時でも何か違和感を感じたら何でも声に出して言ってくれ。もちろん俺も感じたら言う。地獄のダンジョンの47層だ。何でもありだと思っていた方がいい」
ローリーは崖下の魔獣の数が多いところに何かがあるという意図は余りにも簡単で分かりやすいと思っていた。こんなカラクリ、ギミックは数度戦闘すれば気がつくだろう。47層に降りてきている時点で並の冒険者ではないのだから。
3体以上いるところは単に安全地帯、ひょっとしたらNMがいるかも知れないがいずれにしても下に降りる階段がある場所を示しているのではないと言う確信めいたものを持っている。そんな簡単なものじゃないという確信だ。過去2つのダンジョンを攻略しここも最深部にまで降りてきている中で得られた感覚。彼はそれを大事にしていた。
砂漠に日が落ち、暗くなって夕食になった時にその思いを3人に話をすると彼らも納得してくれる。誰も考え過ぎだろうとは言わない。
「確かに言われてみれば分かりすぎるサインだな。だからそれ以外の違和感を探せと言っているんだな」
口の中に入れていた食事をスープで飲み込んだあとでハンクが言った。
「そうなんだよ。ただ初日の今日は俺も違和感を見つけられなかった。明日以降で見つかるといいんだけどな」
「正解のルートが山登りならぬ崖登りだったりしてな」
マーカスが冗談っぽく言う。
「その可能性だってあるぞ。仮にそうだったとしてもさ、寒いよりはマシだろう」
ランディが言うと3人がまぁなと言って笑った。4人ともあのブリザードの中の登山はもう懲り懲りだといい、しばらくはあの時の事を話題にしながら食事をとった。
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