第27話

 2日目の休養日の夜、4人は宿の食堂に集まっていた。忍の2人もしっかりと休めた様だ。彼らの表情を見て安心するローリー。


「明日からの44層の攻略だが、休み前に見た様に3箇所入り口があった。どれか1つが当たりで他は外れだろう。外れの洞窟もすぐに外れとはわからない様になっていると思うので集中力を切らさない様にしよう」


 ローリーの言葉に頷く3人。皆理解しているが敢えて言葉にすることでもう一度気を引き締めることが重要だ。


「もちろん45層に降りるのが最重要課題だが外れを進むことで宝箱が見つかるかもしれない。もちろん戦闘が増えるがそれによって俺たちの実力も上がる。外れのコースを行くのも悪いことだけじゃないさ」


 ランディが言った。気を引き締めていこう。でも過度に緊張もするな。彼が言いたいことはそう言うことだった。


 翌日火のダンジョンの44層に飛んだ4人。目の前には絶壁がありその裾に3つ洞窟の入り口が見えていた。


「どのルートを進んでも中にいる敵のランクはSSクラスだろう。つまりどこを行こうが同じってことだ」


 ローリーが強化魔法を3人にかけている間に前を見ているランディが言う。


「罠はありそうか?」


「わからない。普通に考えれば無いと思うけど地獄のダンジョンは普通が通じない所があるからな。敵がいない場所は一応左右と床を警戒しながら進もう」


 カイとケンの話が終わるとランディが前に進み出した。どの洞窟に入るのかはランディに任せてある。彼は一番左の洞窟に入っていった。予想に反して中は暗くなかった。間接照明の様に壁が光っていて奥まで見ることができる。その洞窟はまっすぐに伸びているが眼に見える範囲で魔獣の姿は見えなかった。


 ローリーは声をかけると他の2つの洞窟にも入ってみた。3つの洞窟は全て同じだった。魔獣の姿はなく通路はほのかに明るくまっすぐに伸びていた


「入り口からじゃ違いはわからないか」


 そう言って再び左の洞窟に入っていく4人。前方をランディが警戒する中カイとケンが左右と床を調べていく。まっすぐに伸びている洞窟を進んでいると前方が明るくなってきた。洞窟の出口の様だ。忍の2人が慎重に通路をチェックしながら進んでいき結局罠がないまま出口まできた4人。


 洞窟を抜けた先は火山の中にある大空洞といった造りになっていた。洞窟から出たローリーが右に顔を向けると別の洞窟の出口が1つだけ見えていた。


「右端の洞窟も外れだったのか?」


「どうだろう。まだここが正解と決まった訳じゃない。それよりこの広場のSSクラスの敵を蹴散らすのは良いがどっち方面に進むのが正解なんだろう。ローリーわかるか?」


 カイとランディの話を聞いていたローリー。ランディから話しを振られる前に彼は洞窟を出た時から広場の周囲を見ていた。広い空洞の奥ははっきりとは見えない。あるとすれば奥に洞窟か何かがあるのだろう。眼に見える範囲では目標となる物は見えていない。


「わからない。こういう時は壁沿いに進むのがセオリーだ。背後を気にしなくても良いからな。だから左に進んで壁沿いを行こう」


 ローリーが再度強化魔法を全員にかけるとランディを先頭にして大空洞、広場に繰り出した。常に左側に壁というか崖を見ながら進んでいく。


「ここにいる魔獣は火を吐くと思ってくれ。正面に立つ時は注意して!」


 背後からローリーが声をかける。彼らの前に大蜥蜴が近づいてきたSSランクの魔獣だ。ランディを中心に左右に広がるカイとケン。ランディが挑発スキルを発動するとすぐに口から火を吐いてくるがそれを盾でガッチリと受け止める。すると左右に散っていた

忍の刀が大蜥蜴に斬りかかった。同時にローリーの精霊魔法がその頭に直撃する。正面で受けていたランディが片手剣を突き出して顔に突き立てると大蜥蜴がその場で倒れて光の粒になって消えた。


「すぐに倒れたから弱いと思うかもしれないが違うぞ。みんなが強くなっているのとランディが盾でしっかり受け止めていたからだ。普通の盾だとあの火をまともには受け止められない」


 魔獣を倒してすぐに水分を補給する短い時間でローリーが今の戦闘について3人に話をする。実際には忍の2人にだ。彼の話を水を飲みながら頷いて聞いている2人。


 龍峰のダンジョンボスから出た盾とローブがなければここまで楽にSSクラスは倒せない。それを自分たちの実力だと勘違いしない様に忍の2人に話をするローリーだった。


 油断や過信は即大怪我につながる。彼はそう信じている。


 その後もSSクラスの魔獣を倒しながら大空洞の壁に沿って移動していく彼ら。結局ぐるっと一回りして元の洞窟の出口に戻ってきた。彼らは最初出てきた洞窟とは別の洞窟に入ってその中を歩いていくと43層に降りた場所に戻ってくる。ただし洞窟の出口は右のではなく真ん中の洞窟になっていた。目の前に降りてきた階段が見えている。


「色々と仕掛けてくるな」


 安全地帯なのでここで大休憩を取ることにする。ほぼ丸1日空洞を見たが魔獣を倒しただけでそれ以外の収穫は何もなかったが地獄のダンジョンの深層部がそう簡単に攻略できる訳がないと思っているランディとローリーに落胆の色はない。忍のカイとケンもこうなる事態を予想していたのかここでしっかりと休もうと地面に腰をおろした。


 階段下すぐの場所でもあり敵の心配が無いので結局この日はここで野営することにする。


「しっかり休んだら右の洞窟に行こう。普通に考えれば右の洞窟が正解のルートだが何があるかわからない。カイとケンはまた罠を探しながら洞窟を進んでくれ」


 食事をとりながら打ち合わせをする4人。


「龍峰のダンジョンもこんな罠というかギミックが多かったのかい?」


 食事をしながらカイが聞いてきた。


「いや、あそこは力技というか真剣勝負しながらクリアしていくフロアが多かった。同じ地獄のダンジョンでもダンジョンごとに癖というか特徴があるみたいだな」


「火のダンジョンと言われているからと言って火の対策だけして挑戦してもクリアできない様になっている。いやらしいダンジョンだよ」


 ランディとローリーがそれぞれ自分たちの感想を言う。


「44層の攻略には時間がかかると覚悟した方がいい。休める時はしっかり完全に休んで挑戦しよう」


 食事を片付けた後でローリーが言い。この日はこの場で夜を過ごすことにした。

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