第28話
振り出しに戻った4人は再び44層の攻略を開始する。今度は右の洞窟に入るとそこは同じ様なほんのり明るい洞窟が奥に伸びていた。カイとケンが罠の有無を探りながら奥に進んでいくと左や中央の洞窟とは違って上にのぼる階段が見えてきた。
「ダンジョンの中に階段があるとはな」
階段の下に着いたところで上を見上げたカイが言った。
「これがダンジョンの不思議だな。もっともフロアの中に山があったりするから階段があっても不思議じゃない」
「そう言われればそうか」
ローリーの言葉に納得するカイ。
階段は20段程で終わっている様だ。ケンとカイが並んで階段を上り、その後ろにランディ最後にローリーが続いて階段を登る。階段を上がるとまた通路になっていた。その長い通路を暫く歩くと今度は下に降りる階段が見えてきた。通路は一本道なので迷うことはない。階段を降りた先は最初の広場と同じく大空洞だった。
最初の部屋に戻ってきたのかと思ってよく見ると奥に距離を開けて洞窟の入り口が3つ並んでいるのが見える。これが正解のルートの様だ。
「さっきの外れの広場を飛び越えてきたって感じだな」
通路から広場を見ていたカイが言った。上手い事を言う。まさにその通りだとローリー。目の前に広がっている大空洞、大広場にはSSクラスの魔獣が徘徊していた。基本は単体だが2体固まっているのも見える。
「ここはとりあえずあの洞窟が並んでいる場所まで最短で移動するか?」
「当たって砕けろ…だな。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとも言うか。片っ端から調べていこう」
「俺達冒険者は戦ってなんぼだからな」
「そうそう。罠の探索よりもこっちの方がずっと楽しいぜ」
地獄のダンジョンの深層、周囲は自分達より上のSSランクばかりという中で気おくれしている者は1人もいない。
それにこのダンジョンを攻略し始めて全員が最初の頃よりも強くなっているという自覚がある。目の前に敵がいるのなら倒す、洞窟があるのなら全部調べてみる。ここにいる4人はそんな気概のある奴ばかりだ。
「さっきと同じで左側から壁沿いに行こう。ただし洞窟には入らない。とりあえず一周して周囲を確認してから奥にある洞窟を目指そう」
皆戦闘が好きだ。冒険者を生業にする位だからそうなのだがそれでもここにいる4人は自分も含めて強い敵と対峙するのが大好きな連中だ。強い敵を倒して自分が強くなったのを実感できるのは冒険者をやっていない者には分からない感覚だろう。
前で3人が一見好き勝手に、でもよく見るとランディを中心として効率的に敵に攻撃を加えているのを見てローリーは自分も含めて皆戦闘が好きなのだと再認識していた。
SSランクの2体程度のリンクなら問題なく倒していく4人。そうやって敵を倒しながら壁沿いに進んで行き一番奥にある3つ並んでいる洞窟の前を通りすぎて反対側の壁沿いを広場の入り口まで戻ると今度は進んできたルートと逆に進んで再び広場の奥にある3つ並んでいる洞窟の前に戻ってきた。
入り口から中を覗いて洞窟に敵がいないのを確認すると一番右の洞窟に入る。
入った所の安全が確認されると地面の上に座って休憩を取ることにした。この広場の攻略を開始してからほぼノンストップで格上相手に3,4時間戦闘をしていたので流石に全員疲れた表情になっている。
収納魔法から取り出した冷たい水を美味しそうに飲む4人。
「ここからまたくじ引きだな。当たりを引くか外れを引くか」
ボトルの水を飲み、水を首の後ろにかけて涼をとっているカイが言った。収納には大量の水と食料が入っているから少々無駄使いをしても問題がない。カイの仕草を見たケンとランディも同じ様に首の後ろに冷たい水を垂らす。
「個人的には全部フロアを探索したいと思ってるんだ。宝箱、あるいはどこかにNMが潜んでいるかも知れないからな」
首から水を垂らせずにボトルの水を美味しそうに飲んでいたローリーが言った。
「確かにそろそろ宝箱やNMのドロップが気になるフロアではなるな」
ランディとローリーの探し物は天上の雫、蘇生アイテムだ。レア中のレアアイテムなのでボスのドロップ以外であるとしても深層の宝箱かNMが落とすかどうかといったところだろうという話をしている。
2人の会話の意味が分かったカイとケン。
「じゃあここからはしらみつぶしにフロアを探索するか」
なんとかの法則というのがある。正解のルートを見つけたいと思う時には見つからずどっちでも良いと思う時に正解のルートに辿り着く。
今の4人はまさにこの状況だった。
「おい、こりゃ正解のルートっぽいぞ」
たった今広場でSSランクの大蜥蜴を倒した後でランディが言った。
「そうみたいだ。では戻ろう」
そう言ってきた道を戻り別の洞窟、通路を通って行き止まりの広場にでるとそこで敵を倒しながら隅々まで探索する。そして一回りしてまだ洞窟を通って戻ってから正解のルートを進んでいく。
これを繰り返し、結局44層をクリアするのに5日掛かった。44層は隅々まで見たが宝箱もNMが隠れていそうな部屋も見つからなかった。ただ4人の表情は明るい。
何も無かった。ということがわかったからだ。全てを見ていなければひょっとしてあのフロアにあったんじゃないか、やっぱりあの時行った方がよかったんじゃないかと後悔や焦りがでるが何も無いということが分かっていれば余計な心配をすることもない。
流石に野営を4日続けての44層攻略はきつかった。東の島にある宿に戻ってきた4人は明日、明後日を休養日にする。普段はアマノハラに戻る忍の2人も流石に疲れ切っていて東の島の宿の部屋に入って久しぶりにベッドの上でぐっすりと休むことにした。
彼らは当たり前の様に44層をしらみ潰しに探していたがSSクラスの敵が徘徊している中集中力を切らさずに敵を倒しまくりながらフロアを探索していたという事実。
この4人は44層を経験してまた強くなっていた。
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