第6話
翌朝ローリーは自宅を出るとギルドに顔を出しギルマスに面談を求め前日の図書館での話をする。
「なるほど。鑑定スキルのレベルが高い奴を探してあの小瓶の鑑定をしてもらうんだな」
「その通り。レアアイテムであることは間違い無いだろうからな。そして可能性はものすごく低いがもしあれが蘇生アイテムに関連するものだったら俺はそれを集めることに全力を尽くしたい」
決意のこもった目でギルマスを見るローリー。その視線を受け止めたギルマスのダニエル。
「蘇生アイテムの可能性か。なるほど。やるだけやってみようじゃないかよ。こっちでも鑑定士やレアアイテムの情報を探ってやる」
「頼む。雲を掴む様な話だということはわかっているんだけどな」
「なあに、蘇生できる可能性が少しでもあるのなら俺たちギルドが協力するのは当然さ」
ダニエルはそう言ってから
「お前さん達のパーティについては他のメンバーがどうなったかは一切外部には言っていない。元々ダンジョンに何ヶ月も篭っては攻略をしてきたお前さん達だ。顔を見なくたって誰も気にしないさ」
ギルマスの気遣いに感謝するローリー。席を立って部屋を出ようとしたその背中にダニエルが声をかけた。
「ローリー、わかってると思うが何事も早まるなよ」
背中でギルマスの言葉を聞いたローリーはわかったとその姿勢のまま右手を軽く挙げてギルマスの執務室を出てそのままギルドから外に出た。
リゼの通りを歩きながらギルマスの言葉を思い出すローリー。彼の言う通りだ。焦っても碌なことがない。大丈夫だ仲間達の身体はあの時のままだ。焦る必要はない。そう自分に言い聞かせると顔を上げて通りを歩いていく。
しばらく大通りを歩いていたローリーは途中で横道に入るとそのまま細い横道を奥に進んでいった。通りから100メートル程歩いたところに細い道に面した小さなカウンターだけの飲み屋がある。
こんな辺鄙な場所に店を構えても誰も来ないだろうと思うだろうがここは飲み屋をしながら裏の顔を持っている男が1人でやっている店だった。
昼間だがその扉を開けて中に入るローリー。彼の予想通りこの時間店の中に客はおらず、カウンターの中に大柄で人相の悪い男、ビルという名のマスターが1人で煙草をふかしながら果実汁を飲んでいた。信じられない話だがこの情報屋が本職のビルは外見からは想像がつかないが実は下戸で酒が一滴も飲めない。
下戸の男が酒場をやっているのは裏の顔を隠す為だと以前当人から聞いたことがある。扉を開けて店に入ってきたのがローリーだとわかるとカウンターの中で座っていた椅子から立ち上がる。
「地獄のダンジョンの攻略は諦めて昼間から酒を飲みに来る生活に変えたのかい?」
嫌味な口調だがこれがここのマスターであるビルという男のスタイルだ。口は悪いが性格は悪くない、そして仕事は確かだ。
ローリーは彼の言葉に返事をせずにカウンター席の中央に腰掛ける。
黙っていても果実汁が出てきた。ローリーはポケットから金貨5枚を取り出してテーブルの上に置く。
「上位の鑑定スキルを持っている人を探している」
「リゼにはいないな」
即答するビル。金貨はテーブルの上に置かれたままだ。
「トゥーリアだとどこだ?」
そう言うとビルがカウンター越しに身を乗り出してきた。
「ローリー、王都ギルドに期待してもだめだぜ、あそこはここ以上にいない。いるとすりゃあ王都の宮廷所属の鑑定士だろうが奴らにしてもせいぜいここのギルドの鑑定士と同じかちょっと上の程度だろうよ」
そう言ってから自分のコップに果実汁を継ぎ足すとそのままローリーのコップにも継ぎ足す。
「その程度のレベルの鑑定士を探してるんじゃないだろう?」
「ああ、もっとずっと上のレベルだ」
「ネフドに行きゃあいるぞ。首都のイン・サラーじゃない。あの国の地獄のダンジョンがあるリモージュの街だ。そこには高位の鑑定スキルを持っている男がいると聞いてる。名前はアラルと呼ばれている」
そう言って初めてテーブルの上の金貨5枚を手に取ったビル。手の中で5枚の金貨を音を立てて弄びながら、
「ただ鑑定料はべらぼうに高いって話だ。まぁローリーなら端金だろうがな」
その言葉に苦笑するローリー。
「なるほど。やっぱり砂漠の民か」
ビルはそうだと頷くと言った。
「変わった野郎らしい。気に食わない客だと半端ない鑑定料を要求するって話だ。もっとも奴に気に入られて安く鑑定してもらったという話は俺は聞いたことはないがな」
相変わらずの情報網だ。どこから仕入れてくるのか分からないがこのジムの情報はいつも情報の精度が高い。嘘の情報を高い金で売ろうとしないところがローリーは気に入っている。ただジムも目の前に座っているローリーがダンジョンをクリアしたまでは流石に知らない様だ。いや、もしかしたら全部知っていてあえてしらばっくれているのかもしれない。底が見えない男だ。
「つまりジムの言う通りアラルという鑑定屋には鑑定料はぼったくられるという覚悟をしておいた方が良いってことだ」
「そうなるな。金はぼったくるが仕事はきっちりしやるという評判だ」
依頼人の背景を詮索してこないところもローリーがジムを気に入っている点の一つだ。まぁこちらが黙っていてもどこからか情報を取ってくるんだろうが。
ローリーは目の前にあるコップに入っていた果実汁を飲み干すとカウンター席から立ち上がった。それを見ていたジム。店の出口に向かいかけたローリの背中に言葉をかける。
「ローリー、砂漠に向かう前に昨日行った図書館の司書にもう一度会ってレアアイテムの問い合わせをしてみな」
その言葉にびっくりして振り返るローリー。ジムはニヤリとして
「大丈夫だその情報量はこの金貨5枚の中に入ってる。アフターサービスってやつさ」
そう言ってからまだ何か言いたそうな様子のジム。ローリーが黙って彼を見ていると、
「後はエルフだろう。これは情報じゃない俺の感だがエルフは長寿だ。何か知ってるかもしれないぞ」
ここでもエルフの名前が出てきた。ローリーはそうだなと大きく頷く。
「わかった。感謝するよ」
「気をつけてな」
奴は全部知っていたのか。
ジムの言葉を聞いたローリーは今度は本当に店を出た。そしてそのまま昨日訪れた公立図書館に顔を出す。
昨日の司書が今日も座っていた。ローリーは彼女に近づくと
「レアアイテム関連で昨日見た以外の本はないかな?」
そう言うと座っていた彼女が立ち上がる。こちらにどうぞと彼女について広い図書館の奥に進んでいくと奥のある場所で立ち止まり、1冊の薄い本を棚から取り出してローリーに手渡してきた。かなり古い本であることがわかる。
「これはこの大陸に昔から伝わっている話をまとめたものです。中に蘇生関連のアイテムの話が載っていますよ」
ローリーは本を手に取って
「どうして俺が蘇生関連のアイテムに興味があるって知ったんだい?」
司書は表情一つ変えず
「昨日見ておられた2冊目の本、その中で熱心に読んでおられたページは蘇生関連のページでしたからね」
「あんたはここにある全ての本の内容とそのページを覚えてるのかい?」
「まさか。ただ蘇生関連が書かれていたあの本は私自身が以前見たことがありますから。それで覚えていたんですよ。蘇生関連は昨日の本とこれくらいでしょう。それら以外はこの図書館にはないですね」
これはまたとんでもないスキル持ちだとローリーはびっくりする。戦闘に使えるスキルではないがここまで記憶力があるといくらでも仕事はあるだろう。ローリーがそう言うと、
「御察しの通り私は記憶力が人よりも優れているというスキルを持っています。そして元々本を読むのが大好きでした。なので今のここの仕事はまさに天職なんですよ」
彼女の説明を聞いてなるほどと納得するローリー。流石にジムとの関係を聞くのは憚れたので本の礼を言ってから近くにあるテーブルに座って冊子を広げた。民間伝承が書かれている冊子だ。
すぐに目的のページが見つかった。それによると死んだ人を生き返らせるアイテムが存在するらしい。それは天からの授かり物ということで天上の雫と言われているということだ。冊子を読んでいくと新たな情報も書いてある。
曰く、天上の雫ならそれを死者にかけるだけで生き返らせることができるがその使用条件は蘇生すべき相手が死亡してから1時間以内だそうだ。1時間を過ぎた死体にはいくら雫をかけても蘇生はできないらしい。これは天の言葉だとそこには書いてある。
昔この地方に住んでいた猟師が魔獣にやられて傷だらけの身体で何とか村まで辿り着いたところで命が尽きた。猟師の妻が村の入り口で死んだ夫の身体を抱きながら号泣していたところ天にいた神がその妻の鳴き声を聞き、そこまで旦那を愛してるのならと天から数滴の雫を死んでいた猟師にかけたところ、猟師が怪我も治って完全に元気な状態で生き返ったと言われている。と。
民間伝承というよりもむしろ御伽噺の世界の話だが今のローリーに取っては御伽噺であろうが何であろうが仲間を蘇生させる可能性があるのであればそれに全てを賭けるつもりでいる。
冊子に目を通したローリー。死亡後1時間が本当なら問題ない。彼らは時間が止まっている俺の空間の中で死んだまま眠っているだけだからな。
ローリーは司書の女性に礼を言って図書館を後にした。通りを歩いて自分の一軒家に戻りながら、あのガラス瓶の中身が天上の雫と呼ばれているものであるかどうか。これは高位の鑑定士に任せよう。そしてもしあれが天上の雫以外の鑑定結果だとしたら… う〜ん、それはその時に考えるとしよう。とにかく今の俺はやれることをやるだけだ。と自分の頭の中で整理をつける。
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