第7話

 図書館に出向いた数日後、ローリーは昼過ぎの人が少ない時間帯を狙ってギルドに顔を出した。受付にいたアンに自分の所持金を全額下ろす様に頼んでから奥の部屋に入る。


 入るなりダニエルが


「お前さん達のランクS昇格が認められたぞ。全会一致だった」


 そう言ってアンに声をかけると彼女が新しいカードを5枚持ってきた。ローリーは礼を言ってカードを受け取ると、自分のカードを首から下げ、残りの4枚のカードを収納する。


「ランクSになった通知はトゥーリア以外にネフド、クイーバ、そしてツバルの国のギルドにも通知される。外国に行っても使えるから安心してくれ」


「わかった。準備が出来次第ここを出てネフドに向かおうと思っている。2、3日の内に出発するつもりだ」


 ギルマスの執務室でダニエルと向かい合ってソファに座っているローリーが言った。


「砂漠の民だな。こっちでも高位の鑑定士はネフドにいるだろうという情報がある」


「決まりだな」


「1人で行くのか?」


「戦闘をしに行くわけじゃない。今回は情報収集というか高位鑑定士を見つけて依頼をするのが用事だ。1人の方が動きやすい」


 なるほどと頷くダニエル。


「お前ならソロでも普通のパーティよりも強いだろう。心配はいらないな。それより鑑定士の目処はついているのか?」


「ネフドのダンジョン都市になっているリモージュに住んでいるらしいという情報は掴んでいる。行って探してみるつもりだよ」


 ギルドを出たローリーはリゼの街で移動の準備をする。リゼの街からトゥーリア王国を南にいくと隣国ネフドとの国境となっている高い山脈がある。その山脈の間に通じている街道を使って山向こうにいくとそこはもうネフド国だ。国境は山間の街道の途中にある。


 そのネフドは国土の北部から中部にかけて砂漠地帯になっている。首都があるイン・サラーやローリーが行こうとしているリモージュの街などは国の中の南部の緑が多い平野部にある。北をトゥーリア、南をクイーバ共和国と接しているネフド。南の国境はネフドとクイーバの間を流れる大河になっていた。


 従って北にあるトゥーリア王国からネフド国のリモージュに向かうには砂漠超え、あるいは船での移動となるが船の場合には海岸沿いを進み南のクイーバとの国境となっている大河を上っていくルートとなりかなりの日数がかかる。しかも船は首都のイン・サラーまでであり、リモージュの街に行くにはそこからまた船を変えて再び川を上って行かなければならない。


 ローリーは砂漠超えのルートでネフドのリモージュを目指すことにした。


 調べたところだと砂漠の北と南にはいくつかオアシスはあるものの中央部にはオアシスというか人が住んでいる場所は全くない。野営を繰り返しながら砂漠を横断していく必要があるらしい。


 砂漠には人はいないがスコーピオンやサンドウルフ、サンドスネイクなど人や駱駝を見つけると襲いかかってくる魔物がいるがローリーにとってはそれらは脅威にはならない。気をつけるのは日中の暑さと水分補給だ。そして逆に夜はかなり寒くなる。


 大量の水や果実汁を購入して収納魔法で空間に収め、それ以外にも万が一の時の野営用のテントを用意し食料もたっぷりと買い込んでいく。


 リゼの街で準備を整えたローリーが外食を済ませて自宅の一軒家に戻って休んでいるとドロシーら5人が家にやってきた。


「ローリーの言った通り、ネフドのリモージュに高位の鑑定士がいるみたいよ」


 ソファにすわるなりドロシーが言った。ローリーにとってはその情報は新しくない。黙って頷いているとドロシーが続ける。


「ネフドの鑑定士の件はローリーも知ってるでしょう?今日持って来たのは別。エルフの話よ」


 エルフと聞いてソファに座っているローリーが前のめりになった。


「シモーヌが聞いてきたんだよ」 


 ドロシーはそう言うとシモーヌを見て


「さっきの話をローリーにしてあげて」


 シモーヌは頷くと話始めた。


「狩人仲間から聞いた話なの。その子は元はクイーバ出身でいろいろあってこのトゥーリアに来て冒険者をしているんだけど」


 そう言ってシモーヌが話をした内容は、

 クイーバは国土の西半分は大森林地帯でほとんど開発がされていない。せいぜい東から中央部くらいまでだ。そしてエルフはその西の大森林地帯の中の北部、ネフドとの国境になっている大河の近くに住んでいると言われている。


「以前クイーバ所属の冒険者達が護衛クエストでクイーバの商人と一緒に大河を上ってネフドのリモージュの街の更に上流にある街で商売をした帰りに河を下っているときに夜になって川の南側、クイーバ側に上陸して野営をしたらしいの。その時に護衛をしていた冒険者達が周囲の安全確保で野営場所の周囲を探索していたら突然彼らの前、足元に数本の矢が突き刺さったらしいのよ。その矢を拾ってみるとそれは冒険者が使う様な矢じゃなく形も長さも違っていたの。気配は全く感じなかったんだけど矢が飛んできた。ここから奥に入るなという警告だろうと、そしてその矢を撃ってきたのはエルフに間違いないと彼女は言っているの」


「なるほど。無言の警告か」


 シモーヌの話を聞いていたローリー。


「確かにエルフという可能性が高いな」


「場所については大河の上流の街ネフドのブカルパという街から1日川を下ってきたあたりのクイーバ側よ。街も村もない場所に野営したからはっきりとした場所は特定できないらしいんだけど」


「そのブカルパって街から船で1日下ったところっていう情報だけでも十分さ。闇雲に探さなくても良いからな」


 シモーヌに答えながらローリーは頭の中に大陸の地図を思い浮かべて位置関係を確認すると同時に自分の行動予定を考えていた。


 リゼから王国を南に下がり山脈を超えてネフド国に、そのままリモージュを目指して鑑定士のアラルという男を探して小瓶を鑑定する。


 あの小瓶がもし蘇生アイテムの天上の雫そのものだったらリモージュで使ってランディを復活させよう。そしてその後はどうするか。そのままエルフの森を2人で探すかそれとも一旦リゼに戻ってくるか、ただエルフの森の場所がわかったとして彼らに会えるのか?そしてリゼに戻ってきても2人だと地獄のダンジョンの攻略は厳しいだろう。どうするかな。


「どうしたの?黙り込んで」


 ローリーがソファに持たれて思案顔をしているのをみたドロシーが声をかけた。


「すまんすまん。いや今のシモーヌの話を聞きながら俺自身がどう動こうかと考えてたんだよ」


 そう言って今自分が考えていたことを目の前の5人の女性達に話す。


「もしランディが生き返ったらそのまま2人エルフの森を目指したらどう? 会えなくても場所を確認しておくといいんじゃない?情報は多い方があとあと動きやすいだろうしね。それにあの盾を持ったランディとそのローブを来ているローリーなら以前よりもずっと強くなってるし、森の中を2人で移動しても問題ないでしょ?」


 ローリーの話を聞いたドロシーが言うと他の4人もそれがいいんじゃないのと言う。


「確かにな。まずはアイテムに関する情報をしっかりと集めた方が良いか。万が一あの小瓶の鑑定結果が蘇生アイテムじゃなかったとしても俺はその足でエルフの森を探してみるよ。長い旅になるだろうが目的がある。そして俺はそれを成し遂げてくる」


 ローリーの言葉に女性陣も頷き今後の方針が決まった。

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