第30話
行き止まりで周囲に敵がいない洞窟だとは言えここは48層、何が起こっても不思議じゃない。洞窟の入り口に顔を向けたまま食事をする4人。いつでも飛び出していける準備をしたままだ。洞窟から見える48層の空洞、広場には今彼らがいる場所からは遠い所を徘徊しているSSランクの魔獣の姿が見えていた。
ローリーは早めに食事を終えると立ち上がって洞窟の壁を見る。ごつごつと凹凸のある壁が奥まで続いていた。特に何か目的がある訳でもなく見るともなく見ながら洞窟の壁沿いに奥の方まで見ていくローリー。奥の壁も横壁と同様にごつごつしたままだ。
「ん?」
洞窟の奥の行き止まりの壁を上から見ていたローリーは顔を下に向けて足元の先を見た時に違和感を覚える。何だろうとその場にしゃがみこんでよく見ると奥の壁の左下の隅の壁の凹凸が不自然になっている事に気が付いた。他の場所は自然にできた様な凹凸だがそこはどう見ても人の手で削った様な感じだ。
「ちょっと来てくれ」
振り返って3人に声をかける。丁度食事が終わったタイミングだった3人が奥にやってきた。
「これを見てくれ」
ローリーの声に忍の2人がその場にしゃがみ込む。
「仕掛けがあるぞ」
カイが声を上げた。隣でケンも間違いないこれは仕掛けだと言う。忍は罠は見つけることができるが仕掛けは100%見つけられないそうだ。申し訳なさそうに言う二人だがランディとローリーは全く気にしなかった。今まで罠を見つけてくれただけでも大助かりだ。しかもこの仕掛けは見つけにくい場所にある。
「やっぱりか。隠し部屋が奥にありそうだ」
食事を片付け水分をしっかり補給して戦闘モードになる4人。ランディもしゃがんで仕掛けを見て言った
「良く見つけたな」
「見つけようとして探していた訳じゃないんだけどな。何気なく見てたら違和感を感じてさ」
「気配は?」
「それが全く感じられないんだ。壁が厚いのかも知れないが」
全員が準備OKだという声を聞いてからランディがその仕掛けを奥に押した。ギギギという音がして奥の壁の一部が左に動いて開いていく。人がかがんで通れるくらいの隙間が現れた。
「気配はない」
ローリーの言葉を聞いたランディがくぐって奥に入っていったその後にカイ、ケンと続き最後にローリーが隙間をくぐって奥に入るとそこは幅3メートル、高さも3メートル程の通路が奥に伸びていた。
通路は真っすぐに20メートル程伸びて、その先で下に降りている様だ。
警戒をしながら通路を進みスロープになっている坂を下りていくと奥から大きな気配が伝わってくる。ローリー以外の3人にも分かる程の強い気配。
「ドラゴンだ!」
4人が下に降りるとそこはダンジョンのボス部屋の様な造りの部屋だった。ボス部屋と違うのはその部屋に入る為の扉がなく部屋の中央にいたドラゴンがこちらを見つけるとすぐに飛翔したことだ。部屋の天井はずっと上にあり大きなドラゴンが飛翔する十分な広さ、空間がある。ドラゴンの体長は15メートル以上、20メートルはありそうだ。ランクはSSSS以上、ダンジョンボスレベルか。下手すればそれ以上かもしれない。とんでもない雰囲気を醸し出している。龍峰のダンジョンボスと同等のレベルだ。
「散開しろ、口から吐かれるブレスに注意」
ランディが叫ぶとカイとケンが左右に散っていった。ローリーはランディから少し離れた背後に立って彼をフォローする。盾が倒れるとあとはなし崩し的にやられてしまう。ランディが倒れる訳にはいかない。ドラゴンがその場で飛んだのを見て龍峰ダンジョンでの悪夢を思い出したローリー。
今度は絶対にランディを死なせない。
その思いで彼の背後に立って全面的にフォローする体制に入る。
飛び立ったドラゴンは予想通りタゲを持っているランディに向かって口から炎を吐いてきた。それを盾でしっかりと受け止めているランディ。ローリーの回復魔法が背後から彼に飛び体力を削らせない。その回復魔法の合間に精霊魔法を撃ってダメージを与える。
カイとケンは手裏剣を連続して飛翔しているドラゴンの腹の下に投げ続けていた。初めて彼らの手裏剣を見たが2人とも狙った場所に命中させている。一投でのダメージは大きくなくとも続ければ嫌がって降りてくるだろうと思っていると暫くするとその予想通りにドラゴンがドスンと大きな音を立てて地面の上に着地した。すると忍の2人の片手刀がその脇腹を傷づけていく。
ランディは定期的に挑発スキルを発動、同時に片手剣で突っかかってくる前足に剣先を突き立てていた。
戦闘が始まってからずっとドラゴンの動きを見ていたローリー。
「首を後ろに反った後に炎が来る。しかも連続では来ないぞ」
そう叫ぶと自分も精霊魔法をドラゴンの顔にぶつけていく。敵対心マイナス装備があるので少々派手に魔法を撃ってもタゲがランディから離れない。そのライディは敵対心プラス装備でがっちりとタゲキープしていた。
ドラゴンが大きく顔を反ると盾に隠れる様にして炎を避けるランディ。炎が止まると再び剣で攻撃していく。時間はかかるが少しづつドラゴンの体力を削っていく4人。
底なしの魔力量をしているローリーが自分の魔力がかなり減ってきたのを実感する位に時間が経った頃にドラゴンの動きが悪くなり立っていられなくなったドラゴンが腹から地面に落ちた。それをみて4人がその周囲から剣や刀を振るい、精霊魔法を顔にぶつけていくと最後弱弱しく顔を上げたドラゴンがその首を地面に落とすと光の粒になって消えたいった。
戦闘時間は1時間弱だったが一瞬たりとも気が抜けなかった事もあり全員がぐったりとした中ドラゴンがいた場所に大きな宝箱が現れた。思わず大声を出す4人。
「流石に隠し部屋のNMだ。いやらしかった」
炎をほぼ1人で受け続けていたランディ。龍峰のダンジョンでゲットしたこの盾が無かったら相当厳しかったぜと言いながら美味しそうに水を飲む。ランディも自分自身の魔力がここまで減ったのは久しぶりだと感じていた。
宝箱に近づいたカイがを開けるとそこには大量の金貨、腕輪、指輪、そして弓が入っているのが見えた。
「腕輪と指輪は鑑定に依頼する。弓はランディらが使ってくれよ」
「いいのか」
装備をローリーに預けたカイとケンは宝箱の中にある金貨を集めていた。するとカイが声を上げた
「おい、これ!」
ケンが声を上げると顔をそちらに向けたランディとローリー。2人が目を見開いた。
カイが手に持っているのは小指の大きさ程の小瓶で中に透明な液体が入っている。金貨の中に埋もれていた様だ。龍峰のダンジョンの時と同じだ。
「これってランディとローリーが探している蘇生の薬じゃないのか」
「ゆっくりと俺に渡してくれ」
カイから小瓶を受け取ったローリーはそれをじっくりと見る。半透明なガラスの容器の中に透明な液体が入っているのが見えていた。
「これが天上の雫とかいう蘇生薬か?」
小瓶を手に持ってじっと見ているローリーの横に来たランディが聞いてきた。声が興奮している。
「分からない。容器は龍峰のダンジョンから出たのと少し違うがダンジョンによって容器が変わることもあるだろう」
そう言ってから忍の2人に顔を向けて
「これは俺達が貰っても良いか?」
と聞いた。もちろんだと答える2人。ローリーは小瓶を収納に納めた。
宝箱にあった全ての金貨を収納に納めるとローリーが3人を見て言った。
「あの小瓶の中身については今は分からない。ネフドのリモージュにいる鑑定士のアラルに見せようと思う。それまで預からせてくれ」
「いや、それは中身がどうであれ2人に進呈するよ」
そう言ったカイだがまだ何か言いたそうだ。
ローリーはその表情を見ていた。彼の思っている事を察して先に言った。
「この小瓶の鑑定の為にこのダンジョン攻略を中断する事はしない」
「いいのか?」
ローリの言葉を聞いてホッとした表情になったカイが言うと、彼の言葉をフォローする様にランディが続けて言った。
「大丈夫だ。ここまで来て数か月鑑定が遅れても問題ない。それに俺たちは48層まで来ている、俺もローリーもこのダンジョンをクリアしたいんだよ。ここでダンジョン攻略を中断することで折角身体が覚えている感覚が無くなってしまう。リセットされるんだ。再挑戦したら間違いなく今より難易度が上がる。今は身体がこのダンジョンになじんでいる。このまま最下層まで行くのがベストなんだよ」
半年の間同じダンジョンを攻略しチームワークも身体のリズムもしっかりダンジョン攻略に馴染んでいるから上手く攻略出来ていると言える。ここで変な中断期間を取ることによるリスクはかなり大きいと2人は判断していた。
「良く分かった」
カイもケンも安心した表情になった。
結局この広場は正解のルートではなかったが隠し部屋とNMのドラゴンがいた。まだ分からないがそれっぽいアイテムも出た。
「ローリーが洞窟の中をウロウロしなかったら隠し部屋は見つからなかったな」
「本当にいやらしい造りになってるぜ、このダンジョン」
カイとランディがそんな話をしながらボス部屋から食事をした洞窟まで戻ってくると洞窟の奥の開いていた扉が勝手に閉まりその向こうから土砂崩れの様な音が聞こえてきた。
「一度限りのNM戦か」
「そんなのがあるんだな」
閉じられた壁を見ながら話をするカイとケン。
「多くはないがあるんだ。そういう部屋から得たアイテムはレアな物が多い。その腕輪と指輪もきっと良い物だよ」
しっかりと休んだ彼らはこの広場を戻って正しいルートを進んで広場を攻略し49層に降りる階段を見つけた。
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