第3話

 彼らの予想通り21層になるとBランクに混じってAランクが姿を表してきた。ここのダンジョンの特徴なのか出てくる敵は獣人よりも魔獣、動物や植物系の敵が多い。昆虫系のもいる。


「リゼの龍峰のダンジョンやリモージュの流砂のダンジョンにはいないタイプの魔獣が出てくるな」


「ああ。これはこれで新鮮だぞ」


 たった今カブトムシに似た形をした魔獣を倒したところで前にいるハンクとマーカスが言っている。カブトムシに似ていると言っても似ているのはその姿だけで体長は1メートル程あり硬い皮膚と頭の上についている角を使って突進してくる。ランクはAだ。


 ランディが盾でガッチリと突進を受け止め、足を切り落としていくと動かなくなり雑魚になるが気を抜けば角で突かれて大怪我をするだろう。


 フロアは深い森と言った感じで地面には土や草が生えており太い木々がフロア一面に生えてる。その木々の間からランクBやAの魔獣が姿を現しては4人に襲いかかってくるがこのランクの敵であれば複数体やってきたところで彼らの敵ではない。


 木々の間に下草を踏み固めた道らしきのが奥に伸びておりそれを進んでいくと下に降りる階段が見えてきた。まだ上層部分なのでスピード重視でフロアを攻略していく。


 ダンジョンの階段部分で野営をし、2日間で21層から25層までクリアをした4人は地上に戻るとカシアスの宿に帰ってきた。そこでしっかりと休んだ彼らは再び大森林ダンジョンに挑戦し休養日を挟みながら10日間で32層までクリアする。これで今のダンジョンの更新記録に並んだ。


「ここまでは予定通りだ」


 32層をクリアしてカシアスの常宿に戻ってきた4人。食堂で夕食を取りながら打ち合わせをしている。自分たちが更新記録に並んだことなど全く気にかけていない。


「階段から見た限り33層からはAランクが3、4体固まっていた。だから32層で攻略が止まっているのだろう」


 ランディが言った。


「32層で見かけたあの透明な蜘蛛の糸、あれが下層にいくと数が増える可能性もあるな」


 ハンクが続けて言う。32層では木々の間に透明な蜘蛛の糸が張られている場所が数箇所あった。4人はその蜘蛛の糸を見つける前に木に隠れている大蜘蛛の気配を感じたので糸に引っかかる前に本体を倒している。気配感知のレベルが低い冒険者ならあの糸はやっかいだろう。


「そしてそれ以外の罠も張られているはずだ。今まで以上に慎重に行くか」


 ランディがそう言うとローリーに顔を向けた。頷くローリー。


「それがいいだろう。今までは力技で攻略できているがそうでないフロアがあるかも知れないそれも含めて慎重に行動した方がいいな。ダンジョンは逃げないしな」


 ローリーの言葉に3人がその通りだと頷く。


 大森林のダンジョン、今の所32層まではギミックもなく森の中の一本道を進んでいけば良い作りになっているがそこに出てくる魔獣は今までとは大きく違っていた。彼らは新しく目にした魔獣との戦闘でその敵の攻撃の癖、特殊攻撃を頭の中に叩き込んでいく。


 カブトムシ以外にも例えば体長が1メートル程の芋虫の魔獣は口から糸を吐き、それは冒険者の行動を遅延させるスロウの効果が付与されていたり、蛇の魔獣は口から毒を吐いてきたりする。


 彼らは30層からはスピードを落として初見の魔獣らにわざと特殊攻撃をさせてその挙動を見、そして全員で確認しながら攻略を進めていた。経験から下層にいけばその攻撃力や魔獣の体力が増えるのは知っているが攻撃のやり方の基本は変わらないというのを知っている。最低限の動きを掴んでおけば応用編にも対応がしやすい。遮二無二進むのをやめてじっくりと敵を観察しながら攻略をしていた。


 高位の冒険者というのは戦闘力はもちろんだが観察のプロ集団でもある。初めて会った敵の攻撃パターンを覚えることによって2度目からは戦闘において有利に動けることを知っているので敵の攻撃のパターンを頭に叩き込む。と同時に常に相手を観察することでちょっとした挙動から次の攻撃を読んだり、時には一旦敵から離れたりして自分たちの生存率を上げていた。これは敵だけではなく対人間に対しても同様だ。彼らは一度あった人間の名前や顔を忘れることはない。魔獣相手に日々厳しい戦闘を続けることによって得た能力の1つである。そして能力といえば気配感知能力もそうだ。観察して周囲を警戒しつづけることでこれから起こるであろう近い未来を予測することができる様になる。


 その気配感知能力が優れていると言われている高位の冒険者の中でもローリーは頭1つ、いや2つ以上抜きん出ていた。


 その観察のプロ中のプロであるローリーが食事中に今までの魔獣の攻撃パターンや特殊攻撃について他の3人に説明しながら話をしている。


「今まで出てきた敵は特殊攻撃はしてくるものの敵本体の体力はそうはなかった。ただこれから下層に行くと体力自慢の敵も出てくるだろう。クマとか虎とか、あとは大型の猿タイプもいるかもしれない。それが単体、時に複数体で出てくると思った方が良い」


「それに加えて今までの特殊攻撃をしてくる敵も当然いるよな」


「そうだろうな。気が抜けないぜ」


 ローリーの話を聞いて思い思いに口にするメンバーだが話をしている彼らに困惑や悲壮感はない。あと1人の仲間であるビンセントを蘇生させるという強い気持ちを全員が持っていた。30層あたりで弱気になっていたのではとてもじゃないが深層部にまで降りていけないということを知っている4人。


「40層くらいまでは最短距離で移動したらどうだろう。敵はAランクの複数体とSランク程度だろう。俺たちなら問題ないし、わざわざ道から外れて森の中にある宝箱を探して見つけたとしてもその中身は大したことがないだろうしな」


 食事を終えたタイミングでランディが言った。他の3人もそれでいいだろうと賛成する。今の彼ら4人の実力から見れば本当の地獄のダンジョンは40層からの10層だろうと認識していた。だからと言ってそこまでのフロアで油断する彼らではない。いくつも地獄のダンジョンをクリアしている彼らはこの地獄のダンジョンの怖さというのを十分に理解していた。


 4人の話し合いで明日と明後日の2日間を休養日として各自でリフレッシュすることになった。

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