第2話

 とりあえず3ヶ月分の部屋代を前払いして部屋を押さえた4人。市内で買い出しを終えた後、良い機会だからクイーバ時間ってのを体感してみようぜという事になって今4人はカシアス市内にあるレストランに来ている。


「これ、事前に知らなかったら暴れてるぞ」


 何も置かれていないテーブルを囲んでいる4人のうちの1人、マーカスが言った。店に入って料理を注文してから30分以上経っているがいまだに何も運ばれて来ない。レストランにはそれなりに客が入っているがテーブルの上に料理が置かれているのは半分もないだろう。それでも誰も何も言わずに身内同士のおしゃべりに夢中だ。そしてざっと店の中をみるとそこに冒険者の姿はない。自分たちだけだ。


「皆忍耐強いのかそれともこれが普通なのか」


「普通なんだろう。時間の流れがかなり遅い」


 ハンクとランディが言っている。ローリーは3人のやり取りを聞きながら周囲を見ていたが冒険者の姿をしている者はほとんどいない。このレストランに来る途中で見かけた屋台で買って宿で食べているのかそれとも冒険者御用達のレストランがあるのか。いずれにしても今まで訪ねたネフド、ツバルとはまた違った文化がここにはあった。


 もう直ぐ1時間になろうかという頃になってようやく料理が運ばれてきた。


「ツバルも美味かったがこの料理も美味いな」


 一口食べたランディが顔を上げて言った。他の3人も頷く。ツバルのリモージュのピリ辛と違って各自の目の前にある料理は鹿の肉を煮込んでそれに野菜を添えた料理だ。味が濃いめで疲れた身体には合う。随分と待たされたが出された料理は悪くなかった。


「まだ初日だが食事が美味しいのはありがたい」


「その通り。美味くないと気持ちが落ち込むからな」


 待ちくたびれたが味はどれも4人の予想以上だった。

 ある程度食事が進んだところでローリーが3人を見る。


「明日から活動開始だ。片道4時間程かかるという話だが上層はそれほど苦労しないだろう。行けるところまで進んでしまおうか」


 彼の言葉にそうしようと3人が言った。どこまでと決めずに行けるところまで降りていくことにする。Sクラス4人なら上層は他のダンジョンと同じく問題なく降りて行ける。最短距離で下層を目指すことにする。


 翌朝、宿を出ると近くにある南門から外に出た4人。同じ方向に歩いていく冒険者達がいる。ここクイーバの冒険者達は外見も装備もトゥーリアと似ておりランディら4人が街道を歩いていて周囲から浮いているという様には見られない。


 ローリーは皆地獄のダンジョンに向かうのだろうと思っていたが歩いていると途中から道を曲がったりしていく冒険者達がいる。どうやら彼らは他のダンジョンの攻略組らしい。3時間程歩くと地獄のダンジョンに向かっているのは自分たちとそのずっと前を歩いている5人組だけになった。


 ダンジョンは文字通り森の中に入り口があった。ダンジョンの中が大森林だと聞いているが存在している場所も森の中で周辺の木を切り倒して周辺を柵で囲った村になっている。その中には宿屋が数軒、食堂、雑貨屋、武器屋、防具やなどが数軒並んでいる。その村の一番奥にダンジョンの入り口が見えていた。


「地獄のダンジョンに挑戦する奴らはたいていこの村の中の宿に泊まるんだな」


 村に入って左右に並んでいる店屋や宿を見ながらハンクが言った。


「短期の攻略ならそれもありだろうが俺たちは違う。休む時はしっかりと休むのが基本だ。静かな部屋でゆっくり休まないと攻略はできないだろうしな」


 ランディがいうとその通りだなとローリーも頷く。ダンジョンは逃げない。常に万全の体調で望まないと最下層に降りていけないのが地獄のダンジョンだと信じている。



 入り口でカードをかざした4人は大森林のダンジョンの攻略を開始した。流砂のダンジョンと同じく低層はスピード重視で攻略する作戦で1層から5層まであっという間にクリアした4人。6層に降りるとそれまでの景色が代わり目の前が森になっていた。


「1層から5層までは洞窟でこれは今までのダンジョンと同じ。ここから大森林のダンジョンのスタートだな」


 とは言っても出てくる魔獣は一角兎やゴブリンクラスで相手にもならないレベルの魔獣達だ。フロアが森と言ってもそれほど難易度が高くない。


 ダンジョンの階段部分で野営をし、2日で20層までクリアした4人。21層に降りた所で目の前に広がる景色を見てから地上に戻ってきた。そのまま4時間近く歩いてカシアスの街に戻ってきた彼らは部屋でシャワーを浴びるとそのまま宿の1階にある食堂で夕食を摂る。ギルマスが言っていた通りここはクイーバ時間ではなく注文してそう待たずに料理が運ばれてきた。


「うん。ここの料理もいけるぞ」


「ああ。肉は濃いめの味付けにして野菜と果実がアクセントになっていて美味い」


 収納とアイテムボックスでダンジョンでも出来立ての料理が食べられるとはいえこうして落ち着いてテーブルに座って食べる食事はまた格別だ。


「帰り道で話をしたけど明日は休養日にしよう」


 ランディが言った。休める時にしっかり休む。この基本方針は変えないというのがこのパーティの考え方だ。


「見た限り21層からそろそろAランクが出てくる。俺たちは問題ないが魔獣の癖を覚えてくれ。下層だと同じ魔獣のランクが上がるが動き方、癖は基本同じだと思う。強さが上がるのと特殊攻撃が増えるくらいだろう。敵の動き方がわかっていれば対処しやすい」


 ローリーがそういうとわかったと3人。Aランクを倒すのはこの4人なら何も問題がないがダンジョンが変わったことで出てくる魔獣の種類が変わりその魔獣の挙動を事前に理解しておくことが安全度を高めることとなる。


「まだ大丈夫だろうが下層に降りると罠を張っている魔獣がいるという話だ。今までの地獄のダンジョンとは違う可能性もあるぞ」


「罠か。確かリモージュでローリーがそう言ってたな」


 フォークを持った手を止めてマーカスがローリーを見た。


「そう。たとえば蜘蛛の巣を張っていたりあとは枝や葉っぱに擬態している魔獣だな。今までは魔獣はこちらを見つけると襲いかかってきたがここ大森林のダンジョンでは今までの魔獣に加えて罠を張って俺たちが近づいてくるのをじっと待っている魔獣もいる」


「トレントみたいなのがいるってことだな」


「トレントだけじゃないと思った方が良いだろう。周囲を警戒して違和感を探してくれ。たとえば風が吹いているのに揺れない枝や葉があればそれは怪しい。あとは高い木の枝から襲いかかってくる猿の様な魔獣もいるだろう。Aランク程度なら俺の強化魔法で弾くことができるが下層に行くと厳しくなる。なので中層あたりから周囲を警戒することを習慣つけておくのが良いと思うんだ」


 ローリーの話を聞いていた3人。今までのダンジョンとは毛色が違うダンジョンであることを再認識する。


「ローリーの言う通りだな。皆常に抜刀しておこう。スピード重視はここまでだ。次回からは慎重に進もう」


「ギルマスが言っていたが32層までクリアされている。ということはAランクの冒険者なら32層までは行けるってことだ。俺たちは強いが過信せずに行こうぜ」


 ランデイに続いてハンクが言った。

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