カシアス
第1話
「気をつけてね」
「そっちもな。リゼに戻ったらギルマスのダニエルやアンによろしく」
翌朝宿の前でドロシーらのパーティとランディらのパーティが二手に別れた。お互いに長い付き合いだし今生の別れになる訳でもない。あっさりとした挨拶を交わすとランディらはリモージュの港に足を向ける。
船付き場には漁師のハバルはもちろんだがその隣に鑑定家のアラルがいて4人を待っていた。
「わざわざ来て貰って悪いな」
ハバルと挨拶をすませたランディがアラルに顔を向けて言った。
「友人の旅立ちを見送るのは当然だよ」
アラルとここの4人、特ローリーとは1年以上リモージュにいてすっかりアラルと打ち解けている。最初リゼで聞いていた話では気難しそうな鑑定家というイメージを抱いていたが実際には人の気持ちがわかる人間味溢れた男だった。
一方のアラルもローリーをはじめとするこのメンバー全員が素晴らしい冒険者達であると思っていた。特にローリーだ。この男は一番最初に店に来た時から全く変わっていない。威張ることもなく媚びることもない。常に対等の立場で話をしてくる。アラルが抱いていた冒険者というイメージを変えた男、それがローリーだ。
「クイーバと行っても河のこっち側はネフドだ。ダンジョン攻略は時間がかかる。息抜きと鑑定でまたアラルに世話になると思うよ」
「お前さん達ならいつでも歓迎だ」
全員がアラルと握手をするとハバルの船に乗り込んだ。桟橋でアラルが見守っている中4人を乗せた船はゆっくりと離岸するとクイーバのカシアスを目指して大河ナタールに繰り出した。
リモージュから河を1日半ほど下ったところは川幅が1km以上になっている。そのクイーバ側に4人の目的地であるカシアスの街があった。
「世話になった」
「気をつけてな」
アラルと短い挨拶を終えるとハバルの船は船着場を離れ、船首を大河に向けて進み出した。
「ハバルはカシアスに行ったことはあるのかい?」
船が下流に向きを変えて進み出すとランディが聞いた。
「ある。ここらで仕事をしている漁船は結構行ったり来たりしているぞ。魚を売ったりお互いの日用品を運んだり、もちろん人の行き来もある」
ハバルによればしょっちゅうではないが新鮮な魚を売るために地元ではなく漁から近い場所の街に水揚げすることもあるという。腐ったら一文にもならないからなと言って笑った。それもあってネフドとクイーバの間を流れているナタール河で漁をしている漁師は皆お互いの国に行けるパスを持っているらしい。地元の漁業組合が発行するそうでハバルはリモージュの漁業組合が発行しているパスを持っている。
日が暮れると船をネフド側の岸に寄せてそこで一夜を過ごす。ローリーの収納魔法に加えて今はランディがアイテムボックスを持っている。そこに大量の食料や物資を収納していた。
「クイーバに行くとこれが食えなくなるのが辛いな」
そう言って辛口の料理を口に運んでいるハンク。彼に限らず他のメンバーもすっかりハマっているネフドの料理だ。ハバルも勧められるまま料理に手を伸ばしていた。数度彼の船を使ったこともありこの無口な船長ともしっかりと信頼関係を築いているメンバー。夜は少しだけ離岸したところで投錨する。これで魔獣に襲われることもないのでぐっすりと休むことができた。
翌日の昼頃に船が船首の向きを南にずらせた。そのまま走っていると前方に城壁が見えてきた。大森林のダンジョンがある街、カシアスが見えてきた。船に乗っていた4人が船首から正面に見えてきたカシアスの城壁を見つめる。
「あそこから半日ほど歩いたところに地獄のダンジョンがあるらしい」
皆と同じく前を見ているローリーが言った。
減速したハバルの漁船がカシアスの漁港の桟橋に着岸した。ランディ、ハンク、マーカスの順で船を降り、最後に降りたローリーがハバルにお礼の金貨を渡す。
「助かったよ」
「またリモージュに来るとアラルから聞いている。リモージュから出るときはいつでも声をかけてくれ」
握手をして船を降りたローリー。桟橋を出るとそこはすでにカシアスの市内だ。ギルドカードを見せて市内に入った4人はまず冒険者ギルドに顔を出した。
どこの国でもギルドのある場所は大抵が城門の近くだ。ここカシアスでも例にもれず城門の近くに馴染みのマーク、剣と盾のシンボルが掲げられている建物があった。昼過ぎの時間ということもあり空いているギルド、受付でギルマスに案内を乞うとすぐに奥の会議室に案内され、まつことなく一人の男性が部屋に入ってきた。
「カシアスにようこそ。ここのギルドマスターをしているパウロだ」
「トゥーリアのリゼ所属の冒険者のランディ、大森林のダンジョン攻略でやってきた」
ランディの後で他の3人も挨拶をする。
「お前さん達の事は通知が回ってきている。地獄のダンジョンを攻略しまくっているとんでもないパーティがいるってな。最近もリモージュのダンジョンをクリアしたそうじゃないか」
お国柄なのか開けっぴろげな感じで話かけてくるギルマス。
「リモージュをクリアできたんでね。ここまで足を伸ばしてきたからクイーバのダンジョンにも挑戦しようと思ってさ」
「Sランクのお前さん達は冒険者の活動で制限は何もない。現在ここの地獄のダンジョンは32層で攻略の更新が止まってる。ガンガンやってくれ」
リモージュのギルマスのサヒッドは自国の冒険者に頑張って欲しいという思いが強くそれが会話の端々に出ていたがこのパウロは違う様だ。
「冒険者に国境は無い。自国だろうが他国だろうが力のあるやつがダンジョンを攻略するのは当然だ。国籍なんぞ気にしてたら何も始まらない」
開拓民を先祖に持っている国民性なのかかおおらかな性格のギルマスに4人は好感を持つ。ランディはリモージュでのギルドと同じくしょっちゅうギルドには顔を出さない事と攻略しているのが自分たちであるというのは黙っていて欲しいと言い、その理由を説明する。
黙って聞いていたギルマスのパウロ。ランディの話が終わるとわかったと大きく頷いた。
「今の話を聞いている限り俺が納得できる理由になっている。余計な雑音をシャットアウトしたいと言うのもわかる。お前さん達のことは黙っていよう。ただ不定期で良いからギルドには報告を頼む」
その後大森林のダンジョン攻略についておすすめの常宿を聞いたところ、ダンジョン近くよりここカシアスの南の門の近くにある宿の方が良いだろうと2軒ほど勧めてきた。ギルマスによるとダンジョンの近くに村があって宿もあるが冒険者達が多く泊まっていて毎晩うるさいのと部屋自体が壁が薄いらしい。
「南の門からだとダンジョンまで歩いて4時間程だ。時間はかかるが宿は静かで部屋も広い。その方が疲れが取れると思うぞ。それに村よりもここカシアスの方が飯がずっと美味い。それとだ、紹介した2軒の宿の食堂は料理が早く出てくる。他国の商人や冒険者相手に商売をしている宿だ。クイーバ時間で営業してたら冒険者達が怒って暴れるのをよく知っている」
そう言ってパウロが笑うと4人もそれにつられて笑う。
「食事が美味いのは大事だな」
「しかもクイーバ時間じゃないってのも良いな」
ギルドを出た彼らはギルマスに勧められた宿を両方見てから部屋が綺麗だった方の宿を長期で借りることにする。
カシアスでの拠点が決まった。
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