第62話

 ギルドを出た彼女達がリモージュの常宿に戻るとランディら4人が待っていた。そのまま市内のレストランの個室に入る9人。彼女らが地上に戻ってきた、つまり50層のボスを倒してダンジョンを制覇したということだ。


「「かんぱ〜い」」


 ビールが入っているグラスをあげて乾杯を終えるとそのままグイッと飲み干す男4名とドロシー。他の女性4人は一口つけると隣のジュースに変えた。


「それでいいのは出たかい?」


 空になったグラスをテーブルの上に置いたランディが聞いてきた。ドロシーが説明するとその装備を手にした女性陣がそれを見せつける。


「ケイトはカイルと同じ防具だな」


「これいいぞ、凄く使いやすいんだよ。めちゃくちゃ素早く動ける様になって高ランクの攻撃も避けてくれる」


 ケイトとカイルが話をしている別の場所では狩人のマーカスとシモーヌが指輪の話をしていた。ランディとドロシーは盾について話をし、ローリー、カリン、そしてルイーズは指輪と腕輪の話をする。いずれのアイテムも2つとない業物だ。話題には事欠かない。その席上でアイテムが出なかったルイーズに俺は使わないからとローリーが魔力+20の腕輪を渡した。


「いいの?」


「もちろん。俺は使わないから持っていても宝の持ち腐れだ」


 ローリーがそういうと周囲も黙って貰っておけよという。ありがとうとすぐに腕輪を装備したルイーズ。


「それよりもボス戦のドロップだが俺たちより1アイテム少ないな」


 喜んでいるルイーズを見ていたローリーがケイトに言った。そうなのよと言ってから、


「ローリーの読み通り?2番手だからかもね」


「かもしれない。いずれにしてもまだ確定じゃないけど傾向らしきものが見えたと思ってる」


 そういうローリー。1番手、先駆者利益というかメリットがドロップ枠の拡大であれば一番にクリアすれば天上の雫が出る可能性が上がるということになる。



「狙っていたアイテムは出なかったけど予定通り次はクイーバ?」


 会話が途切れたところで皆が食事に戻り、雑談をしているとドロシーがランディに顔を向けて言った。個室とはいえ不用意に特定の名前を出さない。


「その予定だよ。こうなったら全部クリアしてやろうって気持ちでいる」


 ドロシーらからも出なかったのは宿で合流してすぐに聞いていた男性陣。事前にローリーが出ない確率の方がずっと高いと言っていたこともありそれほど落ち込んではいなかった。


「そっちはリゼに戻るんだろう?」


「そう。2、3日したら砂漠を越えてトゥーリアに戻ろうと思ってる。それでリゼに戻って落ち着いたら竜峰のダンジョンだね」


 41層までクリアしている彼女達、今の実力と装備なら50層まではいけるだろう。龍峰にはいやらしいギミックがない。力技で押していけるフロアがほとんどだ。とは言ってもその力技で押すというのが簡単ではないのだが、今の彼女らなら問題なく進み、ボス戦も勝てるだろう。ローリーはボス戦の時の注意点だけ彼女らにアドバイスをする。あの特殊攻撃で4人が倒れたのを知っている彼女達。


「それさえ気をつければいけるぞ。それに以前よりずっと強くなっているのは間違いない。強い気持ちを忘れずにいれば勝てるよ」


 ローリーの言葉にわかったと頷く女性達だった。

 

 龍峰のダンジョンボスは特殊攻撃があるが今のドロシーは物理、魔法をそれぞれ20%カットする盾を持っている。彼女一人ならあれにも十分に耐えられるだろうとローリーは考えていた。



 翌日ランディら4人とドロシーら5人の9名はリモージュを出る前の挨拶で鑑定家のアラルの自宅兼店舗に顔を出した。


「色々お世話になりました。ありがとうございました」


 ドロシーが挨拶をすると温和な表情で大きく頷くアラル。


「地獄のダンジョンもクリアできた。ドロシーらはこれからトゥーリアに戻るのかね?」


「ええ。トゥーリアのリゼの街に戻って活動再開です。それで落ち着いたらあちらにある挑戦中の地獄のダンジョンの攻略を再開するつもりです」


「装備も充実しておる。以前よりは攻略が楽になるんじゃないかな」


「だと良いのですけどね」


 ドロシーらもアラルに様々なアイテムの鑑定を依頼している中で彼の素晴らしい人間性について十分に理解していた。ドロシーらの挨拶が終わるとアラルはランディらに顔を向けた。


「そっちはクイーバか」


「あと1人残っているんでね」


 ランディらの目的を知っているアラルはその言葉に頷くと言った。


「ここからクイーバのカシアスの街までハバルの船を使うのだろう」


「そう。彼の了解も貰っている。ここから河を下ってカシアスを目指すよ」


「他国に行くとは言えカシアスからこのリモージュまではそう遠くない。鑑定が必要になったらいつでも顔を出してくれて構わない」


「それをこちらからお願いしようと思ってたんだよ。そう言ってもらえて助かるよ」


 その後暫く雑談をした9人は最後にもう一度アラルに礼を言うと店を出てギルドに顔を出した。意識的にギルドが空いている時間を狙って行ったこともありギルドのロビーは閑散としていた。会議室に案内されて9人の前にこの街のギルマスのサヒッドが入ってきた。


「リモージュを出るんだな」


 そう言ったサヒッドにランディが9名を代表して答える。


「その通り。明日の朝出発して彼女達はトゥーリアのリゼに戻り、俺達はクイーバを目指す」


 流砂のダンジョンがクリアされた。しかも短い間に2パーティが最下層のボスを倒したという事はネフドはもちろんだが、大陸中に告知がされていた。この街にいる冒険者達はその2パーティはおそらくトゥーリアから来ている2パーティだろうと想像はしていたが彼らがほとんどギルドに顔を出していないのでそれを確認する術はない。


 ランディやローリーは途中報告で数度ギルドに顔を出していたがロビーにいる冒険者達を無視するというか一顧だにせず受付からギルマスの執務室に消えていき、報告が終わるとそのまま真っすぐにギルドから出て行く彼らに声をかけると言う猛者はいなかった。ランクSの4人は当然だがドロシーらもダンジョン攻略を経てランクA以上のオーラを漂わせる様になっていた。


 ランディ、ドロシーともにダンジョン攻略中に余計な雑音を入れたくないという気持ちがありそれはギルマスにも事前に説明ををしていた事もあってここリモージュのギルドからも地獄のダンジョン攻略に関しては積極的な情報発信をしてこなかったがクリアした今はある程度はよいだろうとそれまで黙っていたローリーが口を開いた。


「俺達は明日出て行くが簡単に地獄のダンジョンについて報告しておくよ」


「いいのか?」


 まさか彼らがオープンにするとは思っていなかったサヒッドが聞き返した。


「構わない。ただし本当にさわりの部分だけにさせてくれ。それと今から言う話を聞いたからと言って簡単に攻略できるほど地獄のダンジョンは甘くないと言っておく」


「それは分かっている。お前さん達だからできたというのは理解しているつもりだ」


 ローリーがざっくりと話をするのを他の8名のメンバー及びギルマス、職員が途中で口を挟むことなく聞いている。


「力技だけじゃ攻略できないんだな」


 簡潔に説明をしたローリーの話が終わるとサヒッドが言った。


「その通り。まず装備を充実させる。そしてその上にダンジョンのフロアごとに隠されているヒントを読み解いて初めて下層に降りる階段が見えてくる。自分が言うのも何だが簡単じゃない」


「技術、体力、そして知力。その全てが要求される。そしてその上にチームワークだ」


 ローリーに続いてランディが言うとなるほどと言った表情になるギルマス。


「さらっと聞いただけでも難易度の高さが分かるな。いや教えてくれてありがとう」


「簡単じゃないが不可能じゃない。後に続くのが出てくると良いな」


 ランディがそう言ったのを機会に全員が立ち上がった。


「お世話になりました」


 ギルマスに挨拶をした9人はそのままギルドを後にした。


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