第61話

 地獄のダンジョンボスである50層の大蠍との決戦は楽勝とはいかなかった。ヒヒイロカネで作られた装備ではないケイトの武器では大きな傷をつけられない。シモーヌの矢も予想したダメージが出ない。ただその結果二人はボスのヘイトを取らずに済んでいた。


 カリンの精霊魔法がダメージソースとなったが撃ちすぎるとタゲを取ってしまうので連続して撃てない。


 途中で2回大暴れが来たが何とか乗り越えながら彼女達はボスとの戦闘を続けていた。


「ルイーズ、魔力は?」


 ケイトが叫んだ。


「まだ大丈夫」


「無理しないでね。MPポーション飲んで休憩してもいいから。少々なら耐えられるよ」


 蠍の攻撃をまともに受け止めているドロシーも声をかける。


「わかった」


「シモーヌ。近づき過ぎよ。近づくのなら背後から」


 ボスの大蠍の顔に近づいていたシモーヌに声が飛ぶ。顔を狙っていると知らず知らずのうちにボスに近づいていたらしい。あわってシモーヌが背後に飛び去った。


「少しづつだけど間違いなく体力を削っているから」


 自分も片手剣を振りながらメンバーに指示を出しているケイト。時間がかかるのは想定内だ。安全にそして確実に削っていこうと皆で話あっていた。


 2度目の大暴れが終わりドロシーが攻撃を受け止めながらチマチマと削っているとボスが顔を上げた。思わず叫ぶケイト。


「来るわよ!」


 その声でルイーズが背後に飛んだ。他の3人も同じ様にボスから離れる。ドロシーだけが盾を構えてしっかりとボスに対峙している。そのドロシーの全身を紫の煙が包み込んだ。


「ドロシー!」


 思わず声を上げたケイト。


「大丈夫だよ。指輪が効いてる」


 煙の中から返事が来た。緊張が解けるとすぐに戦闘体勢にはいる4人。煙が消えたら総攻撃だ。しばらくすると煙が霧散して消えていった。


「目の前から煙が消えたよ!」


 ドロシーのその声で全員が蠍に近づいて攻撃する。ヘイト無視の全力攻撃だ。カリンも最大の精霊魔法を魔力が続く限り連続して発動している。しばらくすると蠍の動きが遅くなりとうとうその全身を床の上に横たえた。そこにドロシーとケイトの片手剣が頭を貫くと痙攣した蠍が消え、そこに宝箱が現れた。



「やったよ!やったんだよ!」


「私たちでダンジョンボスを倒した、クリアしたんだよ!」



 感情を爆発させる5人。ランディらの後塵を拝したとは言え自分たちで50層のボスを倒したのだ。


 宝箱を開けるとそこには大量の金貨、そしてボスの魔石にまじって武器とアイテムが入っていた。今度は箱いっぱいに中身が詰まっている。


 指輪と腕輪、そして防具に杖。


「……小瓶は入ってないわね」


 箱の中を見ていたケイトが言った。

 蘇生薬である天上の雫らしき小瓶は見られなかった。


「ローリーも言ってたでしょ?ある可能性の方が少ないって。こればっかりは仕方がないよ」


 ケイトの肩を叩きながらそう言うドロシー。ケイトもそうねと言って宝箱から顔を上げる。他のメンバーも仕方ないよという表情だ。


 5人はボスを倒して現れた転送盤に乗って最下層の50層から地上に戻ってきた。

 

 流砂のダンジョンは短期間に2度クリアされた。


 彼女達は地上に上がるとまずは鑑定家のアラルの店に顔を出した。ダンジョンクリアを報告するとランディらの時と同じ様に喜んだアラル。


「ローリーらがクリアして敵の情報があると言っても誰でも簡単に攻略できるダンジョンではないというのは私でも分かる。他のダンジョンを見てもそうだろう?クリアできているダンジョンに挑戦してクリアできない者も多数おる。自分たちを卑下することはないぞ。地獄のダンジョンをクリアしたというのは紛れもない事実だからな」


 アラルにそう言われて彼女達の表情も明るくなった。全くもって彼の言う通りだ。攻略されても次の挑戦者が簡単に攻略できる訳ではない。しかも地獄のダンジョンだ。ありがとうとお礼を言った5人がアイテムの鑑定を依頼する。


「ローリーらの時と同様に良い物が出ておるな」


 そう言って鑑定した結果は、


 狩人の指輪 遠隔攻撃、命中 +40 これはシモーヌが装備する。

 スコーピオンアーマー 素早さが+70、使用武器の威力アップ+20、

 腕輪は精霊魔法+40


 スコーピオンアーマーはケイトが装備することになった。

 腕輪は精霊魔法+40ということでカリンが持つことになった。


「天上の雫は出なかったのか。仕方がない。そう簡単に出るアイテムではないからな」


 そう言ってからハバルが続けた。


「ローリーらもわかっているだろう。彼らは次のクイーバについて情報を集めておったからな。簡単ではないのは皆重々承知しておる。ところで流砂のダンジョンクリアしたがこれからどうするんだ?」


「私たちはリゼに戻るつもりなの。長い間リゼを不在にしてるからね。一旦戻って溜まっているクエストを消化したら攻略が途中で止まっている龍峰のダンジョンに再挑戦するつもりなの」


 ドロシーの話を聞いていたアラルは大きく頷くと言った。


「今のお前さん達の装備を見れば以前ほど難しくは無いだろう。それくらいに装備が充実しておる。ローリーら以外のパーティでそこまで充実しているのはいないだろうな」



 礼を言って店を出た5人はリモージュのギルドに顔を出した。


「お前さん達もクリアしたのか」

  

 部屋に入って魔石を見せると開口一番そう言ったギルマスのサヒッド。自分の国所属の冒険者ではなく他国の冒険者達が連続して難攻不落のダンジョンを攻略する。思うところはあるだろうがそれを表情に出すほど青臭くはないギルマス。


「ランディらと情報交換をしていたからね」


 ドロシーの言葉になるほどと頷くと魔石買取金額として金貨3,000枚を提示してきた。事前に聞いていた通りの金額なので問題ないとその価格での譲渡をOKする。

 

 宝箱にあったアイテムの鑑定はアラルにしてもらったと言いその鑑定結果をギルマスに報告した。


「アラルの鑑定なら間違いないな。それにしても流石に地獄のダンジョンボスから出るアイテムだけあるな。2つとない優れものばかりじゃないか」


「生死をかけて下に降りていったからね」


「そりゃそうだ。それでこれからどうするんだ?」


 ドロシーはアラルに言ったと同じ説明をギルマスにする。黙って聞いていたギルマスは彼女の話を聞き終えると、


「わかった。こちらでダンジョンボスの討伐証を用意する。これを持ってリゼで申請すればSランクになるだろう。ランディらはすでにSランクになっているから作らなかったがな」


 そう言って笑ったギルマスは職員を呼んで地獄のダンジョンの討伐証をリモージュのギルドの公式文書として作成する様に指示を出した。ボスの大きな魔石を渡していたこともあり職員はすぐに書類を作るとギルマスのサヒッドに持ってくる。一読した彼が最後にサインをするとその書類をドロシーに渡した。


「ありがとう」


「いやいや、地獄のダンジョンをクリアしたんだ。Sランク昇格は当然だよ」

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