第4話
カシアスの街はクイーバの中でも地獄のダンジョンが近くにある関係か他国の冒険者や商人が多い。そのせいかクイーバ時間の店もあればそうでない店もありそうで、まずはそのあたりの見極めが必要だ。
休養日の初日、宿で朝食を食べたローリーは1人で市内を歩きながらそんなことを考えていた。それでそのクイーバ時間の店とそうでない店の判別だが朝から街を歩いていてすぐにその違いを見つける。
開店時間に店が開いていないのはクイーバ時間の店だろう。そして開店前からその準備をし始めているところは他国と同じ時間軸で動いている店だろうと想像する。朝食は宿で済ませていたが開店直後に見える喫茶店に入ってみる。
飲み物を頼むとそう待たずに運ばれてきた。
「ここはクイーバ時間の店じゃないんだな」
ジュースを運んできた女性の従業員に声をかけると厨房に引き換えそうとしていた彼女が立ち止まってローリーに顔を向けると言った。
「このお店は冒険者の方がよく利用されるんですよ。クイーバ時間だと冒険者の方は誰も来てくれませんからね」
なるほどなと納得する。彼女によればこの街でクイーバ時間の店とそうでない店との見分け方は冒険者がいる店はまず時間通りにことが進む。一方で冒険者がいない店はクイーバ時間でやっている店だと理解すると間違いないという。
どうりでここに来て最初に入った市内のレストランに冒険者がいなかった訳だ。彼らはあの店がクイーバ時間だと知っているから来なかったんだな。地元の冒険者はそう言う情報を持っていてギルドの酒場あたりで他国からやってきた冒険者仲間に教えるんだろう。自分たちはギルドとの付き合いを最低限に制限しているから情報が入ってこない。ギルドは魔獣以外にもいろんな情報を交換する場所としては最適と言えるからな。
礼を言ってジュースを飲んだローリー。店を出ると市内をうろうろしておおよその地理、そして武器、防具関係の店、いわゆる冒険者御用達の店をチェックしてはその場所を記憶していく。
丸1日カシアスの市内を歩き回ったローリーは大体の地理、店の場所など必要な情報を手に入れた。夕刻になって今度は冒険者がいる店に1人で入ってみると予想どうりそこはクイーバ時間ではなく注文してそう待つことなく料理が運ばれてきた。本当は歩き疲れたのでビールを飲みたかったが地獄のダンジョン攻略中は禁酒だ。これは休養日でも変わらない。飲みたいのを我慢し、ジュースで喉を潤しながら食事を済ませた彼は外がすっかり暗くなった頃に常宿に戻ってきた。
翌日は昼前までしっかりと休んだローリー。昼飯を食うかと部屋を出ると同じタイミングでハンクが部屋から出てきた。
「昼飯かい?一緒にどうだ?」
目が合うとハンクが聞いてきた。
「いいな」
ハンクの誘いに乗って2人で宿を出て市内を歩く。昨日仕入れた知識をハンクに教えるとなるほどそうなっているのかと納得する。当然冒険者が食事をしているレストランを選んで中に入って料理を注文した。予想通りにそう待たずに料理が運ばれてきた。
「ビールが飲みたいところだが我慢だな」
「ああ。昨日も1人で飯を食ったが我慢したよ。ビンセントの為に飲んじゃいけないんだと言い聞かせてな」
ハンクは昨日は市内の武器屋巡りをしていたらしい。それなりの片手剣は売ってはいるが今自分が持っているのと比べると性能が落ちるので買わなかったと。
「そりゃそうだろう。あの下層から出てくる片手剣を凌ぐものがそう簡単にあるとは思えないぞ。しかもヒヒイロカネを練り込んである。こんなの普通はないからな」
「そうは言うけどな。ローリーのその帽子の件もある。掘り出し物ってのがあるかもしれない。そう思って武器屋を回るのは楽しいもんだぜ」
ローリーの帽子はネフドのリモージュのガラクタ市で見つけたものだ。外見が気に入って購入したが、実際には温度調節機能が付いていておまけに敵対心マイナス効果までついていた。そういうのがあるかも知れないと掘り出し物を探して武器屋をうろうろするのがハンクのリフレッシュ方法の1つなのだろう。
「ところでだ、今のダンジョン。ローリーはどう見てるんだ?まだ序盤だが他と比べてお前さんがどう感じているのか教えてくれないか?」
お互いに周囲で誰が話を聞いているかはわからないので具体的なダンジョンの名前を言わずに話をする。ハンクから聞かれたローリーは手に持っていたフォークをテーブルに置くとそうだなと言って続けた。
「正直今までと勝手が違うので戸惑っているというのが本音だ。全方向を気にしなければならないと言うのはあまり関係ない。出てくる敵が見たこともないのが多いのとどのフロアも前方視界が悪い。先の予測が立て難いダンジョンだと思っている」
視界が広ければ先を見て戦略を立てることができるが。深い木々に囲まれていて前方の視界が限られているとその予測を立てるのが難しくなる。
「今の所はある程度フロアの予想がつくので事なきを得ているがこれが深層に降りた時にどうなるか。安全地帯をどうやって見つけるかなど心配なんだよ」
「賢者ローリーも苦戦しそうだな」
「まぁな。ある程度は行き当たりばったりになるだろう」
「ダンジョンとは本来そんなもんだろう。いずれにしても俺たち3人がしっかりと敵を殲滅するからその場その場で思いついた事を言ってくれりゃあいい。それが間違っていたとしても誰もローリーを責めないさ」
「悪いな」
ハンクをはじめマーカス、ランディら前衛3人は後衛1人で頑張っているローリーの能力を高く評価すると同時に彼に負荷をかけすぎているという自負もある。常に周囲を警戒しながら回復、強化、そして精霊魔法を撃っては戦闘に貢献するローリー。そして知力にも優れている。彼がいなければ他の地獄のダンジョンの攻略は進まなかった、いや攻略できていなかったかも知れない。それくらいにパーティにおける彼の貢献度は高い。ダンジョンのフロアで安全地帯を見つけるのも彼の役目だ。
「ローリー、あんまり1人で気張るなよ。まだまだ奥が深い。今から頑張りすぎると途中でばててしまうぞ。言い方は悪いが適当にやることも必要だろう。俺たちをもっと信用してくれていいからな。ローリーの出番はこれからきっとくる。それまで楽にしておいてくれよ」
ハンクの気遣いがありがたかったローリーは。そうだな。よろしく頼むよと軽く頭を下げた。休養日に本当の意味でリフレッシュ、気持ちの切り替えができたとローリーは感じていた。
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