第3話

 結局砂嵐は4時間ほど続いた。兄弟によるとここまで大きな砂嵐は見たことがないと言う。嵐が去った時は日が大きく傾いていたので結局この場で夜を過ごすことにする。改めてテントを貼って再度結界を張るローリー。


「この結界がなかったらやばかったよね、兄さん」


「大きくて強烈だった。ピグを掴んでいても飛ばされたかもしれない」


 そしてローリーを見て


「それにしてもあの砂嵐でもびくともしない結界を張れるなんてローリーさんは凄いね」


 とまた凄いという兄弟。


「俺はそう言う魔法が得意だからな。それより夕食を食べよう」


 2人の兄弟もローリーから遠慮するなと言われているので彼が収納から取り出した食事に遠慮なく手を伸ばしていく。


「あと4、5日でアクタウに着くのかな?」


 食事を咀嚼し水を飲んだローリーが2人に顔を向けると聞いた。


「そうですね、早かったら4日後の夕方には着くでしょう。そこからリモージュまでは徒歩で3日ですがアクタウからは砂漠じゃなくて草原になるのでずっと楽に移動できますよ」


 その後は砂嵐に会うこともなく砂漠を歩いた3人はアニールの言った通りに4日後の夕刻に砂漠の南の玄関の街になっているアクタウについた。


 街の中に入ると大きく伸びをする兄弟。ローリーも緊張が解けてホッとした表情になる。ここもオアシスを中心にして発達した街だ。カルシが砂漠の北の玄関口、そしてアクタウが南の玄関口として呼ばれておりどちらの街も活気がある。


 砂漠越えの案内人の小屋にも多くの人が集まっていた。


「普段はあそこにいるのかい?」


「そう。ここアクタウとカルシの2つの詰所を行ったりきたりだよ。そうしてだいたい2ヶ月に1度程度の頻度でリモージュの街に帰ってるんだ」


 砂漠の案内人として砂漠を月に1往復して兄弟で金貨10枚ほど。危険は伴うがそれに十分に見合うペイの仕事だ。

 

 2人は友達の家に泊まるということで明日の朝に門で待ち合わせをする。2人とわかれたローリーは宿の部屋に入ると久しぶりに水で体を清めることができた。夕食はアクタウの街の食堂で食べたがここはカルシと違って首都であるイン・サラーやリモージュと言った大都市からそう離れていないせいか食堂のメニューも豊富でトゥーリアの食堂と比べても遜色のない程だった。


 久しぶりに柔らかいベッドの上で休んだ翌日、3人はアクタウを出てリモージュの街を目指す。アクタウからリモージュまでは草原でしかも何人もの人や馬車が通っていたせいか道ができていた。


 前を歩く兄弟も難所の砂漠ではなく安全な街道を歩いているせいか身体に力が入っていないのが後からでもわかるほどだ。ローリーもリラックスして歩いていた。


「この辺りには魔獣はでないのかい?」


「ごく稀に出ることもあるけどリモージュの冒険者達が定期的に間引きをしてくれているので滅多に出ないよ」


 前を歩きながらアニールが言った。都市間の街道の整備や警備具合でその国や地方の状態がわかる。有能な国、領主は住民の安全を優先にし、また商売や旅行者の行き来がしやすくなる様に街道の安全維持に力を注ぐ。一方で自分の私服を肥やす者はそれらを無駄金と考えて投資をしない。結果道路は荒れ、魔獣が闊歩しだしてその道は誰も通らなくなる。


 整備された道を歩きながらローリーはこの辺りの領主がまともな考えを持っている領主だと思って安心する。もっともリモージュには地獄のダンジョンがありそれを狙って日々冒険者と彼らの財布を狙って商人がやってくる街だ。街道の整備をしておかないと冒険者や商人があちこちで噂話を広めていきこの辺りの評判が落ちる。


 草原にはちょっとした林があり直射日光を避けながら歩けるということもありほとんど疲れることもなく草原や林の中で野営をして進んできた3人の前にリモージュの城壁が見えてきた。


「着いたよ、あれがリモージュだよ」


 前を指差しながらアニールが言う。


「大きな街だ」


 ローリーは答えながら前方に見える城壁都市を見ていた。視線を左から右に動かしていくると弟のクマールが


「ここからは見えないけど城壁の左の先の方向に地獄のダンジョンがあるよ」


「なるほど。流砂のダンジョンはリモージュの東の方向にあるのか」


 あのダンジョンの最奥にいるボスを倒せばレアなアイテムが入るかもしれない。ローリーは歩きながら見えない流砂のダンジョンに思いを馳せていた。


 城壁が目に入ってから2時間程歩いた3人はようやくリモージュの街の城門に近づいてきたがそこには長い列ができていた。馬車を引いている商人や冒険者らが中々進まない列に並んで待っている。


「うわぁ、いつもより多いんじゃない、兄さん」


「ああ。こりゃ結構待つぞ、4時間いや5時間くらいかかりそうだ」


 長い列に目を向けていた2人はそう言ってローリーに顔を向ける。


「いつもなら1、2時間待つくらいなんだけど今日は人がすごく多いよ」


「そうか。じゃあちょっと奥の手を使うか。付いてきてくれ」


 そう言うと列には並ばずにその横を歩いて城門に進んでいくローリー。


「抜け駆けしたら衛兵に捕まっちゃうよ」


 後から声を上げながら追いかけてくる2人。その声が聞こえたのか列を整理していた2人の衛兵がローリーを見て近づいてきた。


「おい、ちゃんと列に並ぶんだ。抜け駆けをすると監獄行きだぞ」


 1人の衛兵が強い口調でローリーを咎める。もう1人は背後で槍を構えていた。列に並んでいる商人や冒険者達もことの成り行きをじっと見ている。


「その規則は知っている。ただこのカードだと優先的に街の中に入れると聞いたんでな」


 背後でオドオドしている2人とは違って落ち着いた声でそう言ってローリーは首から垂らしていたタグを胸から出すと衛兵に見せた。それを見た衛兵の態度が急変する。


「ランクS…」


 その言葉が聞こえたのだろう。列に並んでいた冒険者や商人の視線が一斉にローリーに向いた。列に並んでいる人たちがざわざわとする中カードを見ていた衛兵の態度が変わった。背後に立っていた衛兵も突き出していた槍を戻した。


「失礼した。あんたの言う通りだ。ランクSには優先権がある。後ろの2人も君の仲間なのか?」


「そうだ。砂漠越えの案内人で世話になったんだ。一緒に行かせてもらえると助かる」


「いいだろう。こちらだ」


 衛兵について3人は城門の別の入り口に案内される。アニールとクマールはそこで案内人の身分証明書を見せて許可をもらうとそのまま城門を抜けてリモージュの市内に入ることができた。


「凄いよ、ローリーさんってランクSだったんだね」

 

 何回目、いや何十回目かの”凄い”を言う兄弟。


「だからあんな見たこともない結界を張れたりできるんだ」


 感心している兄弟だがローリーの目的は覚えていたらしい。おじさんの家はこっちだよと先に歩き出す2人に続いて街の中を歩いていく。


 砂漠の国の建物は白い色の建物が多い。日光を反射する目的だと聞いたことがある。途中で見たギルドも白い2階建の建物だった。大通りを歩いていくと途中で右に曲がって別の通りに入っていき、そこから5分ほど歩いたところで。


「ここだよ」


 2人が手を伸ばして指差している先には周囲と何ら変わらないこじんまりとした店屋の様な白い建物があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る