第33話

 49層に飛んだ4人。準備をしながら階段の先にあるフロアに時折視線を送る。正面には幅4メートル、高さもそれくらいの洞窟が口を開けていた。そしてこの階段からでも洞窟の中で小型のドラゴンが2体洞窟の通路に佇んているのが見える。


 どう見てもそのランクはSS以上、SSSクラスだ。


「48層のNMよりは弱いが2体いる。どうする?ローリー」


 前を向いたままランディが聞いてきた。ただその表情に悲壮感はない。ローリーもランディの腕前は十分に理解している。


「SSSクラス2体でもランディなら大丈夫だろう。装備も良くなっているし。ランディがタゲをキープしている間に1体ずつ倒していこう。どれを倒すのかはカイとケンに任せるよ」


 今ではカイとケンもランディらの実力をすっかり認識しているローリーの言う通り彼ならドラゴン2体のキープは難しくはないだろうと思っていた。ただそうは言っても何が起こるかわからないのがダンジョン、しかも最深部だ。ランディがタゲをキープしている間に出来るだけ短時間で敵を倒すことが求められる。


「洞窟の中に入らないと奥が予想できないがこのフロアがどんな造りであっても俺たちのやることは変わらない。気を抜かずに行こう」


 ランディの言葉で攻略を開始する4人。ドラゴン2体を倒すとその後も火を吹くトカゲやボム、いずれもSSからSSSクラスが次々と行く手を阻むかの様に襲いかかってくるがそれらを倒しながら長い洞窟を抜けるとそこは火山とマグマの流れている大空洞だった。マグマの川からは熱気がたちのぼりその川の上にはボムが浮いている。そして空にはワイバーンが炎を吐きながら飛んでいた。


「今までの集大成って感じだな」


 洞窟の出口で水分をとって補給している4人。彼らの視線の先にある大空洞の奥に高い山の壁が見えていた。おそらくあの下に次の洞窟があるのだろう。


「空のワイバーンは俺が落とす。3人は地上のを倒しながら進んでくれるかな。ここまできたら小細工はいらないだろう。最短距離で駆け抜けるか」


 ローリーの提案に3人も同意する。コソコソと左右いずれかの壁際移動しても見つかればリンク必至の状況だ。しかも火山があってマグマが噴き出ているこのフロアに関して言えば背後を壁や山にすることがそれほどメリットにならない。ならば中央突破した方が良いだろう。時には大胆な作戦が必要であることをローリーをはじめとして全員が理解している。


 マグマの川から立ち上っている熱気、それに魔獣という厳しいコンディションだが4人はしっかりと水分を補給するとランディを先頭にして大空洞の攻略を始めた。


 前の3人は空を飛んでいるワイバーンは無視して地上の魔獣に集中して次々と倒していく。ローリーは精霊魔法でワイバーンを落とし、回復魔法をランディやカイ、ケンに配りながら3人の後をついて進んでいった。


 もし誰かがこの49層の4人の動きを見ていたらこれが自分たちと同じ冒険者の動きだろうかと思ったであろう。戦闘をしているというよりも演舞を見てる気になるかもしれない。それくらいに4人は絶え間なく動き魔獣を倒しては前に進んでいった。各自がバラバラの動きをしている様に見えるが全体ではまとまっていて一体感があり全く無駄な動きがない。


 空からは次々とワイバーンが地上あるいはマグマの川に落ちていく。地上の魔獣はランディ、カイ、ケンが三方から囲んではあっという間に討伐していた。空にいるワイバーンも地上を闊歩している魔獣も全てSSSランクだがまるで格下を倒している様な雰囲気だ。

このダンジョンで鍛えられた実力と育まれたチームワークで格上を倒して大空洞の先まで進んだ4人は予想通りにそこに洞窟があるのを見つけると中に入っていった。


 洞窟は長さが20メートル弱の短いものだがその中に魔獣の姿はない。カイとケンがすぐに罠の有無を調べたが問題ないとわかると洞窟の中央あたりで立ち止まって小休止する。


 水を飲みながら洞窟の先を見ている4人。抜けた先も同じ様な風景が続いていた。ただし大空洞が広くなっている様だ。


「今の場所よりもかなり広くなってるな」


 そう言ってローリーに顔を向けたランディ。


「少し休んだらこのまま突っ込もう。いい流れで動けている。この流れを止めたくない」


「俺もそう思っていた。いいリズムなんだよ」


 カイが言った。隣のケンも頷いている。全員が同じ感覚を持っている様だ。こういう時はその流れに乗った方が良い。油断はしないと思うがそれを指摘するのは自分の役目だとローリーは思っている。


 しっかりと水分補給をした4人。行くぞというランディの言葉で次々と洞窟を飛び出していった。さっきの広場と同じく空を担当するローリー、地上を担当する3人。魔獣を倒しマグマの川を飛び越えながらひたすら一直線に広場の奥を目指して進んでいく。


 強化魔法、回復魔法をかけ直しながら精霊魔法を打ち続けるローリー。業物であるローブの威力と元からの魔力量で連続して魔法をかけてもほとんど魔力が減ってこない。


「2つ向こうの川を越えたら左だ! その先に洞窟があるぞ!」


 ワイバーンを魔法で落としたローリーが叫んだ。返事がなくとも前の3人に聞こえているのは分かっている。前の3人も次々と魔獣を倒しながら2つ目のマグマの川をジャンプして飛び越えると左に走っていきそこにいた魔獣を倒すと洞窟の中に順に飛び込んでいった。


 最後にローリーが入るとすでにカイとケンの2人が洞窟の中を調べていた。


「ここはやや長めの洞窟だな」


 最後ダッシュしたので少し息が上がっているローリー。


「ドラゴンが徘徊している」


 罠を調べて洞窟の先の方に行っていた忍の2人が戻ってくるとカイが言った。その言葉を聞いてランディとローリーも出口に向かってそこから外を見るとそこは大空洞ではなく荒野の様になっていて空と地上に体長が5メートル程のドラゴンが徘徊しているのが目に入ってきた。そして荒地の中をマグマの川が流れてそこから熱気が立ち上っている。


「見た限り隠れる場所はなさそうだ」


 ケンが前を見ながら言う。


「どこかに安全地帯、あるいは次に続く道があるはずだがここからは見えないのだろう。となるとここでしっかりと休憩して疲れを完全に取った方が良さそうだ。目の前の荒野をノンストップで駆け抜ける羽目になるかもしれない」


 ランディが忍の2人にそう言っている間、ローリーは洞窟の出口近くからその先の荒野をじっと見ていた。確かに見える範囲に隠れる場所はない。正面、左、右と顔を向けてもここからだとどのルートが良いのか判断ができない。ローリーが顔を洞窟に戻すと3人がこちらを見ていた。


「ここで野営しよう。それからの行動についてはここからじゃ判断できない。ただ徘徊しているドラゴンは48層のNMのドラゴンよりもずっと小さい。俺たちなら問題なく倒せるだろう」


「そうだな。俺たちはあのNMを倒しているからな」


 ランディが言った。

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