第32話
ツバル島嶼国に来てこの国にある地獄のダンジョンの攻略を開始して半年以上が過ぎた。いよいよ最下層の攻略の時が近づいてきた。ネフドのリモージュのギルドで忍であるカイとケンに声をかけられて蘇生したばかりのランディと4人でこの国に渡りチームワークと各自の技量を上げながら挑戦してきた通称火のダンジョンと呼ばれている地獄のダンジョン。
途中で気持ちが折れることもなく48層までクリアできたのは各自のスキルもさることながら自分の仲間を蘇生するという強い気持ちがあったからだ。
ローリーは冒険者をやり、そのランクを上げていく途中で気づいた事がある。
それは技量、スキルだけでは格上の敵は倒せないということだ。もちろん戦闘能力があるという前提にはなるがそれだけでは地獄のダンジョンの攻略は出来ない。能力プラス気持ち、気概があって初めて攻略できるものなのだと。
絶対に攻略する。一番強いボスを倒すという強い気持ちを持ち続ける事が出来て初めてダンジョンの最下層が見えてくる。今ではそう信じている。
龍峰のダンジョンもその気持ちで挑戦した。そしてここの火のダンジョンはその気持ちが更に強くなってきている。復活したランディもそうだ。そして忍の2人も今では気持ちを前面に出してきている。
強いパーティになった。ローリーは良いメンバーに恵まれたことを喜び、このメンバーで必ず最下層のボスを倒そうと気合を入れ直す。
しっかりと休みを取った休日3日目の夜、4人は東の島の常宿中にあるレストランに集まって夕食をとりながら打ち合わせをする。
「しっかりと休めたかな?隠し事は無しで頼むぞ」
テーブルに座っている3人を見回してランディが言った。全員が大きく頷いた。よしと一声言ってランディが続けて言った。
「俺は50層がボスがいるフロアだと思っている。つまり49層を攻略した後は階段を降りた場所には地上に戻れる転送盤が無い。そのままボス部屋に入るか攻略した49層を逆走して戻るかのどちらかしかない」
3人は食事の手を止めてランディの話を聞いている。
「アイテムは余裕を持っておこう。最悪のケースは50層に降りた時に安全地帯が無くそのままボスとの戦闘になる事だ。49層から下に降りる階段を見つけても先走らないでくれよな」
地獄のダンジョンの最深層だ。何があっても不思議ではないのでしっかりと準備しようと言うランディ。
「龍峰のダンジョンの最下層はどうだったんだ?」
カイが聞いてきた。
「あそこは50層に降りるとボス部屋に通じる扉があったので扉の前でしっかりと休むことができた。ただ龍峰がそうだからと言ってここも全く同じ造りだという保証は何もない。無いと思って対処しよう。常に悪い方を予想しておけば落胆が少ないからな」
カイの質問に答えたランディはそのまま続けていった。
「明日は9時に出発しよう」
その少し前、リゼのギルマスのダニエルは自分の部屋で手紙を読んでいた。これでもう3度目だ。
「2つ目の地獄のダンジョンをクリアしそうだな」
そう呟いたダニエルは立ち上がると開いている扉から顔を出して秘書のアンを呼んだ。
「ツバルにいるローリーから手紙がきた。ドロシーらはリゼにいるのかな?」
「数日前にダンジョンから戻ってきていましたので今はリゼにいると思います」
聞かれるとすぐに答えるアン。彼女はギルマスの秘書をするだけあって優秀でこの街所属のAランクの冒険者の動向についてはしっかりと管理している。
「ギルドに顔を出したら会議室に呼んでくれるかな。ローリーの手紙だから彼女らも知りたいだろう」
「ツバルにいるローリーから手紙が来たんだって?」
アンに頼んだ翌日の朝、ドロシーらのメンバーがギルドに顔を出したところをアンが声をかけて2階の会議室に案内するとその部屋にダニエルが入って来るなりドロシーが聞いてきた。彼女の他に戦士のケイト、狩人のシモーヌ、僧侶のルイーズ、そして精霊士のカリンと女性メンバー全員が席についている。
「その通りだ」
手紙の内容をドロシーらメンバーに伝えるギルマス。聞いている彼女達は時々驚いた表情になったり納得した表情になったりとしていた。
「ツバルのダンジョンを43層までクリアしてるんだ。ローリーとランディの優秀さは私たちは知っているけど一緒に組んでいる忍の2人も相当やるわね。でないと4人でダンジョンの40層から下には潜れない。何と言っても地獄のダンジョンだからね」
ギルマスの話を聞き終えると戦士のケイトがそう言った。他のメンバーもその通りねと頷く。個人の力量だけで下に降りられるダンジョンではない。全員のレベルが高く、その上にチームワークがあって初めて下層に挑戦できるダンジョンだという事はこのリゼで龍峰のダンジョンに挑戦している彼女達にはわかっていた。
「お前さん達の言う通りだ。俺もそう感じている。ローリーとランディの腕前は俺たちは知っているが彼ら2人だけ優秀でも攻略は厳しいだろう。ツバルの忍2人も相当できると見た方が良いな」
「その手紙には蘇生薬、天上の雫のことは書いてないのね」
そう聞いたのは精霊士のカリン。その言葉に首を横に振るギルマスのダニエル。
「やっぱり最下層かその近くまで降りないと無理でしょう。それでもあるかどうかわからないほどのレアアイテムよ」
そう言ったドロシーだが内心ではローリーなら見つけてくるかも知れないと思っていた。龍峰のダンジョンをクリアしてからの流れを見ていると彼がキーマンになっている。ネフドの鑑定士から始まりエルフの村、そして知り合った忍。全てローリーが動いて接点を作っている。彼ならまたやるだろうと確信に近い物を感じているドロシー。
「手紙を出した時点で42層までクリアしている。今頃あいつらは45層より下に潜っているかもしれないな」
ギルマスの言葉にそれは十分あり得る話。そして2つ目の蘇生薬が出るといいわねと言うドロシー達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます