第41話
「見事なものだ」
片手剣を鞘にしまったランディが言った。
「これが俺の仕事だからな」
矢2発で見事に仕留めたマーカスもしてやったりの表情をしている。ローリーも何も言わないがマーカスにサムズアップをする。ニヤリとして同じ様にローリーにサムズアップしてくるマーカス。
宝箱を開けると中には大量の金貨と腕輪と指輪、そして何かのインゴッドが入っていた。
「こりゃ何だ?」
インゴットを手に持ったランディが言った。ミスリルや鉄ではなさそうだ。色は黒っぽいが全体に艶というか光沢があり透明感もある。見たことがない鉱石だ。とりあえず全てローリーの収納にしまった。地上に戻ったらアラルに鑑定してもらおう。
きた道を戻って洞穴の出口に近づくとそこには魔獣は固まっていない。そう思っていると背後で何かが崩れる大きな音がした。どうやらここも1度切りのNMが湧く部屋だった様だ。
「一度きりのNM戦か。戦利品に期待できそうだな」
崩れた背後を見ていたランディが言った。他の3人も同じ気持ちだ。この洞穴が安全地帯だと確認できたのでこの日はここで野営をすることにする。
「それにしてもNMは強かった」
とランディ。
「マーカスがいなかったら相当苦労しただろう」
「狩人がいなければローリーの精霊魔法で倒すことになったか」
ハンクとランディがそう言ってからローリーに顔を向ける。
「そうなるな。ただ後頭部の隙間は狭かった。あの隙間を通すほど魔力を集中して細くそして魔法の威力を増すのは相当難易度が高い。精霊士じゃそれが出来るのは多くはいないだろう。狩人でもあの隙間をピンポイントで狙えるのはそうはいないと思うぜ」
ローリーはランディとハンクに回復魔法を撃ちながらもマーカスの動きを見ていた。集中力を高めじっとその時を待っていた彼の姿を見て奴なら成功させるだろうと信じていた。普通ならあそこまで集中力は続かないしどうしてもターゲットから目が離れてしまう。ただマーカスは一点をじっと見つめ続けていた。見事だ。
「ローリーに褒められるとやり遂げたって気になるよ」
「いやいや、本当に見事だったよ」
ローリーが思っていたことを言うと謙遜するマーカス。ランディとハンクも流石だと彼を褒めちぎっている。
安全地帯でしっかりと休んで疲れを取った4人は仮眠を終えると48層の攻略を再開する。相変わらず洞窟、そして洞穴というパターンが連続してくるが元々脳筋、前のめりのこのパーティは力技のフロアには滅法強い。迫り来る魔獣や敵を倒して2日目の遅い時間に49層に降りる階段を見つけそこから地上に戻ってきた。
地上に戻ってきた彼らは宿に戻る前にアラルの店に顔を出した。
「流砂のダンジョンをクリアしたのか?」
4人を奥の部屋に案内してからアラルが聞いてきた。
「いや、まだだよ。今日48層をクリアしたところ。その48層で一度切りというNMを倒してね、その時に出たアイテムを鑑定してもらおうと思って」
例によってランディが代表してアラルと話をする。
「一度切りのNM戦か。見せてくれるか。鑑定してやろう」
テーブルの上に腕輪、指輪、そして何かのインゴッドを置いたローリー。アラルはそのインゴッドを見た時に表情が変わった。
「良い物、それもレア中のレアアイテムだぞ」
その言葉で4人がおおっと声をあげる。指輪はアンデッドキラーと言い、アンデッドの敵を相手にすると相手が高い確率で怯むという優れものだ。盾のランディにぴったりの装備だ。
「そしてこれ、この腕輪はアイテムボックスだ」
「「アイテムボックス!!」」
ドロシーらのパーティが1個持っているが元々レア中のレアアイテムの1つで滅多なことではドロップしない。そのアイテムボックスの腕輪が目の前にあった。4人が順に腕輪を手に取ってじっと見て、結局腕輪もランディがすることになる。
「お前が持ってりゃ安心だ」
マーカスとハンクが異口同音に言った。
「俺は収納がある。これからランディにもたっぷりと食料品や飲料水を買い込んでもらおうぜ」
ローリーが言うとわかったとランディが腕にアイテムボックスをはめた。
「それで最後にこのインゴッドだが」
そう言って間をおいて4人を見るアラル。
「お前さんたちヒヒイロカネというのを知ってるか?」
「「ヒヒイロカネ?」」
ローリー以外の3人は初めてその名前を聞いたらしくアラルの言葉を繰り返して言うだけだったが、
「これがヒヒイロカネなのか」
「ほう。ローリーは知っておる様だの」
そう言ったアラルがローリーに顔を向けた。彼は頷くと3人を見る。
「ヒイイロカネ。幻の金属と言われている。この世で最も硬い金属であると同時に永久不変で絶対に錆びない金属と言われている。このヒヒイロカネを使った武器で切れない物はないと言われているがこれを武器にするには相当な鍛冶の技量がないと手に負えない金属だ。俺がリゼにいた時に図書館で読んだことがある」
「その通りだ。今のローリーの説明にわしが加えることは何もない。これもまた幻のアイテムの1つだ。おかげでわしの鑑定スキルがまた上がった様だ」
アラルの鑑定スキルがまた上がる程のレアアイテム。ヒヒイロカネ。このインゴッドを見た時にアラルの表情が一瞬変わったのはスキルが上がったのかと納得するローリー。
「もの凄いものが出たな。ただ鍛冶の技量がないと武器にはならないんだよな」
「そう言うことだ。このまま、インゴッドのままだと宝の持ち腐れになる」
ランディとローリーが話をしているのを聞いていたアラル。
「攻略を急がないのであればそれを武器に仕上げることができるであろう鍛冶職人を一人知っているぞ」
アラルがそう言うと全員が顔をインゴッドからアラルに向けた。彼によるとここリモージュから川沿いに2日程歩いたところにある小さな街とも呼べない程の集落に鍛冶職人がいるらしい。その街の名前はアタクールというらしい。
「偏屈な奴での。リモージュやイン・サラーで商売をやれば大儲けが出来るのに田舎の村に引っ込んで自分の作りたいものだけを作っておる。変わり者だが腕はピカイチだ。行くならわしが紹介状を書いてやろう」
蘇生薬は当然欲しいがそのためには強い敵を倒さないといけない。強い敵を倒すために強い武器を持てばそれが楽になる。4人は相談するまでもなくアラルに紹介状を書いてもらうことにする。
「鍛冶職人の名前はアルバトという。年は50代半ばで一人で窯を持ってやっておる男だ」
そう言ったアラルはその場で紹介状を書いてランディに渡した。礼を言う4人に武器ができたら見せてくれというアラル。鑑定してみたいという。
「レアな金属で作られた武器がどれくらいの性能になるのか鑑定士として興味があるんだよ」
「もちろん。出来上がったらここに持ってくるよ」
49層の攻略は一旦中断となった。
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