第5話
階段はダンジョンのフロアとフロアの階段より少し長いくらいの長さだ。建物で言えば1階半くらいだろうか。降りるとそこは通路になっている。
歩きながらローリーはひょっとしたらと前を歩くランディの背中に、
「これはダンジョンが生成される途中じゃないか」
と言った。
「なるほど。一理あるぞ」
「お前達はダンジョンの生成に立ち会ったことがあるのか?」
後からアルの声が聞こえてくる。
「ない。ないがダンジョンには嫌と言うほど潜っている。この作りはまるでダンジョンそのものなんだよ。そしてダンジョンの生成途中なら地上に強い魔獣がいることも理解できる。ダンジョンとは魔素が濃い場所にできるんだ。そして強い魔獣ほど濃い魔素を好む」
歩きながらのローリーの説明に関心するアル。この二人はこれまでさまざまな経験をしてきたのだろう。言っていることに筋が通っている。
通路の先に明かりが見えてきた。ライトを消して通路を歩いていった4人はちょっとした広場に出る。
「間違いない。ダンジョンだ。まだ生成中だからここにボス部屋があるんだな。これが成長するとボス部屋が地下に降りていくんだろう」
ローリーはダンジョンは地上に近い部分から生成され成長するに連れて地下か上に伸びていくのではないかと見ていた。となるとここは暫定的なボス部屋だ。
その説明を聞いていたランディもローリーの意見に頷きそして
「となると暫定ボスが」
「ああ。出てくるだろう」
二人でそう話するとランディが背後のエルフに顔を向けた。
「アルらはすぐにここから離れて地上に戻ってくれ。もうすぐここにボスがポップする」
「わかった」
そう言うとエルフの二人はダッシュで歩いてきた通路を逆に戻っていった。
エルフらが地上に戻ったであろう時間から十分に時間が過ぎたころ広場の真ん中が光だした。すぐにローリーが強化魔法をランディに掛ける。
魔法をかけ終わったとほぼ同じタイミングで光の中からボスが姿を現した。先ほど地上で倒したボスと同じ種類の魔獣だが一回り大きくなっている。
「なるほど。ボスの分身が地上にいて本体がここだったのか」
「そう言う解釈もできるな」
そう言ったランディがすぐに挑発スキルを発動してボスのヘイトを稼ぐ。さっきの戦闘でランディもローリーも新しい装備でのヘイト管理を身体で覚えたので今回はローリーもすぐに精霊魔法で攻撃を開始する。
ランディは基本先ほどと同じで盾で攻撃を受け止めながら剣でボスの左前足を切り付けていた。
ボスでも必ず弱点属性があるはずだ。さっきは弱点属性を気にしなくても良い程の強さだったがボスは違う。一つ間違うと大怪我あるいは再起不能になるかもしれず早めに相手の弱点を見つけて攻める必要があるとローリーは考えていた。
ランディを見ると強化魔法がしっかりと効いているし体力もほとんど減っていない。なら自分は精霊魔法に専念だと属性順に魔法を撃って相手の様子を見ていった。
水系魔法をぶつけた時のダメージが最も大きいとわかったローリーは戦闘をしているランディに
「弱点は水だ」
「またやっかいだな。時間がかかりそうだぜ」
「ヘイトだけ取っておいてくれ」
「そっちは大丈夫だ。削りは頼むぞ」
そんなやりとりを終えるとまずは傷のある左前脚に水魔法をぶつける。ボスが一瞬足を引き攣る様な動きをしたのを見て今度はランディを睨みつけている顔に水魔法をぶつけた。すると足の時よりもずっとダメージが入っているのがわかる。
水魔法を目にぶつけると頭を左右に振って嫌がるそぶりをするボス。その間がチャンスとばかりランディの剣が足に大きな傷をつけていく。
方針は決まった。ローリーは前足と顔の目のあたりに交互に水魔法をぶつけていく。ローブのおかげで威力はアップしているが消費する魔力は逆に減少している。
元々膨大な魔力量を持っているローリー。立て続けに魔法を連射しても全く疲れてこない。
一方全く攻撃が止まることなく武器と魔法で攻め続けられていたボスはようやく後足でその場で立ち上がった。
先ほどと同じくランディが剣を突き出して腹を裂くその場所に水魔法をぶちこむローリー。さらに水魔法を範囲化してボスの上から豪雨の様に雨を降らせるとボスの動きが急に鈍くなってきた。戦闘を開始して30分以上経っている。
畳み掛ける二人。ランディが剣を一閃すると左前足が綺麗に切断されバランスを崩したボスがその場で倒れ込む。そこにローリーの水魔法が切断面に直撃し、倒れ込んだボスの目と目の間にランディが片手剣を突き刺した!
大きな雄叫びを上げてその場で倒れて目を閉じるボス。
「やったな」
とランディ。
「さっきのやつよりも強かったが二人でもなんとかなったな。装備がよくなってるのがでかい」
ローリーが答えているとボスが光の粒になって消えその代わりに大きな宝箱が現れた。
「ダンジョンクリアということか」
ランディがそう言って宝箱を開けると中には金貨と一緒に片手剣とボスの魔石、そして小さな布袋が入っていた。中を見ると何かの実が2つ入っている。箱の中にガラスの小瓶があるかと箱を探したが残念ながら見つからない。
「そう甘くはないか」
とローリー。
「実は俺も期待してたんだけどな。でもローリー、これで次が決まったぞ」
そう言って手に持った片手剣を持ち上げたランディ。次はハンクだ。
この片手剣はいずれハンクの持ち物になるがそれまではランディが持つことにする。
「今の俺の片手剣よりずっと優れていそうだ」
生成中だったせいかボスを倒しても魔法陣は現れなかったがもとよりここは地下1階だ。最後に広場の奥にあるダンジョンの核を破壊してそれを持ち帰ることにする。
ダンジョンは核を破壊されるとダンジョンの寿命が尽きてこの場ではもう生成されることがなくなる。核のないダンジョンは緩やかに死にむかっていくだけだ。なのでここ以外の大陸ではダンジョンは攻略しても決して核は破壊してはならないと決まっている。ダンジョンで潤っている都市にとってはダンジョンは必要なもので無くなることは死活問題になるからだ。当然破壊した場合には極刑に処せられるのは言うまでもない。
まだ生まれたてのダンジョンのダンジョン核は小さくランディが片手剣を一振りすると綺麗に2つに割れた。割れた核を収納するローリー。
最後にフロアを一瞥して何もないのを確認した二人は来た道を戻って階段から地上に出るとそこには心配そうな顔をしている4人のエルフが立っていた。
「やっぱりダンジョンだった。俺とローリーでダンジョンボスを倒してダンジョンの核も破壊してきた。これでこの場所は大丈夫だろう」
「ボスを倒しダンジョンを破壊してくれて感謝する。我々にとってダンジョンは不要なものだからな」
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