クイーバ大森林
第1話
流砂のダンジョン攻略を始めて1ヶ月が過ぎた。3人は敢えて下には潜らずに25層あたりで鍛錬を続けていた。ランクAが単体で登場するので討伐自体は全く問題がないが連携の確認と金策目的でそのフロアに留まっている。
その日も25層を隅々まで歩きながら鍛錬をしてリモージュの街に戻った3人。明日は休養日にしようと夕食の後で宿に戻って自分の部屋に帰ってきたローリーがベッドにどすんと腰を下ろしたタイミングでベッドに座ったローリーの目の前の空間が揺れるとそこに1羽(?)の妖精が現れた。体長は20センチ程だろう。半透明で向こうの壁が透けて見えている。妖精はローリーの目の前でただ背中の羽を動かして浮いているだけだ。
10秒程浮いていた妖精は現れた時と同じ様に空間の揺れとともに姿を消した。ローリーはすぐに立ち上がるとランディとハンクに声をかけた。
「俺の部屋に妖精が現れた」
その一言で理解をする3人。顔を見合わせるとランディが言った。
「明日の休養は取り消しだ。アラルに話をしてハバルの船を借りよう」
「そうか。妖精が呼びにきたか。間違いないな。彼らの準備が整ったということだろう」
朝一番に鑑定家のアラルを尋ねた3人。アラルはこの前と同じ様に市内を歩いてハバルの家を尋ねるとまた頼むと短く言った。彼の背後に3人が立っているのを見たハバル。そのうち2人は覚えている。前回向こう岸に運んだ冒険者だ。
「わかった。準備をするので2日後の昼前に港にきてくれ」
2日後3人の姿はナタール河に面しているリモージュの港に来ていた。そこには以前と同じく漁師のハバルが船の準備を終えて3人を待っていた。アラルもその場にいて出航の準備をしているハバルと言葉をかわしていた。3人が近づくのを見るとハバルが軽く手を上げてきた。それに応える3人。
「また世話になる」
桟橋でランディが言った。
「構わない。この前の場所で降ろせば良いのか」
「それで頼む」
そう言ってランディが金貨10枚を彼に渡した。前回は多すぎるというやりとりがあったが今回は事前にアラルからも受け取った方がいいと言われていたこともありお礼を言って金貨をポケットにしまう。
「良い話を期待しているぞ」
3人が船に乗ると桟橋に残ったアラルが言った。
「戻ったら顔を出すよ」
ランディの言葉にわかったと言うと最後にハバルと頷きあい、踵を返して街の中に消えていった。3人が船首側に腰を下ろすと漁船が離岸し、川の流れに逆らって上流を目指す。船が川の中央付近に出て上流に向かって動き出すとハンクが口を開いた。
「俺はエルフの村は始めてだ。本当にあったというから楽しみだよ」
「悪い奴らじゃない。むしろ俺たちには友好的でもあった」
ハンクも2人がそう言うのなら間違いないだろうと全面的に信用していた。お互いに長い付き合いだ。
船の中でも相変わらず無口なハバルだが3人は気にしていない。彼が信用できる男だとローリーとランディが知っているからだ。そして船に乗っていると操船技術も相当高いレベルにあることがわかる。
漁船は前回と同じくネフド側に接岸をして一夜を過ごすと翌日の昼頃に上陸地点に着いた。前回上陸したのと同じ場所、小さな浜だ。
「いつになっても良い。この前と同じ様に待っているから俺の事は気にするな」
「分かった」
短い挨拶を交わすと3人はジャングルの中に入っていった。前回はいるかいないのか分からないエルフ探しだった。リゼにいるシモーヌの狩人仲間の知り合いから聞いた言葉だけを頼りにジャングルの奥に入っていった2人。結果エルフは存在し、エルフの村もあった。そればかりかエルフの民の困りごとまで解決している。
そのおかげで蘇生薬を1人分分けてもらう約束が出来た。
「お伽噺でしか聞いたことが無かった蘇生薬にエルフの村。それを本当に見つけ出して来るとはな。ローリー、お前は一体何者なんだよ」
ジャングルで野営の準備をして夕食を食べている時にハンクが笑いながら言った。上陸地点に着いた時刻が昼を大きく過ぎていたこともありこの日にエルフの村まで移動することはできない。ジャングルの中で比較的警戒のしやすい開けた場所で野営をする3人。当然ローリーの結界が貼られている。以前よりもずっと強力な結界だ。
「ツイていた。そう言う事だろうな」
「いやいや、ツイてたツイてないって話じゃないぞ」
「ハンク。世の中にはローリーの様な奴がいるってことだ。これはツキじゃないぞ。こいつは何か俺たちに持っていない何かを持っているんだ。そして一見無駄な様に見えることが全て繋がっている。そしてその無駄な動きが実は正解への唯一の道筋だってのがな。ローリーは好き勝手に動いている様に見えるがそれが全て正解筋なんだよ。こうなるとこいつが何かを持っているとしか言えなくなる。他にどう表現したら良いのか分からない」
ランディが言うとそうだよな、そうでないと説明がつかないと納得するハンク。
持ってる男か…2人のやり取りを聞いているローリー。自分では自分という男がそこまで持っていると思っていない。その場その場でこれが一番良いと思ったことをしているだけだが今でもあの時の判断はあれで良かったのかと自問自答する事が多い。
幸いにして2人が蘇生してきた。今から行くエルフの村でももう1人蘇生させられるかも知れない。ただ最後の1人、ビンセントまで蘇生して初めてやり遂げたと言えるだろう。今はまだ本当に喜ぶことは出来ないと思っているローリー。
これから行く目的地で仮にマーカスが生き返ったとしてあとはビンセントの蘇生薬を探して流砂のダンジョンそして場合によってはクイーバ王国内にある通称森林のダンジョンの2つを最下層まで攻略しなければならない。
まだまだ道半ば、ローリーは気を緩めるのは早いと思っていた。
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