第59話
ランディらはドロシーのパーティが流砂のダンジョンをクリアするまでリモージュから動かないと決めている。50層の地獄のダンジョンをクリアした後でもありドロシーらが戻ってくるまでは完全休養日とした。クリアした直後は高揚感もあり疲れを感じないが、地獄のダンジョンの攻略で大きな疲労が溜まっているのは間違いない。
打ち合わせをした翌日、ローリーは次の攻略地であるクイーバと大森林ダンジョンの情報を集める為にリモージュ市内にある図書館に足を向けた。
入り口で入館料を払って中に入ると時間帯もあるのか殆ど人がいなかった。手持ち無沙汰な司書に声をかけてクイーバに関する書籍や資料を一式揃えてもらうとテーブルに積み上げたそれらに目を通していく。まずはクイーバについてだ。
クイーバ共和国。ナタール河南部の大森林を含む大国ではあるが国土の大部分がその大森林であり未開の地がまだまだ多い。首都はマセイオ。この国には国王と呼ばれる一族はいない。元々は未開の地であったここを開拓した開拓民の子孫達が貴族となり彼らの中から交代で首相と呼ばれている国のトップが選ばれている。
南国でもあり住民は温厚でのんびりした性格の者が多い。時間にルーズなのもこの国の特徴らしい。クイーバ時間と呼ばれており約束から1時間以内であれば遅いとはならない。マセイオ市内のレストランで食事を注文してから料理が出てくるまで1時間近く待つのはこの国では普通だという。
どうやら南国で時間軸がずれている様だと書物を読んでいるローリーは思った。他の本や資料も読み、クイーバという国の概略を掴んだ彼は次に大森林のダンジョンについての記述を読む。
大森林のダンジョンがあるのはクイーバ共和国にあるカシアスという街の郊外でマセイオからだと陸路で2日ほど。一方でナタール河にあるカシアスの港からは半日程で行ける場所にある。大森林ダンジョンの付近にはダンジョン攻略をする冒険者相手の小さな街ができており、そこにも宿やレストランがあるらしい。
ダンジョンについては文字通りダンジョンの中が森林になっており、深い森の中を進みながら下層に降りていくスタイルでそのダンジョンで出てくる魔獣も森に生息している様な動物に似た魔獣が多い。といっても未クリアダンジョンだ。記載されている情報もせいぜい20層か25層くらいまでのだろう。
ローリーは読んでいた資料から顔を上げた。森林のダンジョンか。視界は悪いだろうし下に降りれば雨が降っていたり霧が出ていたりと条件が更に悪くなるのは間違いない。ひょっとしたら木や枝に擬態している魔獣がいるかもしれない。
一旦書物から顔を上げたローリーは椅子の背にもたれて顔を天井に向けた。
今までのダンジョンとはまた違う性格を持っているダンジョンだ。あとはこの資料からは読み取れないが、力技だけで攻略できるのかそれともギミックや罠を散りばめているのかあるいは両方か。このあたりは実際に攻略しないと判断ができないので今はこれ以上考えるのは止めよう。
一通り資料を読み終えたローリーは図書館を出ると市内のレストランで一人で食事をし、その足で今度はリモージュのギルドの資料室に足を向けた。ギルドに顔を出したのが昼過ぎの中途半端な時間であったこともありギルドのロビーは閑散としており資料室にも誰も他の冒険者がいなかった。
棚から大森林のダンジョンに関する資料を取り出して読み始めるが図書館で読んだ資料と大差ない内容だ。ここには流砂のダンジョンがあるし大森林のダンジョンは他国のダンジョンだ。資料が少ないのも当然だ。
ただギルドの資料の中で一点ローリーが気になる記述があった。リモージュ所属の冒険者が大森林のダンジョンに挑戦した時の記録だ。その中に、
ー 透明な蜘蛛の糸に絡まれて仲間が死んだ ー
という記述があった。何層とは書いていないが下層ではないだろう。今までのダンジョンにはなかった魔獣の攻撃スタイルだなとローリー。襲いかかってくるのではなく魔獣が罠を張って冒険者を待ち受けている。擬態するのやら罠を張っているのやらがいる。闇雲に突っ込んでいけば良いというダンジョンではなさそうだ。しかも下層に降りていけば更にややこしいのがいるかもしれない。いや間違いなくきっといる。
龍峰のダンジョンは地元だから以前から情報が入っていた。そして予定外というか急にツバルの火のダンジョンに挑戦することになった。ツバルについては事前情報は持っていなかったが組んだ相手が忍で地元の人間だった。ここ流砂のダンジョンはギルドや酒場である程度の情報を入手することができた。
今度のクイーバについては今の所情報が全くない。
事前に知識を詰め込むと消化不良になるがある程度の知識は必要だと考えているローリー。資料を読んで大凡のイメージを抱くことができたと判断する。
ローリーは今まで3つクリアしておいてよかったと思うと同時に、3つクリアしてるから大抵の事態には対応できるとだろうという自信もあった。
宿に戻るとちょうど夕食時で食堂に入るとそこにはマーカスが一人で座っており挨拶を交わして同じテーブルに座るとすぐにランディとハンクも部屋から出てきて結局4人で食事をすることになる。
「休養日初日は結局部屋でゴロゴロして疲れをとってたよ」
ランディがそう言うと他の二人も俺もだと言う。ローリーが自分は図書館とギルドの資料室に出向いていたと言い、そこで見た次の大森林のダンジョンについて知り得た情報をその場で仲間と共有する。
「なるほど。今までのとは毛色が違うダンジョンの様だな」
話を聞き終えるとランディが言った。彼の前には辛い料理とビールがある。ネフドで長く滞在してるせいかここにいる4人全員がネフドの辛口料理にハマっていてどの料理も味付けは辛目になっている。注文した料理が各自の前に置かれていた。
「イメージとしちゃあ森の中を延々と歩いて下に降りる階段を探す感じか」
「下層に降りたら道がないだろう。前方の視界も木々が生い茂っていたら広く無い。きつい条件だな」
ローリーの話を聞いていたマーカスとハンクが思ったことを口にしている。ランディとローリーもその通りだと二人の話に頷いていた。
「それよりも透明な蜘蛛の糸ってのが引っかかるな」
辛口料理を食べてビールをぐいっと飲んだランディが言った。
「その通り。本当に透明なのかどうかはわからないが今までのダンジョンとは違って罠を張って俺たちを待ち構えている敵がいるってことだ。このタイプの魔獣は今まで経験がないぞ」
「前のめりになって突っ走ると罠に嵌るってことか」
そう言うことだろうと言ったローリーが続けた。
「いずれにしてもだ。実際にダンジョンに潜ってみたら傾向が見えてくると思う。他の冒険者の受け止め方と俺たちとが違うかもしれないしな。まぁどこに行っても俺たちはいつも通りやるしかないと思っているんだ」
その通りだと頷く3人だった。事前の知識は知識としてインプットするがそれを全面的には信用しない。自分たちの判断が結局は一番最適解になっているのを知っている4人だった。
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