第49話

 翌日体を動かす目的で普通のダンジョンを攻略していたランディらが戻ってくるとそれを宿の1階にある談話室で待っていたドロシーらのパーティ。そのまま宿のレストランに移動してドロシーが自分たちの考えをランディらに伝える。


「いいんじゃないかな。無理やり、ゴリ押しで攻略できるほど地獄のダンジョンは易しくない。自分たちがそう判断したのなら俺は何も言わないよ」


 ランディはそう言ってから他の3人にどう思うかなと聞いてきた。


「よく立ち止まる決断をしたな。見事だと思うよ」


「そうそう。普通ならイケイケになるところだ。しっかり足元を見ているなんて流石にリゼのトップクラスのパーティだぜ」


 カイルとマーカスが続けて言った。


「俺も3人に同意だ。良い決断だと思う。自信がないのをちゃんと自信がないと言える勇気は見事だよ。俺たちが49層を100%クリアできるかどうかは分からないが、攻略できたら包み隠さず報告しよう。ボス戦についてもしかりだ」


「悪いね、助かるよ」


 ローリーが話し終えるとドロシーが言った。


「それでだ俺たちが先、そっちが後。まぁ順序はあまり関係ないんだが」


 そう言ってローリーが地獄のダンジョンのボスからのドロップについて話だした。最初に倒した時にレア中のレアアイテムがドロップる確率があるが2度目以降はその確率が下がるのではなくゼロになると考えているんだと。


「ボス戦が終わったらドロップ品を教えてくれないか。それを参考にしたいんだ。ただ順序に関係なく初見でのクリアだと良いものがでる可能性があるけどな。ドロップ率が落ちるのはレア中のレアだけかも知れないがとにかく検証してみたい」


 そう言って話終えたローリー。男性陣は事前に聞いていたので特に何も言わない中ケイトがローリーを見て言った。


「その可能性は高そうね。攻略方法がわかれば難易度は数段階下がるものね」


「そうなんだよ。それでだ、俺たちはもしここにいる2つのパーティから天上の雫が出なかったら2度目の流砂のダンジョン攻略はせずにクイーバに移動するつもりだ。そっちはクリアしたらリゼに戻るんだろう?」


 以前彼女達が言っていた。リゼのトップ2のパーティが長期間不在となっていて高難易度のクエストの消化率が落ちているだろうから帰ってそれをフォローしなければならないと。ローリーの言葉にその通りだと女性5人が頷いた。


「それで構わない。俺たちはクイーバに向かう。そっちはタイミングを見て龍峰のダンジョンに挑戦してくれよ。今のドロシーらの実力なら力技がメインになっているあの龍峰のダンジョンクリアは難しくない」


 ローリーが言ったあとにランディが言った。


「リゼのギルマスにはよろしく言っといてくれよな。戻るのはもう少し後になるかも知れないって」


 ランディの言葉を聞いたドロシー。


「ここで蘇生薬が出たら一番いいんだけどね。もし出なかった時はリゼでギルマスのダニエルに伝えとくわよ。ランディらはまだ大陸をうろうろしてるって」



 ヒヒイロカネを使った武器が出来上がるまでの間はダンジョンで身体を動かしながら時間をつぶしていた4人。ちなみにドロシーらも同じ様に普通のダンジョンで身体を動かしていたが彼女達は20層のダンジョンをクリアすべく攻略中だ。流砂のダンジョンに挑戦し始めて一部装備の質も上がり何より5人全員のスキルが上がった今では20層のダンジョン攻略に関しての障害は何もなかった。結果的に普通のダンジョンを2つクリアし、金貨やボスの魔石の引き取り代金などでメンバーの財布が潤った様だ。


 そうしてアルバトから指定された日、ランディら4人はアタクールの一軒の鍛冶屋の前にいた。彼らの姿を見たアルバトが店の奥から出てくると4人を見て言った。


「約束は守っとるぞ。ばっちり出来ておる。奥に来い」


 彼にに続いて4人が店の奥に行くと作業場の木のテーブルの上に片手剣が2本、片手斧が1本置かれていた。形は確かに預けた自分達の剣だが色合いが全く異なっていた。刃の部分を中心に赤みがかった色合いになっている。色は刃の部分が一番赤が濃く、それが徐々に薄くなっている。テーブルに近づくとアルバトが2本の片手剣と斧を指さして言った。


「難しい事は省くが、要は従来の剣と斧の鋭利な部分、魔獣を切り裂く刃の部分にヒヒイロカネを細かく粉砕してから均一に練り込んだ」


「「練り込んだ??」」


 ランディとハンクが同時に声を上げた。ローリーもびっくりした表情になる。マーカスだけは訳が分からないのか表情を変えていない。


「削るのも大変な金属だと聞いている。それを他の金属と一緒に練り込んだのか」


 ローリーがそう言うとその通りとにやりとしたアルバト。その言葉を聞いてマーカスも目の前の鍛治師がとんでもないことをやったのだと気が付く。


「それが俺の鍛冶スキルの1つだ。普通じゃない処理をすることができるんだよ」


 ドヤ顔のアルバト。そして彼のスキルだと聞いて納得するローリー。アラルが紹介するだけあるなと目の前の親父を見ていた。アルバトがいうには練り込んだ事により強度はもちろん、耐久性も以前よりずっと強くなっているそうだ。


「今までの片手剣についていた付帯効果はそのままでさらに切れ味が数段鋭くなっている。重さもほとんど変わらないだろう。もちろん斧についても同様だ。遠慮なく使って、思い切り振り回しても大丈夫だ。俺が保証する」


 そう言ってから手に持ってくれと言う。


「重さは変わっていないな」


 ランディが言うとハンクもスナップで剣を振り下ろしながら差を感じないと言う。


 その後店の奥にあるミスリルの人形を切ってみろと言われて剣を振るった2人はその切れ味にびっくりする。


「こりゃ凄い。今まででも切れやすいと思っていたが段違いだ」


「ああ、まるで紙を切ってる感覚だ」


 2人の試し切りを見ていたアルバトは満足気な顔付きになっていた。


「ヒヒイロカネを打ったことでまた俺のスキルが上がった。ここにある3本の武器は会心の出来だよ」


「想像以上の仕上がりになっている。これなら戦闘がずっとしやすくなるな」


 ランディがそう言うのを聞いていたローリーも全く同意見だ。武器の威力が上がれば事故の確率が下がりこちらの成功の確率が上がる。当たり前の話だが相反する状況になる。そしてその差が大きければ大きいほど攻略しやすい。自分達にとってこれはウエルカムだ。


「本当に金は要らないのか?」


 今なら払うぞといった表情で話かけるランディ。


「くどい。要らないと言ったら要らないんだよ。それよりもまた新しくて面白いものを見つけたら持って来てくれよ」


「分かった。世話になった」


 ビンセントが使う予定の斧はローリーが収納に納め、4人はアタクールからリモージュの街に戻るべく河沿いの道を歩き始めた。これで49層に挑戦する準備が整った。


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