第4話【目的と生命】
――――〝応接室扉前〟――――
ここに来るのは、初めてだな。
私の身長よりも大きく、さすが協会と言わざるをえない程、豪華な装飾をされている。
(この先は、お前一人で行け)とでも言ってるのだろう。
ミフィレン1人見知らぬ土地に置いていくのは心もとないが仕方がない。
奴は依然と私の方へ向き直り、扉を開けている。
着なれないせいかドレスの裾を踏みそうになり、前のめりになる。
面倒くさいが手で捲し上げ、ミフィレンの目の高さまで腰を落とし合わせる。
「ちょっとだけ、中で話ししてくるから、
大人しく待ってるんだぞ?」
安心させるため「ニッコリ」笑うが、またも機嫌が悪そうに「ムスッ」としている。
下を向いている、頭を「ポンポン」と二撫ですると、扉の向こうへ歩きだす。
【ピーン】とドレスが引っ張られ、危うく転びそうになる。
後ろを振り返ると、泣きじゃくりそうな顔でこちらを見ている。
目元は涙で零れ落ちそうだった。
(そうか...ずっと二人でいたもんな...寂しいよな。)
気持ちを察した私は、小さな手を掴みミフィレンの手に炎魔法で犬を造ってやった。
魔法に関しては繊細な方だから、ちゃんと燃えない様に調整してある。
よく一人で造っては、寂しさを紛らわしたもんだ。
本物の生き物のように、手のひらを動き回る、事実――――魔法は寂しい気持ちを紛らわせ、ほのかに温かさを与えた。
「パァッ」と明るい表情になり、その小さな体はミフィレンの周りを駆け巡る。
内緒にしてるが、とっておきの副効果として何が有っても守れるようにおまじないをかけておいた。
「ノーメン、犬っコロ、ミフィレンを頼んだぞ!」
小さく手を振る私に、腕を組み無言を貫くノーメンとミフィレンは小さな体に大きな身振りをし快く送ってくれた。
「行ってらっしゃい!」
協会中に響かせる程の声をあげ、私はそれを聞くと中に入り重く硬い扉が鈍い音と共にゆっくりと閉まる。
――――〝応接室内部〟――――
目の前には、いかにも偉そうな老年の男が椅子に腰かけている。
両隣には、いかにもな護衛の男2人が立っている。
森で研ぎ澄まされた感覚のせいで殺気が伝わってくる。
ガラス張りのテーブル越しに話しかける
「よく、きた。ニッシャよ、そこへ座れ」
声色は低く、それでいて聴き取り辛かったが何となく対面の椅子へ座った。
お上品とかそこら辺は、わからないけどとりあえず足を組む。
(私の美貌をもってしても鼻を伸ばさないどころか、視線すら送らない。全く、お堅い職業は嫌だねぇ)
このドレス風通し良くて気持ち悪いけどまぁいいだろう。
協会の人間だけあって、どこか威厳を感じられる。
着席を見かねて、腰を曲げ前屈みになり両の手を目の前で組みテーブルに肘をつきあわせる。
「それでは、本題へ入ろう。協会は世界の永久の安定を構築するため、総力を上げ大精霊の一部をその身に宿している6人を探している」
ニッシャは興味なさそうに、煙草に火をつけ煙を上に吐きつける。
元々、話何て興味もなく気だるそうな態度をとる。
護衛は、私が相応の態度をとらなかったせいで2人同時に臨戦態勢に入るが
それを止めたのは、他でもない老年の男だ
。右手で護衛達に合図を送る。
「まぁ待て、お主達2人はおろか、今の協会の総戦力でも、こ奴を足止めする所か、まともに相手も出来んよ……フォッフォッフォッ」
冗談なのか誠なのか、読めぬ爺さんの戯言は置いといて。
「んで?何で私を呼んだんだ?精霊探しならお宅らの優秀な部隊とセリエ、ノーメンがいるんじゃないのか?」
右手の煙草で目の前や扉の方を指す。
切れ長の鋭い目で睨み付けると、そいつは深いため息をした。
「緊急事態なのだ。今までは不恰好ながらバランスを保っていたが、あることがきっかけでお前を頼らざるをえなかった」
そう言って珈琲を口に含ませる。
カップを置き「カタッ」という音と共に続ける。
「我が協会には、精霊を現在確認しており、使役者が三人おる」
消滅する記憶〝シュハメナス〟
荒天を司る〝カウラスとチイノス〟
そしてニッシャ、お主の
炎燃で灰に帰す〝レプラギウス〟
「この3体は、比較的容易に見つけ保護することが出来た」
ニッシャを見つめるがその目には光はなかった。
「私は別に、あんたらに世話になった覚えはないけどな」
足に仕込んだ煙草のストックがなくなったが、胸を指で触れると胸元から煙草が飛び出し、窮屈に挟まった状態で吸いだす。
(通常の人間ならこう、思うだろう。煙草になりたい、と)
そんなニッシャを他所に続け様に話す、
残る精霊は3体であり、その姿や名前は伝記でしか記されておらず存在は確かだがもはや伝説とされている。
時を司る〝セントキクルス〟
水の守護神〝イメサリス〟
そして……と話を
「ガタン」という音と共に余程重大な事柄なのか顔面蒼白の男が息を切らせながら喋りだす。
――――〝協会内部の広場〟――――
協会中央には、憩いの場である広場があり、天井はなく青い空が広がっていた。
回りでは皆が笑顔で争いはなく、とても穏やかな空間だった。
柱にもたれ掛かる男は子守りを任されたが、今までのどの任務より難解であると頭を巡らせていた。
(任せたと言われたが、どうしたらいいのやら)
中央には噴水があり、任務を終えた者や、見学者で活気がある。
「ニッシャの犬可愛いー!!」
甲高い声でそう言うと、嬉しそうに
投げたボールをキャッチしてはミフィレンの回りを颯爽と駆け回っている。
体が炎で出来ているが、温かい程度であり燃やす力はない。
手のひらサイズと小さな体ながら、通常の犬のように利口であり主人に忠実である。
生命を造りだす程の、技量と
(犬も可愛いが、あの子も可愛いなぁ)
ノーメンは無口であるが、心の中はおしゃべりである。
元気に遊ぶミフィレンを見て感心していると柱の裏側から声がした。
「ニッシャは連れて来られたようだが、まさか、おまけ付きとはね」
それを聞きすかさず返答する。
「あぁ、だが仕方がない、あんな小さな子を置いていったりしたら可哀想だからな。」
マスクの下はどうあれ、少し照れ気味で話しているのは言うまでもない。
「なんだお前、随分と気に入ってるじゃねえか?」
男はノーメンの態度が余程珍しいのか不思議そうに返す。
(あの時不思議なことが、あったんだ。ニッシャの闘争心を煽るためあの子どもを消したんだが、知らぬ間に
と言っている気がするがそこはスルーした。
「まぁ、いい、ニッシャには気をつけろ。特にあの子関連はヤバイかもな」
そういい残し男は姿を消した。
「この子、造ってもらったの!凄いでしょ!」
ミフィレンを中心に
同じ位の子ども達は、近寄ると純粋な眼差しでミフィレンとその犬を見つめる。
(いつの間にこんなに人が……見失ってしまう。)
ある中年の男性がミフィレンに話しかける。
「もしもし、その魔法は誰がかけたのかな?もしかして、お嬢ちゃんかな?」
犬が肩に止まりくすぐったいのか、身震いをし、優しく元気に答える。
「ううん、違うよ!!これはね。ニッシャが御守りのために造ってくれたの!!」
(ニッシャ!!!)と聞くと一部の観衆は(ざわざわ)と波風をたてるように動揺しはじめる
誰かが「ぼそり」と呟いた。
「ニッシャってあの、
またある者は、
「また、あの悪夢が起こったら大変だわ。もう協会で討伐するべきよ!!」
周りの大人達は、動揺を隠せないのか、子どもを抱き寄せ、またあるものは根も葉もない話をしている。
誰かが言った。
あの子はもしかしたら、あの【ニッシャの子】ではないかと。
その、一言が火種となり、蜘蛛の子を散らすように広場の端へ散りはじめる。
その目は、好奇な目や、まるで化け物を見るように表情を歪ませるものもいる。
噴水の水が規則正しく流れるなか、辺りの人々は恐れおののき子ども達は何が起こったのか理解出来ていない様子。
訳もわからなく泣きわめき喧騒と悲観が包み込む、一人「ポツン」と取り残されてしまったミフィレン。
やれやれと、ノーメンが止めようとしたその時、地鳴りのような音が聞こえてきた。
足元はぐらつき立っていられないほどの振動が人々を襲う。
警報がなり、緊急事態に備えた
甲高く聞き取りづらい音が、辺りに響く。
口早に話し、焦りが伝わってくる。
「ただいま、都周辺におかれましては危険生物の襲来が確認されました。ただちにシェルターへ入り安全を最優先にしてください。」
その言葉を聞いた民衆はパニックを起こし、我先に避難所へ走り
そんな中で足を
「尚、危険生物におかれましては対危険生物討伐部隊が参りますのでご安心ください。」
親とはぐれ、泣く子に近寄るミフィレンは自身と同い年であろう女の子と一緒に両親を探すことになった。
――――〝応接室内部〟――――
老年の男は一睨みすると、若い男は黙って出ていった。
外が騒がしいが、扉が閉まると内部は
「なんで、こう次から次へと問題が起こるんだよ...!!」
苛立ちを隠せず、ミフィレンが心配になり立ち上がろうとする。
男は依然冷静であり淡々と話をする。
「まぁ、そう慌てるな。たかだかlevel-Ⅱが数体とそれを統率するⅢがたったの一体、この都の軍事力には到底及ばんよ。珈琲でも飲んで落ち着きたまえ」
外は緊急事態宣言が宣告されていたが、異様な落ち着きぶりに私は釈然としなかった。
今すぐにでも、出て「
この都にいる限り私の行動は制限され、下手な問題を起こせば即刻牢獄行き何てこともありえる。
ここに足を運んだ時点で、私の答えは「YES」以外の選択肢何てなかったのかもな。
――――〝協会
協会の精鋭隊延べ200人、対危険生物討伐部隊300人計500人で迎え撃つ。
「くそ!!何故いきなり、危険生物が押し寄せたんだ!」
そんなことを言うのも無理はない。
この
「大丈夫だ問題ない。我々は通常通り任務をこなそう」
〔
(完全迷彩のその体長は5Mであり、猛毒を含む尾と針は6M程ありここまで大型なのは稀である)
〔
(数万匹の手の平サイズが塊で群れをなす。その中に1匹いるとされる女王が軍を統率している。)
〔
(主食は主に虎やその他猛獣である。劇毒酸性の液体を吐き、耐熱耐冷性の糸はどんな炎でも燃えず、どんなに冷えようと凍らない。その耐久度およそ10tと超強高度である。)
〔
(環境の変化により突然変異したとされる。全長4Mと大柄であり、完全肉食で強者の血肉を吸収したことにより、文字通り鋼の肉体を手に入れた)
――――〝協会内部広場〟――――
ノーメンにとって非常事態でも、態度は依然変わらず只、与えられた任務をこなすのみ。
――――ノーメン……ミフィレンを任せたぞ。
だが、今のところ犬の方が役に立っているな。
(やはり、己が可愛い人間ばかりだ。自身の保身の事しか考えられない愚かなものしかいない)
人混みに巻き込まれ足を怪我したらしい女の子が、赤ん坊を抱いたまま動けないようだ。
そんな中、自身も怖い筈なのに同じ目線に合わせたのが、ミフィレンだった。
「大丈夫?私ミフィレン!あなたは?」
肩に犬が乗った状態で座り込む女の子に手をさしのべる。
手を握り立ち上がると同時に犬がミフィレンとアイナを行き来する。
不思議な事に、小さな擦り傷などが治ってゆく。
「私、アイナ。お母さんと一緒に来たの。
あなた優しいんだね。この魔法のお陰で不安が和らいだわ、ありがとう……」
持ち前の明るさと魔法の温かさもあいまってか、落ち着きを取り戻す。
外部では、危険生物襲来で協会内部に常駐する、部隊が出払っている。内部に先程の喧騒はなく荒れた広場は静寂だった。
ノーメンは腕を解き小さな3人へ歩きだす。
(ミフィレンは任されたが、あの小さいのは誰だ。任務に支障がなければいいが)
その時だった、広場上空の吹き抜けの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます