第105話【決意の修行編その6】

 小難しく偉そうな事を長々と話す髭面に対し、いまいちパッとイメージが湧かないニッシャ。


 首をかしげ、吸い終えた煙草を胸元へ仕舞しまいながら言った。


『んで……その〝境界線を越える〟ってのは、つまりどういう事だ?実際に私自身、ドーマからを教わった訳じゃないから、何とも言えないけどさ――――こう見えてセンスは抜群だから出来ると思うぞ?』


『成長しても説明聞かないタイプだったな……』とドーマは髭を手の甲で触れながら小声でそう言うと、大木を挟んだニッシャの方へ振り返り、意図も容易く障害物を消し去りながら告げた。


『〝百聞は一見に如かず〟ってな。今から、お前がまだ見ぬ領域――――〝Ⅳ速〟を見せてやる。しっかりと


 集中力を高めるために眼を閉じ、力を込めるように拳を眼前へと向け、基本の形態である〝初速〟から始まり、やがて〝Ⅱ速〟となり、次いで〝Ⅲ速〟と、徐々に魔力の回転速度を上げる事により、ほとばしる火花が体中を駆け巡り始める。


 費やした時間の経過と共に、魔力の熱量は急速に上昇していく。


 同じ技とは思えない程の〝圧力〟に、思わず一歩、また一歩と後退していく足。


 あまりの〝熱量〟に発汗と蒸発を繰り返すが、視線だけは〝まだ見ぬ光景〟に釘付けであり、呼吸を忘れてしまう程、無我夢中で眺めていた。


 やがて、ドーマの体からはまさに〝紅蓮の炎〟を具現化した、膨大な質量の魔力が溢れ出ており、今までニッシャが使ってきた〝Ⅲ速〟とは比べ物にならない程に、より凄まじく、より強く、より熱く、そして――――


 今では〝火速炎迅〟ながら、見惚れてしまう程の輝きを放っていた。


 その姿はまるで〝炎の精霊〟であり、人としての形はまだ保たれてはいるが、〝境界線を越えたことにより〟へと近づいた。


 光景を目の当たりにしたニッシャは、口元から落ちる癒しの煙草を気にも止めず、ドーマから発せられる言葉を聞いた。


『ニッシャよ。これを〝人知の超越〟と呼び、〝火速炎迅かそくえんじん〟を造り出したでさえここまで編み出すのに、想像を絶する程の膨大な時間を費やしたんだ。』


『まぁ、ここまでの会得難易度は有にlevel-Ⅳといった所だろうな――――さて、〝朱天の炎〟さんよ……修得する覚悟は出来てるだろうな?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る