第106話【決意の修行編その7】


『私に覚悟があるかって?そんなのっくに出来てるさ!!』


 一点の曇りもない朱色の瞳を見開きながら、力強くそう言ったニッシャ。


 右の拳を前へと突き出すと〝火速炎迅かそくえんじん-初速〟を発動した。


 燃えたぎる魔力を体内に巡らせながら、徐々に回転数を上げていく。


〝Ⅲ速〟を何の不自由もなく発動したニッシャは、燃え盛る様にうねる髪の毛は1番変化が出やすい。


 次いで手足には炎をその身に纏う様に燃え広がり、大気を震わせ天上へと届きそうな魔力でも、


『ここまではイケるんだが、いつも火速超過オーバーヒートしちまうんだよな……』


 草木は灰となり地を干ばつさせる程の熱量を持つ、〝Ⅳ速〟を保ちながら近付くドーマは、ニッシャの炎を己の炎へと変換していき、あと一歩が踏み出せない愛弟子に優しく言った。


『先ずは身体の力を抜き息を整え、内から溢れる魔力を全身へと巡らすんだ。そして何よりも……』


 2つの炎のかたまりは片方が歩み寄る様に助言を告げた。だが、そう言う性分のせいなのか、ニッシャはそれを素直には聞き入れなかった。


 一体何故か?理由は至極単純な話であり、誰にでもある感情だ。


 ニッシャは人一倍……否、物心付く頃から男だらけの職場に居たせいか、はたまた生来の性格のせいか定かではないが、それが強い。


 そう――――〝もの凄く負けず嫌い〟だったからだ。


『そんな事位わーってるよ。私は私のやり方で境界線って言うのを髭面ドーマが出来たんだ……その弟子の私が出来なきゃ奴も悲しむだろ?』


 そう言ってニッシャは静かに眼を閉じると、自身の魔力の熱を感じながら、ゆっくりと、そして着実に全身へと行き渡るように操作を行う。


 呆れた表情でそれを見守るドーマは内心こう思っていた。


(ニッシャがあまり話聞かないタイプだと、ドーマ本物から聞いてはいたが、精霊との心身一如しんしんいちにょ――――これは中々骨が折れるな……)

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