第155話【生まれた理由と存在意義その6】


 ――――〝散乱した室内〟――――



 ドーマは日頃、口癖の様に〝後でやる〟〝いつかやる〟〝多分やる〟と、何かにつけて言っていた。


 そんな、定型文の様な台詞を言う奴は大抵、


『嫌だ。めんどくさいよ~』と言えば最後、その度に出来の良い娘に足蹴りにされ、愛する嫁に泣き付く日々。


 過去に自宅滞在時は、心優しき理解者である嫁と鬼娘に対して、尻に敷かれながらも生活を共にしていた。


 ――――時に、羽を伸ばして自由を手に入れた男の1人暮らしとは、〝凄惨〟の一言だ。


 見るも無残に散乱、数ヶ所程の穴の空いた部屋を片付けず、目が覚めると真っ先に〝食欲〟を優先する。


 気合いを入れる様に両手を数度合わせて鳴らすと、袖を捲り上げながら『今日は、新しい家族が増えたから気合いを入れてスペシャルメニューを作るぞ!!』と、意気揚揚と半壊した台所へ立つ。


 特別製の耐熱エプロンを着用し、食材を夕飯の準備は整った――――



 シレーネの住民から寄付される素材を使った〝丸々に肥えた魚〟と〝新鮮な肉類〟――――それを〝火速炎迅かそくえんじん〟を使う事により、素材本来の旨味を引き出しながらも瞬時に加熱調理をする。


 勿論、火加減は調整済みであり、真の力を解放さえすれば街さえ地獄絵図と化す事を、誰よりも理解しているのは


 本来ならば街はおろかこの世界全てを焼き付くす事等、至極単純で造作もない――――だが、それは


 歴代最強と言われた男でさえ、死ぬ間際の生命力を〝炎の精霊〟へと注いでも叶わぬ願いだった。


 後に、ドーマが己の全てを掛けて育て上げる事を誓ったのが、他でもない――――朱天の炎と呼ばれた愛弟子の〝ニッシャ〟である。


 将来的に〝炎の精霊〟を託すと共に、自らが編み出した〝火速炎迅〟を伝承し、師弟関係となる二人。


 しかし――――この時のニッシャは、まだ暴れ足りないのか、目が覚めて台所で調理中のドーマの背中を拳や足で猛打している。


 揺れるニッシャの朱髪と、同じくなびいているドーマのお気に入りエプロン。


『えいっ!!やぁっ!!あたしが、この中で1番強いんだあっ!!』


 しかし――――真剣に調理をしているせいか全く持って相手にされず、ニッシャの体力尽き果てても尚、一切効いている様子等なかった。


 危険度level-Ⅱ程度ならば、数撃で倒せる幼きニッシャの攻撃を受けても、調理姿勢を崩さず微動だにしないドーマ。


 料理を作っているとは思えないほどの爆発音と、大量の黒煙を発しながらも『はいはい~。もう少しで出来上がるから、大人しく待ってるんだぞ~!?』と、ご機嫌な顔で振り返える。


 その姿は夕飯を作る〝母親〟の如く――――とはいかないが、気分はそのつもりだ。


 ニッシャは、いままで見たことない不気味な笑顔スマイルに、生命の恐怖を感じたのか、一歩ずつ後方へと下がる。


 足元を見なかったせいで壊れた家具につまずき、そのまま尻餅をつく。


 嗅覚を襲う匂いと耳を塞ぎたくなる様な爆発音の中で、その不思議な光景を大口を開けながら呆然と眺めていた。


 一方のセリエは、手慣れた指先で風の椅子を造り、頬杖を着きながら遠くを見ている。


(――――必要以上の感情は与えられていないし、むしろお断りだ)


 だからと言って、独断で何をする訳でもなく、通常通りとだけ思っている。


 

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