第154話【生まれた理由と存在意義その5】


 息の合った二人の言葉に『おいおい、不味いとは失礼だな。こう見ても


 そう腕捲うでまくりをしながら自慢気に話すと、鼻息で大量の煙がセリエへと噴出される。


 部屋中に充満する程の白い煙は、ゆっくりと範囲を広げる様に空気を染め上げていく――――


 すっかり高揚していた気分が冷めたセリエは、無表情のままで、すかさず〝風魔法〟を発動させ直撃を避けた。


 〝モーセの十戒〟の如く分岐した大量の煙は、少しだけ不貞腐ふてくされたニッシャを包み込む。


 強化された肉体のニッシャでさえ、には精神的な大ダメージを隠せなかった。


『ゴホッゴホッ!!クソッ!!、新手の〝呪術魔法〟か!?――――何かみたいな臭いもするぞ……』と頭を悩ます。


 悪臭に耐えきれないニッシャは、膝を着きながら『息が苦しい……ちくしょう。あたしもこれまでか……こんな……ところで……』と、〝死亡フラグ〟を量産している。


 痙攣さえ起こしているニッシャに近付くと、大根役者も驚愕する棒読みで『大丈夫かニッシャ~ッ!!誰がこんな事を~!?』と、下手な芝居で乗っかるドーマ。


 剛毛なびく手を伸ばし介抱しようとする。


 しかし、手負いのニッシャは女の子とは思えぬ程の俊敏さで、見上げるほどの天井付近まで垂直に飛んだ。


 軽やかに宙を舞うニッシャと、その美しさのあまり『おぉっ……』と顎髭を触りながら見惚れるドーマ。


 空中で女の子特有の柔軟性を駆使しながら、体を捻り爆発的な威力を生み出す。


 勢い付いた片足をドーマの後頭部へ向けると、10歳らしからぬ延髄蹴えんずいげりを放つ。


 通常――――出てはいけない『ゴキャアァッッ!!』と言う、日常生活では聞きなれない音が部屋中を包み込む。


 常人ならだが、〝炎の精霊の使役者〟は持ちこらえる。


 何とか首と胴体が別れずに済んだドーマだったが、


 奇しくも少女に倒された、〝酒煙の炎ドーマ〟――――だが、気を失おうとも腹の虫は鳴り止む事を知らなかった。


 卑怯な程に不意討ちだが、ニッシャは一撃で沈めた事を大いに喜び、両拳を握り締めながら獣の如く吠えた。


 その行為は――――〝勝利の余韻〟と〝底知れぬ満足感〟による物だが、これ以降……


 一方セリエはというと、茶番劇をする二人に冷ややかな視線を向け『アホくさっ――――』と、小さく呟きながら鼻で笑う。


 ドーマが目覚める〝数秒間〟で、『あそこの家、凶悪なペットを飼っている』と噂になったのは、まだ先の話である。


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