第37話【現れし闇】(暴食編その7)

 止まった針は再び規則正しく動き始めると、まるで夢でも見ていたかのようにまばたき程の間隔かんかくで光から闇へと切り替わり、万足センチピードは消え、ただそこに取り残され呆然とたたずむ二人の男だけがそこには居た。


 意識朦朧の中で名言を残し格好良く倒れる準備をしていたノーメンだが、目が覚めるように起きると状況を理解できないのか、【整えられた服装】 、【元通りのマスク】に【腐敗していた筈の体】を隅々まで確認しどこにも異常がないことに嬉しさはなく、得たいの知れない恐怖を感じ硬直してしまう。


 一方セリエは、涙で歪んだ目の前の事態を憶測と仮説で組み立て、納得したのか再び風魔法で宙へ浮かび、呆然と立ち尽くすノーメンの肩を叩き暗闇の中笑みを浮かべ、「次は勝手に死ぬんじゃねぇぞ……相棒」と一言告げるとそれに答える様に【友】とハイタッチを交わす。



「ところで何が起こったんだ?」と言いたげなノーメンに対し、少し間を空け自分なりの解釈で返答する。


「この、見の毛もよだつような感覚に瞬間的な出来事……間違いなく【】の仕業だ」


「奴?」首をかしげ、顎を擦りながら考えるが答えは一向に出ず、数秒経って痺れを切らしたのか続け様に話す。


「6分割された大精霊の一部にして最強と言われている、【時を司る セントキクルス】の使役者がここに居たんだよ。恐らく偶然ではなく、いた可能性が高い」


 冷静沈着で頭の回転が速いセリエは、自分の仮説をこう告げる。


「俺たちが来る少し前には、危険種が蔓延はびこる、この【深淵の渓谷】で暴君殺戮タイラントデス芋虫ワームで殺すと挨拶がてら瀕死のノーメンさんを助け、万足センチピードを消すと【コレ】を置いていったんだ」


 子犬タイニードックを出現させ、差し出された手の平を覗くと指ほどの大きさの骨がそこにはあった。


「この意味わかるか?」と問いかけると、再び硬直したためマスクの奥の眼を琥珀色の瞳で見ながら得意気に話す。


「一見何の変哲もない骨なんだが、あるところにしかの一部なんだよ。そこは一流の魔法使いですら立ち入りを禁じられていて、その昔、あまりの死者を出したため協会内部ではこう呼ばれている―――【晦冥かいめい奈落ならく】ってさ」


 そう言って協会へ情報を持ち帰るため、歩きで渓谷をくだるノーメンに対し、魔法で浮いているため岩壁どころか荒れた地形をもろともしないセリエは、最後に後ろ向きで右指を4本立てるとこう言い残した。


「ちなみにこれ【推定危険度】な」


 頭を抱え、「やれやれ」と首を振ったノーメンは、子犬の灯りを便りに、そそくさと先へいくセリエの後を追いかけた。


 片や一時的だが瀕死の状態まで追いやられていた一方で、そんな事が起こっているとは露知らず、慣れない子育てをしている一人の成人女性が居た。


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