第174話【VS〝一輪の炎〟圧倒的な格の違いその9】
外では、先ほど落とした煙草を〝勿体無い〟と言う理由で、纏めて口に入れて吸うドーマ。
大量の煙が視界を覆い不明瞭ながらも、〝音〟を聞いて状況把握していた。
彼に言わせれば『元気が有り余った子ども達が、単純にじゃれているだけ』……何ら特別な事ではない。
部下を見守るのも隊長の務めであり、一種の〝親心〟……と言う事にしないと、面倒事に巻き込まれるので静かに見守りの眼差しを向ける。
(どうも同じ年頃の子を見ると、アイナと重なって見えるんだよな。そういえば、もうじき誕生日か……何も用意してねぇや)
普段なら吸い終わると握り潰す箱でさえ、静かに胸ポケットに仕舞い優しく撫でる。
〝誕生日プレゼントはこれにしよう〟
――――そんな声が聞こえてきそうだ。
(もう、良い大人だから喜ぶだろう。嫌、俺なら大喜びで跳び跳ねる位だ!!自分が貰って嬉しいものは相手も喜ぶ!!)
不適な笑みを浮かべながらも、煙を吐き続けるドーマを見た部下達は、少しだけ距離を置いた……ついでに心の距離も。
そんな隊長を尻目にギケとテンザは、目の前で巻き起こる出来事を無我夢中で見つめる。
ニッシャとレミリシャル両名は、女性特有のしなやかな身体を持ちながらも、常人では想像もつかない程の力を宿していた。
その烈火の如き速さと鬼神を彷彿とさせる気迫に、〝魔法壁〟越しでも圧される待機メンバー。
ギケは余程手持ち無沙汰なのか、自らの〝
『ひっひっひ……あのニッシャって言う女、ありゃぁ強いぞ?俺じゃぁ、秒も持たないな。あんたはどう思う?』
と、病的な迄に不健康体の男が、隣の〝
〝一輪の炎で唯一構ってくれる人〟。
事、ユリシャやドーマに相手にされず、やっと話し掛けられたテンザは、まるで子どもの様に目を輝かせながら
『勿論、ご存じの通り私も無理ですよ!!見て感じて触ってみなされ、この立体的な腹と短い手足を!!』
ギケの不気味かつ気味の悪いジョークにも腹や手足を駆使して、まるで太鼓の様に鳴らして答えるテンザ。
その姿、1人で幾重もの音を奏でる奏者の如き独創性と、病んだ魂に優しく染み込む心地よい音色。
いつの日か幼き頃に母が唄う子守唄のよう――――
睡魔に襲われたギケは、試験そっちのけで静かに重い瞳を閉じ……なかった。
第一にこんな状況を目の当たりにして、間近から肌で感じ取りぐっすりと眠れる人間はそうそういない。
『嫌嫌、危なく眠るところだったぜ。転職をお薦めしたいくらいだ。とても夢心地の気分をありがとよ』
『次は歌をサービスしましょうか?またのご利用をお待ちしておりますぞギケ殿!!』
『あぁ、あんたの性格は好きだけど、素直に褒めた俺が馬鹿だったわぁ~。所で――――〝魔法壁〟の耐久時間はどうだ?』
『それなんですが、持って後……20分が良いところじゃないでしょうかね?!』
『早っ。それってマジで言ってるのか?』
『えぇ、本当ですとも!。ユリシャ嬢だけで全体の〝50%〟を破壊されましたから!』
『おいおい……。それは、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?人間の……しかも入団試験の新人に本気になるのはどうかと思うぜ?』
体毛で埋まる百点満点の笑顔を見せるテンザと、大人げない同僚に動揺が隠せないギケ。
そんな男達の心配を他所に中にいる2人は、決して離れないと錯覚してしまうほど、指を絡ませながら力比べをしていた。
まるで恋人同士の様に〝離れたくとも離れられない〟
と言えば聞こえがよくとも、彼女達にとっては互いに殴り殴られる範囲に、身を置いているに過ぎない。
『ん゙ん゙ん゙っ。可愛い顔して、あんた案外と強いじゃんか!?』
『今まで、この顔を見た奴は誰1人としていない。それが私の一族の掟だ!!』
力で圧されるニッシャは足が地へと埋まり、顔はまだあどけなさが残る、怒りに満ちた少女の表情を眺める。
もし仮に、レミリシャルが魔法を使用したのならば、相対するニッシャの勝率は0に等しい。
只でさえ、炎魔法のみに特化した体は弱点が多く、属性魔法を操る相手には圧倒的に不利を強いられてきた。
しかし、条件付きとはいえ互いに素手での戦闘となれば、勝負の結果は大きく異なる。
生まれついた身体能力も去ることながら、任務や訓練で身に付く技術に加えて、圧倒的な経験値が場を支配するためだ。
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